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地下アイドル弁慶ちゃんはクーデレアイドル義経とともに鎌倉を倒します  作者: 森田季節


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20/21

20 アウェーで大勝負

<爆風祭>は冒頭からとんでもない盛り上がりを見せた。


 なにせ、いきなり『さねともみなも』がステージに出てきたのだから。


 会場からの「おかえり~!」という声。


「え~と……お久しぶりです。『さねともみなも』です。今日は司会をすることになりました」


 二年前まで日本で一番有名だった美少女は笑顔であいさつをした。それは歴史的瞬間と言っていいものだった。すでに会場では興奮しすぎて失神した観客が現れているほどだ。


「今日、出演するアイドルはみんな、この日のために厳しい特訓を続けてきました。推しの子だけじゃなく、満遍なく愛してくださいねっ」


 弁慶ちゃんたちも楽屋のモニターでその様子を見ていた。

「もし、この子が、ここで『牛若◎』を殺せって命令したら、多分本当に殺されますね」

 プロデューサーの秀衡がシャレにならない冗談を言った。


「その時はその時だ。義経の前に立って、義経が逃げるぐらいの時間は稼いでやる」

 弁慶ちゃんは本気でそう言っていた。ここまで義経にかかわってしまったのだから、やるだけやってやる。


「義経は死なないよ。北海道に逃げて、そこから海を渡って、モンゴルぐらいまで逃げる」

「モンゴルってチンギス・ハーンにでもなるつもりか?」

「うん」


 まさか、そこでうなずかれるとは弁慶ちゃんも思ってなかった。


「義経はみんなとアイドル界のチンギス・ハーンになる。世界を席巻する」

「そうだな。伝説を作るぞ」


「もう、現在進行形で伝説だと思うよ。わたしたちをちょっとした悪意で倒すとか無理だって」

 静はすべての結末でも知ってるみたいに、そう言い切った。

「わたしは運命論者だからね。これはいけるって思ったら、だいたいはずれないの」


 イベントは予定どおり、進んでいった。

 まず、鎌倉爆風興業のアイドルが順番に出ていく。どのアイドルも声援で迎えられるが、その合間に出てくる『さねともみなも』のほうに会場は沸く。


 本日のトリは『シッケンズ』ということになっている。そして、『牛若◎』はその直前だ。『牛若◎』をつぶすためのスケジュールなのだろう。


 ここにどこかで『さねともみなも』の歌が入りそうだが、どこに入るかはよくわからない。本編終了後のアンコールで出てくるのが一般的だろうが、果たしてどうなるか。


 やがて『得宗部!』のステージがはじまった。

「いよいよか」

『得宗部!』の後は、『牛若◎』と聞いていた。

 けれど、彼女たちのステージが終わった後、メンバーがこんなMCをした。


「次は二年ぶりに復活した『さねともみなも』ちゃんです!」


 怒声や悲鳴と間違えそうな、耳をつんざくような轟音!

