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見えてくる彼の真意

  「私のギルドから消え去れ!」


  全ての魔法陣から一斉射撃される、冷気を帯びた弾丸。多方面から一度に魔法を操るのは、確かにレベルの高い者にしかできない。

  そして、前の時とは違い、本気でアイルを狙っている。生身の柔な肉体など容易に貫通し、文字通り蜂の巣となるだろう。しかし、アイルはその場から退こうとしない。


  「遅い」


  まずは顎を軽く持ち上げる。首元を通り過ぎる一撃。続いて、身体を前に傾ける。すると、今度はすぐ真後ろを氷の弾が通過する。その後も最小限の動きで、全ての攻撃をかわしていくアイル。

  身体強化の延長で、視覚を強化したのだ。これにより、弾速は目で追える程度にまで下がる。 "力"の微細な調節ができれば、さらなる強化ができるが、そこは未だに課題が残る。

  例えば視覚。一度(ひとたび)出力を上げると、もはや攻撃が完全な静となって見えてしまう。だが、それに身体が付いて行かず、永遠とも思える時間を過ごすことになるのだ。それに合わせるため、身体強化の出力をあげると、一歩踏み出そうとしただけで地面が沈み込み、足が取られそうになるという弊害も。インフェルノはある程度の制御が可能になったが、覚えたての魔法では一か百の選択しかできない。


  「今のを全て避けただと…… ?」


  「まさか、これで終わりですか?」


  あまりに拍子抜けだったので、ついアイルは口が滑ってしまう。元最強ギルドの副リーダーなら、もう少し派手な魔法を使うと思っていたのだが。


  「舐めるな…… ! この程度、まだ序の口だ!」


  意図せず出たアイル挑発は、レナードの心に火をつけるのに申し分ない着火剤となってしまった。

  アイルの足元から眩い光。彼はすぐに飛び退った。地面を突き破って出てきたのは、先端の尖った氷柱。高さは周りの木々と並ぶほどだ。


  「余計な事を言ってしまったな……」


  アイルは自分の失言を後悔する。

 

  「これで終わると思うな!」


  アイルの着地と同時に、また真下が輝いた。彼はさらに後ろへと飛ぶ。だが、今度は着地前に次の氷柱が。

  身体を貫かんとする氷柱の突き上げ。彼は空中で身体を捻り、ギリギリでその尖頭を避ける。だが、それで終わりではなかった。


  「はあっ!」


  空中に展開したままだった魔法陣。そこから鋭い煌めきが覗く。直後、氷の棘が雨の如く降り注いだ。さらに、真下では新たな氷柱が生成されようとしている。

  上下から襲うそれらは、まるで顎門(あぎと)を広げ獲物を喰らおうとする巨大な魔物だ。

 空中歩行でもできなければ、着地まで行動が制限される。その隙を狙った攻撃だ。


  「これで終わりだ」


  勝ちを確信したらしく、レナードの口角が邪悪に歪む。

 しかし、その技を持ってしても、アイルが取り乱すには至らない。先端にさえ当たらなければ、氷柱など単なる滑らかな棒に過ぎないからだ。そして、それは空中にできた新たな足場に他ならない。

  アイルは先ほどと同じ要領で氷柱を避ける。そして、安全な側面部分を片足で蹴り、大きく距離を取った。

  耳をつんざく大音響と共に、凍てつく牙が荒く閉ざされる。


  「なっ!?」


 レナードの笑みは一瞬にして崩れた。

  なるほど、とアイルは空中で感心していた。相手の次の行動を予測し、そこに迅速かつ性格に魔法を仕掛けてくる。今のところ魔法の威力はタレスと同等かそれ以上と言ったところだが、その位置把握の速さと確立された戦法は一級品と呼べる。相当な鍛錬をしたに違いない。

  だが、これが彼の本領なのだろうか。


  「もう降参してくれませんか? 別に俺は逃げたりしませんので。もう少し丁寧に調べてくれれば、俺が烈風炎刃のメンバーでないとわかるはずです」


  「ふっ……」


  「レナードさん、聞いているんですか?」


  万策尽きたはずのレナード。しかし、彼の表情に諦めの色は見えない。

  歩き出そうとして、ようやくアイルは違和感に気づいた。


  「なんだ…… ?」


  下を向くと、アイルの片足の周りに透明な結晶がまとわり付いていたのだ。それは既に地面にまで根を張っていてる。

  先ほど氷柱を蹴飛ばした時に、種となる氷が付着したのだろう。あの合わせ技が外れた時の保険をかけていたのだ。しかも、この罠に相当なマナを割いているらしく、今の身体強化ではビクともしない。むしろ、こちらが本命だったのかも。


  「ふはは! 笑いを堪えるのが大変だったよ! 自分の方が上だとでも思っていたか? 慢心してろくに周りも見ず、見事に足をすくわれたな!」


  レナードの言う通り、まんまと彼の術中にはまってしまった。スキア・サラマンダー討伐の時もそうだが、黒魔術という武器を手に入れても、戦闘経験の乏しさが足を引っ張る。これの改善は"力"の調整よりも大事なことかもしれない。


  「確かに貴様のマナ保有量は私のそれを超えている。それは認めよう。だが、単純な魔力だけが力というわけではない。戦術を含め、これが私の実力だ」


  レナードは勝利を全身で感じるように、両手を広げた。

  やはり。アイルはそんなレナードの動きに目を細める。

  先程から、どうも彼は自分の力を誇示したいように見える。アイルをギルドから破門にしたいだけなら、こんなところにおびき出す必要はない。彼の本意は、ただアイルを打ち負かしたい。その一点に限るのではないか。


  「大丈夫だ。私は氷晶の薔薇副リーダー。こんな輩に負けるはずがなかったのだ」


  もはや、それはアイルに向けての言葉ではない。


  「これで今度こそ終わりだ。貴様を完膚なきまでに叩きのめす」


  周りに浮かぶ魔法陣が重なり、一つの魔法陣へと変わった。そこから顔を出したのは、円錐状の巨大な先端。


  「アイル!」


  悲痛に叫ぶライラに向け、アイルは手で静止を促した。


  「確かに、少し甘く見ていました。さすがは最強ギルド、氷晶の薔薇の副リーダーですね」


  アイルが賞賛すると、レナードは満足したように頷く。


  「ですが、こんなに猶予を与えてくれるなんて、慢心していたのはあなたも同じです」


  「なんだと?」


  アイルの足元がメキメキと音を立てて、割れていく。既に"力"は百に上がっていた。

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