表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/4

第1話-1:【朗報】元追放令嬢の王妃、効率化が極まりすぎて国家予算を秒で片付ける。――なお、隣国からは不穏な気配がする模様。

お待たせいたしました! 代表作『追放令嬢の生活改善革命』の新章が開幕です。 王妃となったエリザベスが、今度は大陸全土を「効率化」の渦に巻き込んでいきます。 前作の「ざまぁ」を超えた、国家規模のスカッとする展開をお楽しみください!

王妃の朝は、一本の魔石から始まる。  かつて私を『無能』と呼び追放した元婚約者は、今頃冷たい石畳の上で何を思っているかしら。  私は今、全自動魔法トースターが焼き上げるパンの香りに包まれている。

 窓から差し込む朝日は、かつてブラックな王宮で徹夜作業に明け暮れていた頃には決して味わえなかった、穏やかな輝きに満ちていた。  私はベッドの脇に置かれた魔石に指を触れ、微かな魔力を通す。  それだけで、あらかじめセットされていた「生活改善魔法(ライフ・ハック)」が起動する。

 室内の温度は常に快適な二十二度に保たれ、浴室では適温に調整されたお湯がシャワーから降り注ぐ。  タオルを温める機能や、衣服のシワを一瞬で伸ばす「洗浄・平滑魔法(プレス・クリーニング)」も、今では私の朝に欠かせないルーティンだ。

 前世のキャリアウーマンとしての記憶が蘇ったあの日、私は追放という絶望の淵に立たされていた。  けれど、あの逆境こそが私の「効率化」という武器を研ぎ澄ませる最大の好機だったのだと、今なら断言できる。  不当な扱い? 無能? そんな言葉は、数字と実績の前では何の意味も持たない。

 私は鏡の中の自分を見つめる。  かつての儚げで、周囲の顔色を窺っていた令嬢の面影はもうない。  そこには、一国の王妃として、そしてこの国の生活基盤を改革する技術顧問としての、冷徹なまでの自信を宿した瞳があった。

 「おはようございます、エリザベス」

 背後から低く、しかし心地よい響きの声がした。  振り返れば、そこにはこの国の国王であり、私の最愛のパートナーであるカイザーが立っていた。  「氷の公爵」と呼ばれていた頃の冷徹な面影は、私と二人きりの時だけは、深い慈しみへと上書きされる。

 「おはようございます、カイザー。昨夜の執務はお疲れ様でした」

 「ああ。君が作成してくれた『国家予算の最適化案』のおかげで、予定よりも二時間早く眠りにつけたよ」

 カイザーは私の腰をそっと抱き寄せ、その額に優しく口付けた。  かつての冷たい彼を知る者が今の姿を見れば、驚愕で腰を抜かすに違いない。  だが、合理性を重んじる彼にとって、私の提供する「効率化」は、単なる利便性を超えた、国家を愛するための時間を作る手段だった。

 「今日の閣僚会議、楽しみにしているよ。保守派の連中が、また君のインフラ整備予算を削ろうと手ぐすねを引いている」

 「ふふ、構いませんわ。彼らが大好きな『伝統』と『慣習』が、どれほど無駄な経費を生み出しているか、数字で教えて差し上げます」

 私は不敵に微笑んだ。  これが私の、新しい戦場なのだ。

 王宮の閣僚会議室。  重厚な円卓を囲むのは、この国の歴史を支えてきたという自負を持つ老貴族たちだ。  彼らの多くは、生活魔法を「平民の使う地味な術」と侮り、それを国家インフラに組み込むことを良しとしていない。

 「王妃様、恐れながら申し上げます。今回提案された『魔法式上水道の全国展開』ですが……あまりに莫大な予算を要します」

 口を開いたのは、財務大臣を務めるグレスタ伯爵だ。  彼は伝統的な魔道具ギルドとも深く繋がりがあり、エリザベスが進める「ギルドの国営化」と「技術解放」を最も苦々しく思っている一人だった。

 「伝統ある魔道具師たちが作る、高価な魔石浄化器を各家庭に配備する方が、よほど格式が高いというものです。下水の処理に魔法を割くなど、魔力の浪費でございます」

 周囲の老貴族たちが、うんうんと頷く。  彼らににとって、魔法は選ばれた者のための贅沢品であり、民草の生活を支えるための道具ではないのだ。

 私はゆっくりと立ち上がり、手元の資料を魔法で空中に投影した。  棒グラフや円グラフが、鮮やかな光の粒子となって空間に浮かび上がる。

 「グレスタ伯爵、そして諸侯の皆様。私が重視しているのは『格式』ではなく『投資対効果』です。こちらのグラフをご覧ください」

 私は冷徹な声で説明を始めた。  前世の会議で、数多の理不尽な上司を黙らせてきた、あのトーンだ。

 「既存の魔道具浄化器を導入した場合の維持費は、十年で国家予算の三パーセントに達します。対して、私が提案する上水道システムは、初期投資こそ大きいものの、五年で黒字に転換します。なぜなら、疫病による労働力損失の軽減、および洗浄魔法の効率化による家事時間の短縮が、これだけの経済効果を生むからです」

