第三十五章 —— フロンティアにはフロンティアのルールがある
第三十五章 —— フロンティアにはフロンティアのルールがある
紬が朝食を終えたばかりの時、ランが真剣な表情でリビングルームに入ってきた。
「船長、市場が再開されました。」
紬はスプーンを置いた。
「よし。ボリンとの取引を完了できるな。」
ランは首を振った。
「そう簡単にはいきません。問題があります。」
「どんな問題だ?」
「ボリンは我々にチタンを売れません。貿易当局が、凍結前に交わした契約は無効だと言っています。」
紬は眉をひそめた。
「無効? 確かに契約書にはサインした。」
「契約は凍結前に交わされましたが、執行は凍結中でした。当局は凍結中の全ての取引は自動的に無効になると言っています。」
紬はセラフィエルを見た。
セラフィエルが頷いた。
「これはフロンティアの標準的な規則です、紬。凍結は既に合意された取引も含め、執行が凍結中に行われる全ての取引に適用されます。」
「つまり、その取引は失われたのか?」
「完全にではありません」とランが言った。「仲裁を申し立てることができます。フロンティアにはこの種の商取引紛争を解決するための仲裁制度があります。」
紬は眉をひそめた。
「仲裁?」
「はい。メイラスクには独立した商取引裁判所があります。商人間の紛争を扱っています。その判決は法的拘束力を持ちます——少なくともこのフロンティア地域では。」
紬は考えた。銀河の法制度と関わるのはこれが初めてではない——リラディスでランを助けた時のことを覚えている。しかしこれは違った。単に契約書を読むだけではない——正式な法的手続きだ。
「わかった。仲裁を申し立てよう。」
ランは頷いた。
「書類は既に準備してあります。今から仲裁事務所に行けます。」
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メイラスクの仲裁事務所は、商業取引所の近くの小さな建物にあった。部屋は簡素だ——中央に大きな木製の机、両側に数脚の椅子、そして机の向こうには鼻先に眼鏡をかけた年老いた男性が座っている。
「おはようございます」と男性が言った。「私はヴェイラン判事です。解決すべき商取引紛争があると聞きましたが?」
紬は椅子の一つに座った。ランはその隣に座った。
「はい。ボリンという商人とチタンの購入契約を結びました。契約は凍結前に交わされましたが、執行は凍結中でした。貿易当局はその契約は無効だと主張しています。」
ヴェイラン判事は頷き、ランが提出した書類を読んだ。
「そしてボリン氏は?」
「ボリン氏は仲裁に応じることに同意しています。彼も来ます。」
数分後、ボリンが重い足取りで入ってきた。彼は紬の向かいの椅子に座り、読み取れない表情で彼を見つめた。
「よろしい」とヴェイラン判事が言った。「全員揃いましたね。始めましょう。」
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仲裁手続きは約一時間続いた。
紬は注意深く耳を傾けながら、ヴェイラン判事がフロンティアの規則——凍結がどのように機能するか、契約がどのように評価されるか、紛争が通常どのように解決されるか——を説明するのを聞いた。彼はフロンティアにも確かに法律があることを学んだが、それは中心部の星系とは異なっていた。ここでは、判事の決定は硬直した規則よりも証拠と紛争当事者間の合意に基づいていた。
ボリンは断固とした口調で話した。
「私はその契約が有効であることに同意します。破棄するつもりはありません。しかし貿易当局は凍結中は販売できないと言っています。私には選択肢がありませんでした。」
紬は彼を見つめた。
「あなたはどうしたいのですか?」
ボリンはため息をついた。
「チタンを売りたいのです。ただし凍結後の価格で——凍結前の価格ではありません。」
ランは立ち上がりそうになった。
「でも凍結後の価格はもっと安い!」
「それは承知しています。しかしそれが適用される市場価格です。古い価格で売るわけにはいきません。それでは私が損をしますから。」
ヴェイラン判事が手を挙げた。
「落ち着いてください。公平な方法で解決できます。」
彼は紬を見た。
「星崎船長、あなたのご意見は?」
紬は考えた。古い価格に固執して長期の紛争に発展させることもできる。あるいは新しい価格を受け入れて取引を迅速に完了させることもできる。
