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お祝い

バースデー終盤に差し掛かった頃、


「赤姫さんにプレゼントがあるんです」


そう言って、莉子は小さな包みを取り出す。

手のひらにすっぽり収まるサイズ、だけど明らかに特別なプレゼント。


「でも、今は開けないでください。……内緒です。今日の帰り家で開けて」


「……ふふ、何それ。焦らすじゃない」


「楽しみは取っておいてください」


少しだけ意地悪な微笑みを浮かべた莉子は、立ち上がる。


「じゃあ、そろそろ……頼みますね」


「えっ?」


何のことか分からず首をかしげる私を残して、莉子はボーイに向かって軽く手を挙げる。


「お願いします」


(……何?)


そう思った瞬間、照明が落ち会場が暗くなる。

賑やかだったホールが一気に静まり返る。

わずかなスポットライトだけが、天井から薄く注ぎ、静かなピアノの音楽が流れ始める。


カラン……と車輪の音がした。

何かが運ばれてくる。


(まさか……)


スタッフが慎重に押してくるのは、


シャンパンのタワー。


だけど、ただのタワーじゃなかった。


高さは天井近くまで、ピラミッド型に積まれた“金色に輝くグラス”

グラス一つ一つにリボンが結ばれ、底には花びらが浮かんでいる。

それはまるで、宝石を積み重ねたような芸術作品なようだった。


(……これ、全部……?)


高級なシャンパンを、何十、何百本と使った光景。


もう、金額なんて想像もつかない。


(綺麗……)


目の前にある光景が、美しすぎて気づけば涙が頬を伝っていた。


泣くつもりなんてなかったのに。

こんな華やかな場所で、泣くなんて。


でも、止まらなかった。


あまりに綺麗で、あまりに嬉しくて。

この夜が夢みたいで。


隣から莉子の声がする。


「……1番綺麗なのは赤姫さんです」


私は涙のまま、莉子の顔を見る。

誰よりも綺麗な彼女の顔を。


「赤姫さんが誰よりもNo.1です。私が証明します」


莉子の瞳はまっすぐで、優しくて、誰よりも熱かった。

瞳から熱い雫が溢れるのを感じる。


「ありがとう。本当に莉子には感謝しきれないわ。莉子が送ってくれたこの気持ち最高に嬉しい」


すっと莉子が近寄り耳元で囁く。


「よかった...燈さんに喜んで貰えるのが私にとって最高のプレゼントでもあるの」


嬉しそうに微笑む彼女の姿は何よりも眩しくて、目を閉じることができなかった。


(どうして……こんなにも、あなたは……)


