>>3 ゲームは悪役(予定)に優しくあるべきだと思うんです
開いていただけて感謝です
私は、今日兄様と話したことで思ったことがある。
本来ゲームのシナリオでは、私と兄様の仲は最悪なはずだ。原因はあの『愛称によるトラウマ』。あれによって兄様は私に寄り付かなくなり、それに構うような私じゃない。よって、兄様は私を『自分に危害を加える奴』認定するのだ。
ジロルドルートのハッピーエンドでは、ヒロインと恋したことによってその恐怖を恨みに変えたジロルドが、エリザベスを暗殺者に殺させる。ヒロインとエリザベスが揉めていたのもあって、彼女が死んでめでたしめでたし、だ。
前に言ったようにバットエンドでは、ヒロインと恋することができずトラウマに苦しむジロルドを見て、心を痛め続けたソフィアが耐えきれなくなり、エリザベスに毒を盛ることによってエリザベスが死ぬ。
ゲームでの兄様は実は女嫌い設定。その原因も『愛称のトラウマ』なんだというから、救えない。
それを克服しようと色んな女性とお付き合いしたのはいいけどやっぱり愛称は呼べず。女を口説き落とすテクニックだけが無駄に上がっただけだった。
そんな中ヒロインと学園で出会い、すがる思いで彼女に近づくも拒絶。初めての拒絶に呆然としながらも興味をひかれて彼女を口説くうちに、 (表だけは) 優しく (表だけは) 公平で、 (いろんな意味で) 強く気高い彼女に無自覚ながら惹かれていき、学園の卒業パーティーにて愛を告白。ハッピーエンドだ。
まぁゲームのお話はこれくらいにして、私が言いたかったことは。『実はゲームの内容、変えれるんじゃね?』ってことなわけです。
だって、本来は関わりの無いはずの私と兄様が仲良くできるんだから、この調子でゲームと全く関係ない様にシナリオをねじ曲げれば、私が無事に学園生活をおわることができると思わない?いや、絶対できるよね!!
そう意気込んで、私は長く感じた一日を終えてベットに潜り込んだ。
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「ってわけなの!」
朝起きて、ドレスを着替えて早々に話を切り出した私に、使用人たちは困惑を隠せない顔をする。
ソフィアは面白そうに顔を輝かせてくれているが、そんな反応をしてくれているのはソフィアだけ。あとの人たちの七割が微妙な顔。三割が嫌そうな顔。嫌そうな顔に少し傷ついたのは、私だけの秘密だ。
でもまぁ、やってみたら楽しいはずだから大丈夫だろう。現代日本の代表として、私が無事あれをこの世界にも伝授してみせる!
「お嬢様お嬢様。この屋敷の皆の親睦を深めるために遊ぶのは分かりました。ソフィアも賛成です。
けれどその、だってぼーる?って一体なんなんでしょう?」
私が胸に熱い決意を抱いていた時、ソフィアがほのぼのと首を傾げる。そんな仕草もかわいいなぁなんて思いつつ、私はご機嫌に答える。
「ドッジボールよ、ソフィア。ボールをつかった遠くのお国のスポーツなの。まえにそれについての本を読んでね、とてもおもしろそうだったのよ」
流石に前世で小中学生がやってた遊びですとは言えないから、強行突破を試みる。だって急にそんなこと言い出す子はヤバいじゃん。
ゲームのシナリオ訂正を目指して、私が最初に考えたのはまず、兄様との関係回復だった。もし女の戦いに巻き込まれたとしても、モテ男である兄様が妹である私を嫌ってさえいなかったら手を下される危険性は少なくなるだろうという、兄様の女ウケを根幹にした作戦だ。兄様を盾にすれば女たちから身を守れるなら、それを使わない手はない。申し訳なく思わないことはないが、兄様がそれを嫌だと思わない程度に私と仲が良ければ問題ないだろうと割り切った。
そこまでいけば、次の課題はどうやって仲を深めるかだったが、それは昨日うとうととしていた時にふっと考えが浮かび、解決した。
ドッジボールすればいいんじゃん。
それが浮かべば、ほかの案なんて色あせてボロボロに崩れていった。
どんなに仲の悪いクラスでも、一致団結して協力させてしまう最強のスポーツ。私の中学生時代のクラスでは『我らがボコボコ様』と敬愛されていたのを思い出す。
これをすれば確実に私と兄様の仲は改善される。確かな確信を持って、その日はふかふかのベットで眠ったのだった。
言葉通り寝る間を惜しんで考え出したその案はきっと、私たち兄弟間の蟠りを無くしてくれるはずだ。そう思って、みんなに発表したのはいいが、この世界に存在しないゲームに好色を示す人は当たり前に少なく。だから実演してみようということで、昼食を食べたら屋敷の中庭に全員集合で話は落ち着いた。
ドッジボール革命の話もそこそこに、私は今日も朝食を摂るために食堂を目指す。食堂に入ると、昨日と同じように父様と兄様が座っていて、2日連続で訪れた私に目を見張っていた。
「おはようございます、とうさま、にいさま」
ドレスの裾をちょこんとつまんで、お辞儀する。昨日寝る前に散々やった動きだから、手馴れたものだ。え?なんで一人でお辞儀なんかしてたのかって?
