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第2-4話:【朗報】大陸統一規格を作りました。不便な魔導具はリサイクルに出しましょう。――旧勢力の妨害? ログはすべて取っていますわ。

 静寂が、レオン市の広場を支配していた。


 つい数分前まで街を飲み込もうとしていた紫黒色の魔力台風は、私の放った中和術式によって完全に霧散した。

 空には皮肉なほど澄み渡った青空が広がっている。


 広場の中央、無惨にひび割れたアヴァロンの尖塔の麓で、先ほどまで「伝統」を叫んでいた賢者たちは、力なく膝を突いていた。


 彼らが縋っていた「神秘」は、私の「標準規格(スタンダード)」という名の現実の前に、あまりに無力に砕け散ったのだ。


「……信じられん。我らが数百年かけて研鑽を積んできた術式が……こんな、記号と数字だけの無機質な偽物に上書きされるなど……」


 老賢者の一人が、震える声で呟いた。

 その瞳には、敗北への怒りよりも、自分たちの信じてきた世界が崩壊したことへの恐怖が宿っている。


 私はゆっくりと彼らに歩み寄り、扇を閉じてその胸元を指し示した。


「偽物、ですか。……では、その偽物に救われたこの街の数万人の命も、貴方たちにとっては『偽物の救済』に過ぎないとおっしゃるのかしら?」


「くっ……それは……」


「賢者様。貴方たちが誇る『魂の結びつき』や『神秘の深淵』。それ自体を否定はしませんわ。芸術や学問として追求する分には、素晴らしいことでしょう。ですが――」


 私は声を一段強め、広場を囲む群衆、そして各国の視察員たちに聞こえるように告げた。


「インフラに『一点物』は不要です。ましてや、設計者すら制御できない『ブラックボックス』など、もはや魔法ですらありません。それは単なる『欠陥品』ですわ」


「欠陥品だと!? 我らの魔法は、自然の理を……!」


「自然の理を無視してオーバークロックさせたのは、どなたかしら? ……こちらのログをご覧ください」


 私は空中に、飛行艦から転送された最終的な解析データを投影した。

 真っ赤に点滅するエラーコードと、アヴァロンの術式が崩壊していくシミュレーション図。


 そこには、根性論や精神論が入り込む余地のない、残酷なまでの「事実」が記録されていた。


「貴方たちの術式には、『例外処理』が一切組み込まれていませんでした。地脈の出力が一定を超えた場合、あるいは魔力の逆流が起きた場合。……それらの『リスク管理』を、貴方たちは『魔法への信頼が足りない』という精神論で片付けた」


「前世で言えば、バックアップのない基幹システムを、お守りを貼って運用するようなものですわ」


「ぜんせ……? 何を訳の分からぬことを……!」


「要するに、貴方たちは『保守運用』という責任から逃げ出し、自分たちのプライドのために国民を人質に取ったのです。……その結果が、この無惨な尖塔です」


 私は、ひび割れた銀色の塔を一瞥した。

 アヴァロンの賢者たちは、もはや反論する言葉を持たなかった。


 彼らの周囲では、かつてアヴァロンを崇拝していたレオン市の住民たちが、冷ややかな視線を彼らに向けている。


「アウグスト王妃殿下……」


 群衆の中から、レオン市の市長が進み出てきた。彼は私の前に跪き、深く頭を下げた。


「感謝の言葉もございません。我々は、アヴァロンの耳に心地よい言葉に騙され、自分たちの首を絞めるところでした。……どうか、お願いです。この街のインフラを、貴女の『LIO規格』で作り直していただけないでしょうか」