もう、言葉にならなかった。





あの後も、最後まで華やかにパーティーは続いた。


武士やその取り巻きたちが次々とシャンパンを重ね、

売上の記録は今まで見たことのない数字になっていた。


どの席も私の名前で埋まり、みんなが「おめでとう」と口々に言ってくれる。


だけど、


どんな言葉も、どんな演出も、莉子のあの一言よりも嬉しい言葉はなかった。


「今日は赤姫さんが誰よりもNo.1です」


あれを聞いた瞬間、私は世界で1番幸せな人間だったと思う。


だからこそ。


終わり際、莉子が「一緒に帰りたい」と駄々をこねてくれたのが本当に嬉しかった。


「……今日は赤姫さんと最後まで一緒にいたいです」


目をそらしながらそう言う莉子は、普段の堂々とした姿とはまるで違っていて。

まるで、寂しがる子どもみたいで可愛かった。


その姿を見て、私の胸は少し痛んだ。


だけど今日の私は店の顔と言っていい。

この後も精算や片付け、打ち合わせまである。


「……ごめんね。今日は遅くなっちゃうから……だから、また今度ね?」


そう言って、莉子を早めに帰らせることにした。


「……はい」


少しだけ拗ねたように笑って、手を振ってくれた背中が今でも目に焼きついている。


本当は今日ぐらい、隣にいてあげたかった。


感謝を、ありがとうを、何度だって伝えたかった。


でも、それはまた次の機会に。





「お疲れ様でーす! 本日もありがとうございました!」


いつものように締め作業が始まる。

スタッフたちは片付けや精算を淡々とこなすが、その中で小さな会話が聞こえてきた。


「それにしても、今日のあのタワー……あれだけで一億いってたな」


「えっ……マジ?一億って……あの子だけで?」


「うん、莉子ちゃんだっけ? 事前に全部抑えてて、演出費まで込みでほぼぴったり一億。金の使い方、尋常じゃないよな……あれで女子高校生かよ」


「一億」?


私は思わず立ち止まり、背筋が凍った。


(莉子が……ひとりで……あれ、全部……?)


あのタワー。

あの演出。


私が想像していた何倍の値段に対して驚愕、罪悪感、喜び色んな感情が湧き上がる。


申し訳ない気持ちもあるのに...ここまで私に尽くしてくれる莉子にありがとうと言う感謝の気持ちが大きかった。

それでも流石に使いすぎてるから今度は注意しないとね。


今日は人生で最高の誕生日プレゼントを貰ってしまった。

私は隣に置かれた小さな包みを見つめる。


彼女が「家で開けて」って言ったプレゼント。

まだ中身は見てない。


あれだけのことをしてくれて、なお、サプライズを用意してくれている。


(あなたって、本当に……)


心の奥がゆっくりと、あたたかく満たされていくのを感じた。





自宅――深夜


扉を閉め、深く息を吐いたあと。

私はソファに腰を下ろし、あの小さな箱を手のひらに載せた。


白いリボンに包まれた、赤と金の小箱。

高級感がありすぎて、指先を当てるのすら少しためらうほどに。


(本当に、莉子ったら……)


静かにリボンをほどき、蓋を開けた瞬間。


「……っ」


目の前で、光が跳ねた。


中に入っていたのは、2つのアクセサリー。

どちらも繊細で上品な輝きを放つ、宝石付きのネックレス。


ひとつは、胸につける用のネックレス。

中央に小粒のダイヤが並び、中心には大粒の一石。

枠組みはプラチナか、もしくはそれ以上の素材。

角度を変えるたびに虹色の光が浮かび、まるで星を閉じ込めたような美しさ。


もうひとつは、同じデザインのチェーンタイプのブレスレット。

細く、手首にフィットするようなカーブを描き、ネックレスと同じダイヤが等間隔で織り込まれている。


(高い……ってレベルじゃないわね、これ……)


ブランド名は“Delisérre”(デリシェール)

フランス語とイタリア語を掛け合わせたような響き。


聞いたことはなかったけれど、箱の裏に印刷されたシリアルコードと金の箔押しロゴ。

そして、値段タグがないことが何よりもそれを物語っていた。



だが、それ以上に胸を打ったのはー


アクセサリーの裏側にに小さく刻まれていた文字。



「……!」


“To my Queen”

私の女王へ。


To Akari — You are always my No.1”

From R


(...燈?)


その瞬間、私は息を呑んだ。


だって、それは―


お店の誰も知らない『私の本当の名前』


赤姫じゃない。源氏名でもなく、私の名前。

きっとあの子は、ずっと前から“赤姫”ではなく“燈”という人間を見ていた。


虚飾の中の私だけじゃなく、本当の私までもちゃんと愛してくれていた。


そして、贈り物にまでそれを込めてくるなんて。


(ずるい……)


唇を噛む。

こんなに愛してくれてるのに私は、


莉子のことを本気で大切にしたいと思ってしまう。


そして、“R”はもちろん、莉子の頭文字。


(オリジナルの名前入り……)


こんなもの、誰にでも渡すはずがない。

私だけのために作った世界で一つだけのもの。



喉の奥が詰まりそうになった。


目の前のネックレスが、胸元で光る莉子の“愛”の形に見えて

たまらなくなって、私は小さく嗚咽を漏らした。





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