そりゃ決まってるじゃん。ドレスつまんでお辞儀って現代っ子として超絶憧れるから!みんなもそうだよね!?
お辞儀を終えて顔を上げると、頬を綻ばせた父様と兄様と目が合った。何だかむず痒く感じてふにゃりと笑うと、兄様が僅かに目を見開いた。
「おはよう、リジー。今日も父様たちとご飯を食べてくれるのかい?」
父様はそんな兄様に気づかないらしく、私にあたたかい眼差しを向けてくれる。イスを引いてくれたソフィアに礼を言って腰掛けながら、はいと頷いて私も父様と目線を交わらせる。
「リジーは気づいたんです、とうさま。ごはんは、ひとりぼっちで食べるよりも、とうさまやにいさま、ソフィアたちと食べたほうがおいしいです」
そう言うと、そうかそうかと言いながら何度も頷き、バシバシと兄様の背中を叩いた。
「良かったなぁ、ジロルド」
それに対して微笑みを返してから、兄様は私に視線を向ける。が、目は合わせずに口のあたりを凝視される。
「そうですね、父上。リジーの変化はとても喜ばしいことです。
___そうだリジー。今日も朝から、使用人たちが君の話題でもちきりだったよ。なんでも、異国のスポーツを中庭でやるだとか」
ああもう兄様は聞いていたのか、と目を丸くすると、父様も私と同じように目を丸くする。
「それは誠か、リジー?」
「はい、とうさま。ドッジボールというボールを使ったスポーツです。まえに本でよんだのをたまたま思いだしたのです。」
簡単に説明してから、ぽん、とグーにした手をもう片方の手に打ち付ける。
「そうだ、とうさまもいっしょにやりませんか、ドッジボール。にいさまはもともと誘おうと思ってたんですが、とうさまもいっしょにしてくれると楽しそうです!」
この屋敷の主人である父様が参加するんだから、やりたくなさそうな顔をしていた使用人たちもやるしかなくなるだろう。父様を使うのは正直気が引けるが、背に腹は変えられん。
「よし、せっかくリジーが誘ってくれたんだ。父様は仕事を終わらしてくるよ」
そう言って父様は席を立ち、私と兄様の頭を少しずつ撫でて食堂を出て行った。
それを笑顔で見送り、私と兄様は料理人たちが持ってきてくれた料理を口に運ぶ。
硬いパンに、臭みを消しきれていない川魚。この世界では裕福なオースティン家だが、そもそもの食文化が発展していないからなのか日本の食事に比べると何倍も……うん。あれだよね。
ドッジボールを広めることに成功したら、次は食パンとかパスタとか、出来るなら日本食も広めていきたいね。よし、新しい目標ができた。
そんなことを考えていたからか、ぼうっとしたまま部屋に戻り、ふかふかの椅子に座って、気づいたらみんなに集合の時間として告げた時間の半刻前。
「ソフィア、ソフィア!お願い、急いで着替えを持ってきて!」
お疲れ様でした。
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