表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

45/107

一通の手紙

  まだ正午前だというのに、黒魔術に関する碌な情報が得られず、既にアイルは徒労感でいっぱいだった。


  「悪い、ライラ。こんなはずじゃなかったんだが……」


  「私は大丈夫。記憶が無くても不便なことなんてないし。お家にはふかふかのベッドもあるし、今の生活は結構楽しいよ。それに、私のために頑張ってくれてるってだけでも、嬉しいから」


  「ライラ……」


  いつに無く饒舌なライラ。嘘偽りない心からの言葉なのだろうが、アイルを慰めてくれようとしてるのは明らかだ。彼はそれ以上何も言えなくなる。


  「あ、でも、早起きして依頼に行くのはちょっと嫌かも」


  場を和ませようとしてくれたのだろう。ライラの気遣いを無為にして、いつまでも暗い顔をしてるわけにはいかない。


  「そうだな。帰ったら、依頼の時間をずらせないか、ソフィアさんに打診しておこう」


  「うん、ありがとう」


  ライラは小さく笑う。

  何となくだが、背中にのしかかっていた重荷が軽くなった気分だ。


  「おーい!」

 

  後ろから子供の声が聞こえる。続いて、細かい間隔で近く足音。それは、ちょうどアイルたちの真後ろで止まった。


  「ねえ」


  明らかにアイルたちに声をかけている。誰だろうと振り返ってみると、案の定知らない子供だった。だが、その目は他でもないアイルをしっかりと見ている。


  「俺か?」


  「うん。はい、これ」


  子供が差し出してきたのは、二つ折りにされた白い紙。


  「これは、手紙…… ? 俺たちに?」


  「うん。さっき男の人に頼まれて」


  「男の人?」


  わざわざ子供を介して手紙を渡すなんて、どういう了見なのだろう。


  「名前とか聞いたりしてないか?」


  「ううん。銀髪の女の人と一緒にいる、黒髪の男の人に手紙を渡してくれって言われただけ。フードを被ってたから、顔も全然わかんない」


  「そうか…… わかった、ありがとう」


  アイルが礼を言うと、子供は踵を返し駆けていった。


  「誰からかな…… ?」


  「さあ」


  興味津々といった感じのライラにも見えるよう、アイルは二人の間で紙を開いた。


  「これは……」


  『お前の秘密を知っている。今から一時間以内に、北西にある遺跡に来い。他の人間に助けを求めれば、この秘密を公にする』


  アイルは手紙から目を離すと、素早く周囲を見回した。街を行き交う群衆、家屋の屋根、路地裏に続く建物の間。しかし、こちらの様子を窺っているような怪しい人間はいない。


  「この手紙って……」


  隣から手紙を覗いていたライラが、少し遅れて反応をする。


  「脅迫文といったところか」


  「でも、誰が? 秘密って黒魔術のことなのかな?」


  「俺の秘密なんて、そのくらいしか思い当たらない。そして、そんな事を知っている奴は数えるほどしかない」


  アイルの脳裏には、三人の人物が浮かんでいた。だが、その内の一人は既に王都にはいないはずだし、仮にいたとしても、彼を脅すような愚行は犯さないはずだ。そして、もう一人は子供の伝言とは性別が食い違う。よって、消去法からたどり着いたのは、未だ再会を果たしていない一人の少年だ。


  「行くの?」


  「ああ。何にせよ、黒魔術のことを公言されたら、俺たちは普通の生活が送れなくなる。ライラはギルドに戻っていてくれ」


  あまり遅くなると、本当に黒魔術のことを暴露されるかもしれない。しかし、そんなアイルの袖が引っ張られた。


  「私も行く」


  「いや、呼ばれているのは俺一人だけだ。ライラは危ないからーー」


  「アイルに何かあったら、嫌だから」

 

  その真剣な声音は、簡単に引いてくれそうもない。


  「だが……」


  「師匠の命令」


  アイルは目を丸くした。あんなに師匠と呼ばれるのを嫌がっていたのに。それほど心配しくれてるということか。


  「わかったよ、師匠。でも、黒魔術を使うのは最終手段だぞ?」


  「うん!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