第14章闘茶
ある日、私は張九齢と李林輔を私の部屋に呼び出していた。
張九齢は李林輔の存在に気付くと不満げに言った。
「雪女衣に合わせていただけると聞いたからこそ、陛下の呼び出しに応じましたのに、なぜこの男までいるのですか?」
その言葉に李林輔も不満げに言った。
「全くです。天才は並び立ちません。陛下には私のみで十分だ。」
私は李林輔の言葉にお前は天才じゃないから問題ないのではないかと思ったが、そんなことを言うとまたうるさく反論してくるので、仕方がなく無視していった。
「お前たちが仲良くすることは、私の政権にとっても凄く重要なことだ。だから今日は一緒に遊ぼうと思う。」
すると張九齢が不満げに言った。
「この男と遊ぶなんて絶対に嫌です。」
私は張九齢に満面の笑みで言った。
「お前もまだまだ青いな。私は皇帝だぞ。その私が遊ぶといったんだ。お前の意思など初めから聞いていないんだよ」
張九齢は私の様子を見て少しだけおびえた様子を見せたがすぐに持ち直し不貞腐れた様子で言った。
「わかりました。」
全く。
子供なのだから遊ばなくては駄目だろう。
私はたとえどんなに優秀であっても遊びのない人間は認めない。
たとえば宋璟のように。
私がそんなことを考えていると李林輔が言った。
「それで。遊ぶというのは何を遊ばれるのですか。」
「闘茶だ。楊ちゃん入って。」
私が手を叩くと楊ちゃんが茶葉の入った入れ物とお湯を持ってやってきた。
闘茶とは、最近、貴族の間ではやっている遊びで、お茶をの産地を当てる遊びである。
楊ちゃんは張九齢と李林輔に対し得意げな様子で言った。
「あなたたちが相手なのね。残念だわ。闘茶は味がわかる相手にやるから面白いのに。」
その言葉に李林輔は少し怒った様子で言った。
「随分な言いようですね。あたかも狐の分際で、人間の文化を理解するような物言いではないですか。」
李林輔の言葉に楊ちゃんは言った。
「そうよ。私はただの怪異ではなく、お姫様なのよ。文化に対する素養は人間なんかに負けないわ。」
その通りだ。
楊ちゃんはこういう文化的な遊びはなんでも知っている。
私も楊ちゃんからはいろいろなことを習ったものだ。
楊ちゃんの言葉に李林輔は言った。
「わかりました。では勝負をしましょう。私と張九齢、正解した方が姚崇殿の次の宰相になるというのはどうでしょうか?」
なにがどうでしょうだ。
話がつながってすらいない。
というかやはりこの男は宰相になりたいのか。
李林輔のことは嫌いではないけど、宰相はさすがに器じゃないと思うんだけどな。
しかし、面白い提案なので私は言った。
「良いぞ。その代わり、李林輔は負けたら減給で、張九齢には一つ、私の言うことを聞いてもらう。」
その言葉に張九齢が言った。
「それは俺にどういう利益があるんですか?勝っても負けても変わらないじゃないですか。」
私は言った。
「雪女衣に合わせてやる。」
そう。
私はこのために雪女衣にはほかの場所で待機してもらっている。
張九齢との交渉材料にするためだ。
張九齢は私の言葉を聞くと少し考えた後、うなずいた。
「わかりました。やりましょう。よく考えれば宰相になって李林輔を首にすればいいだけの話だ。」
すると部屋の奥から悠々がやってきて鳴いた。
「ミー。ミー。」
楊ちゃんが言った。
「この猫、(では私もお仲間に入れてください。このような若者と愚か者が宰相ではこの国の未来も暗い。陛下。次の宰相は私のような猫こそがやるべきではないでしょうか。)」
私は言った。
「可愛いからいいだろう。悠々も参加していい。」
悠々は私の言葉に痛く感じ入ったように頭を下げた。
すると楊ちゃんが言った。
「さあ。最初は李林輔よ。飲んで種類を当てなさい。」
楊ちゃんは湯飲みに入れたお湯を急須に注ぎゆっくりと茶葉が開くのを待ってから湯飲みのお茶を淹れ、李林輔に渡した。
李林輔はその香りを楽しんだのちに、少し口に含み、そのまま一気に飲み干して言った。