 誰もがその復活を待っていたのだ。


 そして、同時にここでの『さねともみなも』の登場は、『さねともみなも』『牛若◎』『シッケンズ』の序列をはっきりさせる並びと言ってよかった。


 これで『牛若◎』は完全に息継ぎの時間になるし、デマ報道のせいで攻撃される恐れもある。

 とにかく、三者の中で一番冷めたステージになるのはほぼ明らかだ。事前に『さねともみなも』がどこに入るか言ってないのも作為的なものだろう。


 けれど、『牛若◎』のメンバーたちは冷静に、『さねともみなも』のステージをテレビで見ていた。


「皆さん、お久しぶりです。この歌から聞いてください。船に乗って旅をしたい気持ちを歌った曲、『voyage』!」


 それは、間違いなく一つの伝説だった。

『さねともみなも』には文句のつけようのない華があった。


 少なくとも、それまでに出演していたアイドルとは質からしてまったく違っていた。

 この世の美しさだけで構築したような存在が、どんな音楽ファンが聞いても納得するような歌を歌う。


「これがアイドルになるためだけに産まれた女の歌か。なかなか神がかっているではないか」

 それでも、弁慶ちゃんは悲観的な顔をしたりはしない。


「この人を超えれば、義経たちはトップだね」


 義経がそう言った。

 それは不遜な物言いでもなんでもなく、ただの事実。


「わたしたちも伝説だから、伝説にぶつかるにはちょうどいいよね! 伝説力に関しては多分わたしたちのほうが大きいよ」


 そして、ついに『牛若◎』の番が回ってきた。


『さねともみなも』がステージで「次は『牛若◎』さんです」と言う。

 会場が変な雰囲気になる。

 それはまさしく不倶戴天の敵がここに出てくるも同然だからだ。


『さねともみなも』がステージから退くと、「帰れ!」コールがすぐに起こる。

「よくここに来たな!」「みなもちゃんにケガさせたこと謝れ!」「お呼びじゃねえよ!」


 弁慶ちゃんは目をつぶって、その声を舞台袖で聞いていた。

「くっくくく……くくく……」

 そして、笑いを噛み殺す。


「弁慶、気持ち悪い」

「私って、どうやらマゾ気質なのかもしれないな。敵が多い場所ほど血がたぎるのだ」

「わたしはどっちかというと、攻めるタイプかな~」

「静の性癖は聞いてないぞ」

「いいじゃん。攻めるも守るもどっちみち戦うってことには変わりないんだし」

「義経は勝つ。弁慶も勝つ。静も勝つ。だから、『牛若◎』も勝つ。義経はそう信じてる」


 では、とっとと現実にしてやろうかと弁慶ちゃんは思った。


 今から一世一代の戦をやってやる!


「帰れ!」コールよ、ありがとう。なにせ、『牛若◎』は奇襲をしてこそ、輝くアイドルなのだ。敵のど真ん中に突っ込むのもまた奇襲!


 勢いよく『牛若◎』が登場!


「にじゅうまるならぬ、はなまるのステージを見せてやるぞ! お前たちもかかってこい! かかってこい! かかってこないと損するぞ!」


 一曲目は「恋の五条大橋、吊り橋効果!?」。


 一点の非の打ち所もないパフォーマンス。


 いや、マイナスがないとかそういう次元ではなかった。

 見た者の心を無理矢理にでも浮き立たせてしまう、そんな歌だ。


 弁慶ちゃんは全力で楽しんでいた。

 京都の小さな会場で辻斬りよろしくしょぼいアイドルを倒していた時代と比べれば、このアリーナのステージは最高と言うしかない。敵が何人いようと知ったことか。自分の最高到達点だ!


 静も一人では決して得られないユニットの喜びをとことん表現していた。


 義経は親戚の『さねともみなも』にも見せつけるつもりで踊り、歌っていた。


 その一曲で会場の空気が変わった。

『さねともみなも』は別としても、それまで出てきたアイドルより、すごいのではないか。そのパフォーマンスを見た観客はそう認識せざるをえなかった。


 立て続けに『牛若◎』は曲をプレイ。


「舞い上がれ、天空テング

「作るぞ、レジェンド!」

「はっそージャンプ!!!」


 休むことなく攻める、攻める、攻める!


 一秒ごとにアンチがファンに裏返っていく。


 それは昔から弁慶ちゃんがやってきたことだ。


 そうやって相手アイドルのファンを食って生きてきた。


 ある意味、これは原点回帰だ。


 最も弁慶ちゃんが得意としてきたやり方だ。


 どこからだろうか、形勢が逆転していた。


「はっそージャンプ!!!」が終わった後には、メンバー名を呼ぶコールが起きた。


「義経、義経!」「弁慶ちゃん! べんけーちゃん!」「静、静、し・ず・か!」


 彼女たちは壁をぶち破った。

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