 私は具体的な数値を指し示した。  老貴族たちは、見たこともない複雑な計算式と、それに基づいた圧倒的な「利益」の推計に言葉を失う。

 「魔法は、誇示するためにあるのではありません。人々の時間を創出し、国力を底上げするためにあるのです。これ以上、非効率な慣習に税金を投じることは、未来への背信行為ではありませんか?」

 会議室に、凍り付いたような沈黙が流れる。  隣で聞いていたカイザーが、小さく、しかし確かな満足感を込めて頷いた。

 「……ぐっ、しかし、これでは魔道具ギルドの面目が立ちませんぞ!」

 「面目? そんなもので国民の腹が膨れるとでもおっしゃるのですか?」

 私は一蹴した。  「ギルドの皆様には、より高度な『産業用魔法機具』の開発にリソースを割いていただくよう、すでにマニュアルを配布してあります。彼らもまた、古い技術に固執するよりも、私の提示する新しい市場に魅力を感じているようですよ」

 事実、若手の魔道具師たちは、エリザベスの独創的なアイデアに熱狂し、すでに彼女の私設研究所に出入りしている。  保守派が守ろうとしている牙城は、内側からすでに崩れ始めていた。

 会議は、エリザベスの完全な勝利で幕を閉じようとしていた。  もはや反対する声は消え、承認の署名が淡々と行われていく。  私はふうと小さく息を吐き、勝利の余韻を味わう暇もなく、次なる案件に目を向けた。

 だが、その時だった。  会議室の重い扉が、礼儀を欠いた勢いで開け放たれた。

 「申し上げます! 国境警備隊より緊急の報せです!」

 駆け込んできた伝令兵の顔は、青ざめていた。  カイザーが鋭い視線を向ける。

 「どうした。不敬だぞ」

 「はっ、失礼いたしました! ですが緊急事態です! 隣国、商業大国ガザリアの使節団が、事前の通告なしに国境を越え、こちらに向かっているとのこと! その数は、公式の外交団とは到底思えぬ規模であります!」

 会議室に動揺が広がる。  ガザリア。  大陸でも有数の経済規模を誇るが、その実態は、古臭い商法と、他国の技術を買い叩いては使い潰すことで成り立っている、不評な国だ。

 「ガザリアの使節団? 事前の連絡もなく、とは穏やかではありませんわね」

 私は、手元の資料をゆっくりと閉じた。  脳内の「リスク管理」データベースが、即座にいくつかの可能性を導き出す。    この数年で、我が国は劇的な発展を遂げた。  生活魔法という「地味な魔法」を国家インフラに変えた私のやり方は、おそらく隣国の強欲な王子たちの耳にも届いているはずだ。

 「特使の名前は判明しているか?」

 カイザーの問いに、伝令兵が震える声で答えた。

 「はっ……ガザリア第一王子、カシム殿下自らが率いておられるとのことです。そして彼らは、こう主張していると――『我が国の困窮を救うため、聖女の持つ生活魔法の特許を、全人類の共有財産として即刻無償提供せよ』と!」

 会議室のあちこちから、怒りと困惑の声が上がる。  無償提供?  要するに、苦労して築き上げた我が国のインフラ技術を、タダで寄越せと言っているのだ。

 私は、冷たい微笑を口元に浮かべた。  隣国の王子。無能なことで有名なカシム。  どうやら、私の「効率化」リストに、新しく排除すべき項目が追加されたようだ。

 「あら、面白いことをおっしゃるのね。共有財産だなんて」

 私は立ち上がり、会議室の窓から、はるか国境の方角を見据えた。

 「私の技術は、民の笑顔のためにあります。それを強奪しようとする無能な手に、貸してあげる知識は一文字もありませんわ」

 隣国の王子よ、覚悟しておきなさい。  かつての私を追放した人々がどうなったか、まだ聞いていないようね。  私は今、かつてないほど「仕事熱心」な気分よ。

 「カイザー。使節団の応対、私が担当してもよろしいかしら?」

 「もちろん。君のやり方で、彼らに『効率的な敗北』を教えてやってくれ」

 夫の頼もしい言葉を背に、私は優雅に一礼し、会議室を後にした。  新しい「ざまぁ」の舞台が、今、幕を開けようとしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