「なんてすばらしいお茶だ。この淡い緑色といい、後味に残る甘みと豊かな香りは間違いなく西湖龍井茶ですね。それも清明節の前にとれた最高級の明前茶に違いない。」
はあ。
私があきれていると楊ちゃんが笑って言った。
「恥ずかしい男ね。それは私がお庭で作らせているお茶よ。龍井茶に品種は近いけれど、味の深みが違うわ。」
私は言った。
「李林輔。やはりお前は宰相の器ではないようだな。」
「嘘だ。この私が間違えるなんて。私が宰相になれる絶好の機会が訪れたというのに」
そのまま李林輔はどこかに去って行ってしまった。
良かった。
正解されたらどうしようかと思っていた。
するとと楊ちゃんが言った。
「次は猫よ。猫の癖にお茶をたしなむなんて生意気ねえ。」
そして楊ちゃんは悠々のための入れ物にお茶を注いだ。
悠々はそれをじっと見つめていた。
楊ちゃんが言った。
「あら?注いだわよ。早く飲みなさい。」
しかし悠々はじっと見つめたままだった。
それを見て楊ちゃんは笑い出して言った。
「あらごめんなさい。猫だけに猫舌なのね。これで分かったでしょ。猫が銘茶を楽しもうなんて生意気なのよ」
「しゃー。」
悠々は楊ちゃんの言葉に怒り、楊ちゃんに襲い掛かった。
「きゃー。猫。野蛮なことはやめなさい。」
楊ちゃんは急いで狐になると走って逃げだしたが悠々がそれを追いかけていった。
それを見届けてから私が言った。
「張九齢。お前のお茶も淹れよう。」
そして私はお茶を淹れた湯飲みを張九齢に手渡した。
張九齢は真剣な表情で香りをかぎ、茶を飲んだ。
そして考える様子を見せた後に言った。
「陛下。俺は茶経を読み、茶についての知識を得ました。ですが、実際に銘茶を飲んだことがありません。ですから、先ほどの李林輔の飲んでいるものも西湖龍井茶であると思っていましたし、このお茶に至ってはどこのものかさっぱりわかりません。」
その言葉に私は笑みを受けべていった。
「それでいいんだよ。お前は素直な人間だな。それが一番だ。」
そして、私は私の湯飲みに茶を注いで言った。
「楊ちゃんも良い趣味をしている。これは、武夷岩茶だ。ほのかな甘みが美味しくて飲みやすい。」
張九齢は少し落ち込んだ様子で言った。
「陛下はいろいろなことをご存じなのですね。俺は知らないことばかりだ。」
私は言った。
「別に大したことではないさ。ただ、頭で考えて実際に飲む。それを何度も繰り返してきた結果だよ。幼少期の私は、お義兄ちゃんが遊びに来る時間だけが唯一の楽しみだった。だからお義兄ちゃんに喜んでほしくて色々なお茶を調べて取り寄せて茶経を読みながら淹れ方も練習したんだ。この武夷岩茶はお義兄ちゃんが大好きなんだよ。初めてこのお茶美味しいですって言ってもらえたお茶だ。あの時はうれしかったな。」
張九齢は私の言葉を聞いて言った。
「陛下。陛下は不思議な方ですね。厳格で冷酷な皇帝でありながら、うら若き少女のようでもある。」
私は笑みを受けべて言った。
「お前は随分と詩的な表現を使うのだな。だが私のことを少し分かってくれたなら良かった。」
「陛下。」
「良いか。私はお前をすぐに宰相にする気はない。お前は、もっといろいろなことを学ぶべきだ。それも一人で書物に向かうのではなく、他者との関わりを通じてな。」
「関わりですか。」
「そうだ。その一番の手段が遊ぶことだ。負けたから命令だ。これからは暇なとき、ここに来るといい。私たちと色々な遊びをしようじゃないか。」
そう。
この男はどこか昔の私と重なるのだ。
本当は寂しいのにどこか虚勢を張っているような。
そんな感じがしてしまう。
私の言葉に張九齢は少し涙を浮かべて言った。
「陛下。ありがとうございます。」
私は言った。
「大げさに言うなよ。その代わり覚悟しておけよ。私は遊びにも全力だからな。」
張九齢は私の言葉に涙も拭かずに笑顔で答えたのだった。
少し、前回の更新から時間がたってしまいましたが、完結させるといったことは嘘ではありません。
もしかしたら更新速度は遅いかもしれませんが、必ず完結させようと思います。




