三章 新たなる絆 8
「……うっそ」
あわてて会場を見ると、ポエトラとチサラが手を振って別会場へ向かっていく。ということは五〇二四番は呼ばれたわけだ。
「ちょ、次はぼくでしょうが」
なんの音沙汰もない真石拡声へ愚痴りながら通路に飛び出て、猛然と試験官へ詰め寄った。
「あ、あのぼくまだ呼ばれてないんですが」
「ううん? 何番だね」
少々厳つい顔した試験官へダンは受験番号票を手渡す。
「五〇二五? ……あぁこれね。君の担当はあっちだ」
会場の反対側を見た試験官につられ振り向くと、青い服を着た一組の男女が舞台へ上がってきた。
あれって。
首を傾げるダンへ、
「さぁ君の番だ。選びたまえ」
試験官から木剣と真石を提示され、ダンはしきりに記憶を辿りながら木剣を取り、舞台へ上がっていく。
そして近づくにつれ、ダンは目を見開くことになる。
二人ともあきらかに学生ではない。年齢が、ではなく着ている服がまったく学生じゃなかった。
ありゃ守護警士じゃないの。
しかも二人だ。
ざっと見て、もじゃもじゃした頭髪姿の男が木剣を手にしている以上、相手は彼なのだろうが、なぜ二人いるのかがわからなかった。
彼女、審判なのか。でもなぜ守護警士が……。
「どうして」
疑念が口をつくダンに構わず、黒髪の女性守護警士が微笑んで声を掛けてきた。
「ごきげんよう、ジェスラさん」
「あ、はい。ど、どうもはじめまして」
疑念に囚われ、緊張も頂点に達していたダンがどもって答えると、瞬く間に彼女から笑顔が消えていく。
「はじめまして?」
「は?」
寒気を感じて聞き返したダンは、改めて女性守護警士を見た。
薄い唇に高めの鼻梁、そこへ黒く切れ長の瞳がダンを睨んでいる。
え?
誰しもが認める気品と美を持つ女性であるが、そんな人物などダンの知り合いに居るわけがなかった。強いて言うならウララぐらいだが、彼女が親しげな挨拶をしてくるはずもなければ、眼前の美とはまた別の次元にあるように思えてならなかった。
で? 誰だ。
未だ首を傾げるダンに、対戦相手の男が堪えきれずに吹き出す。そこへ女性守護警士の涼やかな声が響いた。
「ホージィ守護警士」
「はっ。申し訳ありません」
睨まれた男、ホージィがあわてて敬礼を取ると、女はさっさと説明をはじめた。
「あなたはこのダメ男で最低な守護警士、ホージィと戦ってもらいます。いいですか、今回の結果如何であなたの合否を確定します。よろしいか」
「え、あ、はい」
よろしいか、と聞くがすでに舞台は整っている。
よろしくない、なんて言えるかよ。
などと思うも決して口にしないダンであったが、ふと気になって問い返した。
「ところで筆記は?」
「あれは気休め。あとから覚えれば良いのです。現実はつねに命のやり取り。今はどの程度できるのかが主題です」
「はぁ。なるほどぉ」
納得しつつ、ダンはダメ男と対峙してみる。
どの程度ねぇ。どの……って相手は守護警士。最低でも守護警士。え?
状況をようやく理解したダンが、対戦相手へ探るような視線を向けたとき。
「では、はじめてください」
淡々とした開始の声が聞こえ、眼前の男がゆっくり木剣を中段に構えた。




