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赤の騎士とスピリットドレイン  作者: 流 齡
第一章 塔の目覚めと騎士の誓い
7/10

7.森に迷いしもの

 僕達は今緑生い茂る薄暗い森の中の道なき道を進んでいた。ま、迷ってなんかないよ、地面に足がついてるなら真っすぐ行けば森から抜け出せるんだから迷ってはないんだよ。例えもう森に入ってから二日経ってても大丈夫だよ。僕らはほら探し物をしてるんだ、そう簡単に見つかるわけないじゃないか。

 僕は心の中で意味のない言い訳を並べているとふと隣を歩く騎士が足を止める。僕も止まり騎士の顔を見ると騎士の手の先に少し傷が付いた木があった。


「ふむ、ここに来たのはこれで二度目かどうやら少しばかり空間が歪んでいるようだな。」


 と騎士は無慈悲なる現実を突きつけてくる。そう、この木の傷は前に通った時に騎士がナイフを手にしてつけたものです。ちなみにこの木は4番目の木で二回目。前の木は7番目の四回目でした。そうです迷子ですよ。

 どうしてこんな不思議空間に入ってしまったのでしょうか。僕は思わず空を見上げてため息をつきそうになります。


「アルド、原因はわからないの?」


 と僕は心の声を出さないように冷静に、騎士に尋ねます。


「このような現象を誰かが起こしたというのなら、我らは当たりを引いたと考えるべきだろうな」

「当たり?それは僕達が迷わされているという事なのね」

「迷いし者達は何らかの手段で我らを迷わせ襲いかかる。これもそのうちの一つであろう。そのうち出てくる」


 その後も僕らは森を進んでいく。代わり映えのない森の中、草をかき分ける音と土を踏みしめる音のみが森の中に響く。

 そこで僕は気付く、風が吹いているのか木の枝が揺れている。だがその音が聞こえない。枝が揺れる音、葉っぱが擦れあう音が一切聞き取れず、さらに僕たちのいる所には風が吹いていない。


「アルド、休憩、しよ?」


 そんな僕の様子に気付いたのか騎士は近くの倒木に腰を掛ける。僕もその隣へ座る。

 迷いし者が現れる前兆として様々なパターンがある。これはその一例。

 一つ目に本来あるべき木々の音が消えそうになっていた。この現象が起こるという事は迷いし者が僕らの存在に気付いたということだ。

 二つ目に急に辺りが薄暗くなる。太陽が見えず、空一面を黒に塗りつぶしていった。だが次の瞬間には僕の髪が淡い光を放つ。そのおかげて5m先の木がぼやけて見えるぐらいには明るくなった。そしてその先には青白い輪郭のぼやけてかろうじて人だと分かる者が立っていた。ここまでが迷いし者が僕らを視認した瞬間だ。


――ウオオォォオオオオオオオ


 迷いし者から呻き声が響き迫る三つ目、その者は一瞬にして消えて、背後に現れた彼女は僕の首にナイフを切りつけるが僕は動けない。いや、動かない。

 ギャリンと鉄と鉄が擦れあう音が僕の背中から鳴る。騎士は僕を覆うような巨大な盾を手に僕の背中に立っていた。


「やぁ、初めまして」


 僕はゆっくりと立ち上がりクルッと回る。髪の毛がそれを追うようにふわっと広がる。


「悲しい顔をしているね。でも大丈夫、僕が輪に戻してあげるから」


 僕はできるだけ優しい顔で優しい声で、僕は妖しく輝くナイフを胸に泣いている彼女に笑いかけたのです。


 本来迷いし者はそう長くはこの世には留まらないものです。理由は単純に苦しみや悲しみ恨みなどの負の感情は長時間維持できないからだと僕は思っています。

 では何故このように留まってしまう人がいるのか、それは彼女の場合は胸に抱くナイフが原因でしょう。

 物には知らぬうちに愛着が沸いてしまいます。お小遣いを貯めて初めて買った筆、親しい人からもらったお気に入りのリボンなどです。

 彼女の場合、旦那様からいただいたナイフには思い出が沢山詰まっていたのでしょう。そしてそれを塗りつぶす恨みの思いもナイフに込めてしまったのでしょう。

 結果彼女はこの世に留まってしまった。このナイフがある限り彼女の魂はこの場を離れられない。

 それは悲しいこと、だから――


「君が苦しんでいる。だから僕は助けに来たんだ。でも君の魂は少し澱んでしまっている。」


 僕は悲しい顔をしているだろう、彼女へ歩みを進める。彼女は僕の言葉を聞いてさらに涙を流す、懺悔をするかのように膝を折り、胸に十字架の代わりにナイフを握り締める。

 彼女の目からは僕はどう見えているのだろうか。自分を救うべくして現れた救世主か、それとも終わりを告げる為に現れた死神だろうか。

 僕の白い髪は天から舞い降りた天使のように輝いて見えるだろうか、僕の赤い瞳は地獄へと誘う悪魔のように見えるのであろうか。

 僕はそっと両手で包み込むように彼女の手を握る。だがナイフから妖気とも呼べる刃が僕の手を浅く幾重にも切り裂く。

 後ろにいるアルドが剣を手に今でも襲ってしまいそうだ。けど駄目、僕は騎士に手を出すなと首を振る。彼女には僕を襲う意思は感じない。


「大丈夫だよ、僕に任せて」


 僕の姿に頭を振り回し乱れている彼女に僕は再度大丈夫と語りかける。


「本当はとても優しい君のこと僕はちゃんと感じてるよ。だからもう苦しまないでもう終わったんだ。後は僕に全部任せて」

「ウゥウゥゥ」

「僕は君を救う為にここに来たんだ。君をあるべき形に戻す為に」

「ア、リガ、トウ」

「うん、来世ではうんと幸せになれるように願っているよ。じゃまたね――『スピリットドレイン』」


 その瞬間、彼女は淡く光り始め僕包むように光の粒子となって僕の中へ吸収されていく。

 身体に入ってくる光は暖かくて気持ちのいいものだった。光が収まる時、僕は恍惚とした笑みを浮かべ「ふぅ」と息を漏らすのだった。

 僕の手には一本のナイフだけが残っていた。その刃にはもう妖気は纏っていないただのナイフになっていた。


「終わったな」

「うん」


 騎士は僕の肩にそっと手を置いた。震える僕はしばらくの間騎士に身を預け涙を流す。


「ぢがうんだよ、僕が泣いてるんじゃないんだ。彼女の記憶、うぐっ、ぜいなんだから」

「ああ、わかってる」


 僕が魂を取り込むとその者の記憶などを全て継承される。

 僕は結局夜が訪れるまで騎士の胸の中で泣き続けるのであった。

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