「新しい価格を受け入れます——ただし一つ条件があります。」
ボリンは眉を上げた。
「どんな条件だ?」
「今後の購入で優先権を得ることです。将来的に再び購入する機会があれば、最初に我々に申し出てください。」
ボリンはしばらく考えた。そして頷いた。
「同意する。」
ヴェイラン判事は微笑んだ。
「賢明な判断です、船長。この合意を記録に残します。」
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仲裁事務所の外で、ランは感嘆の表情で紬を見つめた。
「船長、優先購入権を獲得しました——それは値引きよりも価値があります。」
「わかってる。フロンティアでは、一時的な金よりも関係性の方が重要だ。ボリンとの関係を築ければ、将来的により多くの利益を得られる。」
ランは頷いた。
「おっしゃる通りです、船長。おっしゃる通り。」
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彼らは取引を完了するために商業取引所に戻った。凍結後のチタン価格は確かに下がっていた——凍結前より約十二パーセント安い。紬は失望しなかった。彼はこの可能性を既に計算に入れていた。
支払いを完了した時、ボリンが紬に近づいてきた。
「船長、この問題の解決方法には感謝しています。他の多くの商人なら怒って紛争を長引かせるでしょう。あなたは違いました。」
「取引がスムーズに進むことを望んでいるだけです。」
ボリンは頷いた。
「今後またチタンが必要になったら、連絡してください。最良の価格を提示します。」
紬は微笑んだ。
「覚えておきます。」
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アストレオン内で、紬とランは取引の結果を計算するためにリビングルームに集まった。
ランはタブレットの数字を見つめた。
「五十トンのチタンを、計画より十二パーセント安い価格で購入しました。つまり約一万五千GCの節約です。そして将来の優先購入権も獲得しました。」
紬は頷いた。
「よし。今度は買い手を探す必要がある。」
「既に候補がいくつかあります。隣の星系にエンジン部品用のチタンを必要とする工場があります。連絡を取ってみます。」
「頼む。」
レアが部屋に入ってきた。
「船長! 良い知らせがある。」
「何だ?」
「護衛契約が無事に終わった。全て順調だ。それに別の機会について情報を得た。」
「どんな機会だ?」
「ヴァスケリル小惑星帯に、海賊の襲撃から保護を必要としているステーションがある。報酬は二万GCだ。」
紬は考えた。
「ヴァスケリル? ここから近いのか?」
「FTLで数時間だ。それほど遠くない。」
「わかった。受けよう。」
レアは微笑んだ。
「もう申し込んでおいた。」
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夜、紬はコックピットの窓の前に立ち、遠くのメイラスク・ドック・セツルメントを見つめた。
今日はフロンティアについて多くのことを学んだ——法律について、仲裁について、ここの人々がどのように問題を解決するかについて。彼はフロンティアが混乱した場所ではないことを理解し始めていた。そこには独自のシステム、独自のルール、そして生き残る方法を知っている人々がいる場所だった。
「セラフィエル。」
「はい、紬?」
「今日、何かを学んだ。」
「何をですか?」
「フロンティアでは、書かれたルールよりも関係性の方が重要だということ。ここにいる人々は互いに信頼し合っている——他に選択肢がないからだ。」
セラフィエルは一瞬沈黙した。
「それは正確な観察です、紬。フロンティアは評判が最も価値ある通貨となる場所です。」
紬は頷いた。
「ここから評判を築いていこう。」
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【次回予告 第三十六章 —— 「ヴァスケリルからの救難信号」】
ヴァスケリル小惑星帯への旅の途中、セラフィエルが緊急信号を検知する——海賊に襲撃された船だ。紬は助けるか、契約先への旅を続けるかの決断を迫られる。
【第三十六章へ続く…】