 その言葉を皮切りに、周囲の国々の視察員たちも次々と声を上げた。


「我が国もLIOへの加盟を希望する! あんな危険な『神秘』はもう御免だ!」


「アヴァロンとの契約は破棄する! エリザベス様、どうか我が国の魔導網も診断してください!」


 会場の空気は、完全に決した。

 アヴァロンの築き上げた権威が、一本の「ログ魔石」と、一人の「追放令嬢」の合理性によって崩れ去った瞬間だった。


「……賢者様。貴方たちの負けですわ。伝統を守りたいのであれば、まずはその伝統を『安全に維持する方法』を学んでからになさい」


「……もっとも、その頃には世界中の魔石が、私の規格に統一されているでしょうけれど」


 私は絶望に沈む賢者たちに最後の一撃を見舞い、背後で控えていたカイザーを振り返った。


「陛下。……後始末、お願いしてもよろしいかしら?」


「ああ。アヴァロンの連中には、国際法に基づいた厳重な調査と、被害国への賠償責任を負わせるよう手配しよう」


「それと、レオン市の暫定統治とインフラ普及の支援も、我が国の騎士団とギルドで共同で行う」


 カイザーは私の肩を抱き、満足げに微笑んだ。

 彼の瞳には、私の成し遂げた「効率的な革命」に対する、深い称賛が宿っていた。


     *


 数週間後。

 アウグスト王国の王宮、私の執務室。


 机の上には、大陸中の国々から届いた「LIO加盟申請書」の山が築かれていた。

 アヴァロンの失墜は、大陸の魔導技術の力学を根本から変えたのだ。


 今や、「生活魔法」は地味な術ではなく、世界の秩序を司る「基幹言語(プラットフォーム)」となった。


「……ふう。ようやく、全大陸の規格統一に向けたロードマップが完成しましたわ」


 私は最後の一行を書き込み、ペンを置いた。

 窓の外には、新しい規格の魔導灯が整然と並び、王都を穏やかな光で包んでいる。


「お疲れ様、エリザベス。……これでようやく、一息つけるな」


「……だが、君のことだ。もう次の『効率化』を考えているのではないか?」


 カイザーが、淹れたてのハーブティーを持ってきてくれた。


「あら、お見通しですのね。……ええ。次は、大陸間の『魔導通信網の高速化』と、共通通貨の『魔導決済システム(キャッシュレス)』の導入を検討していますわ」


「お金の流れが不透明なのも、非効率の温床ですから」


「……フッ。君が王妃で本当によかった。……君を敵に回したレオナールたちは、今頃、自分が何を失ったのかも理解できずに、時代に取り残されているだろうな」


 カイザーの言葉に、私は少しだけ昔を思い出した。

 夜会での婚約破棄。無能と呼ばれたあの日。


 けれど、あの時私を縛っていた古い価値観は、今や私が作り替えた新しい世界の濁流に飲み込まれ、影も形もない。


「レオナール殿下……? そういえば、そんな方もいらっしゃいましたわね」


 私は微笑み、カイザーの差し出したお茶を手に取った。


「過去のゴミを思い出すのは、時間の無駄ですわ。……私たちは、未来をリノベーションすることで忙しいのですから」


「ああ。君の描く未来が、どこまで広がるのか……。私は、一番近くでそれを見届ける特等席を、誰にも譲るつもりはないよ」


 カイザーが私の指に、愛おしそうに口付けた。

 合理性を極めた先に辿り着いた、この穏やかで確かな愛情。


 それだけは、どんなに効率化を進めても決して「無駄」にはならない、私にとって唯一の『特別』だった。


 追放令嬢の生活改善革命。

 それは、一人の少女の自立から始まり、やがて世界そのものを「最適化」していく物語。


 彼女の歩む道に、もはや迷いはない。

 不敵な微笑みと共に、彼女は今日も、世界の設計図を書き換えていく。


 次は、どの「非効率」を掃除して差し上げましょうか――?


第2話、完結です! アヴァロンの賢者たちを「デバッグ」したエリザベスですが、彼女の改革は止まりません。 次回、いよいよ大陸間の「通信革命」と「キャッシュレス化」に乗り出します。 面白かったら、評価や感想で応援していただけると嬉しいです!

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