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016.大根よさらば

タイトルは出落ちに近いです。(´・ω・`)

 

 門を乗り越えカレンが敷地内に着地すると、屋敷前には、入口に横付けされた二頭立てのほろ付馬車が二台と、そこに荷物を運び入れる男たちがいた。


 ――十二人。


 人数をざっと把握する。

 今外にいるのはそれだけだが、中にはもっと居るだろう。


 着地音もほとんど立てずに降り立った少女を見つけたのは、馬車の手前に居た数人だった。

 急に現れた侵入者の性別が女だったことに動揺し、警戒の声を上げるのに数秒躊躇いがあった。


 その数秒を無駄にすることはしない。

 カレンは馬車までの三十歩程距離を一気に詰めた。


 後ろでルドルフが着地した気配もしたが、待つことはない。


 カレンが初めに狙ったのは、何も気づかず、今まさに麻袋を馬車に積み込もうとしていた男。


 肉薄する気配をその男が察したのは、自分に向かって――黒い円形状の物体が横面に叩きつけられる直前だった。


 くわあぁぁぁん。


 軽い銅鑼どらのような音が敷地内に木霊する。


 何とも間抜けだが、これが討ち入り開始の合図となった。




 門の外から甲高い音が聞こえる。

 マリグが騎士召集の笛を吹いたようだ。


 カレンは、殴った男がゆっくり倒れながら、麻袋を滑らせるように荷台に手放すのを視界の隅で確認した。

 先程動いていた麻袋である。中の人は無事のようだ。


 そのまま地面を蹴り、駆けてきた角度とは九十度左に飛ぶ。


 ふわりと飛んだように見えたが、そのスピードは目に留まらない。

 馬車の手前に居た男に、左半身から迫りながら右手のフライパンを斜めに切り上げる。

 剣を抜いた男は手首を下から突き飛ばされた形になり、衝撃で剣を手放した。


 その男を蹴飛ばすと、後ろから別の男の剣が迫っているのに気付く。思わず左手に持っていたもので防ごうとするが、そこにあるのは大根。


 あ。


 当然真っ二つに切られた。


 ですよねー!


 しまったすっかり忘れてたわーと汗を垂らしながら、バックステップでぎりぎり切込みをかわす。


「おっとっとっと」


 が、相手の踏み込みが意外に速く、フライパンで剣を避けるがなかなか距離を取れない。


 くぁん、くぁん、くぁん、とフライパンがいい音を立てて剣を防ぐ。


 四回目の音が鳴る前に、男の身体が横にスライドした。


「――何をやってるんだ!」


 男が消えた後には、フード姿のルドルフ。どうやら背後から回し蹴りを入れたらしい。

 すかさずカレンがフライパンで男の頭を殴り、とどめをさした。


「助かったわ!」

「真面目にやれっ」

「――がっ!」


 自分の顔の横を何かが通り抜け、背後で男の声がした。ルドルフが振り返ると、そこには倒れる男と、転がる大根(半分)。


 ルドルフの肩越しに男が剣を抜いて迫るのが見えたため、カレンが左右の得物を素早く持ち替え、大根を男の顔に向かって投げたのだった。


「借りは返したわよ!」

「どうでもいいが……」


 食べ物は粗末に扱うべきでないのでは、と言おうとしたが、あまりに空気にそぐわないセリフだと思った。


 いや、フライパン片手に大立ち回りをする少女、という光景がすでにおかしい。

 可憐な少女が、舞うように次々と屈強な男たちを倒しているのだ。


 カレンに剣を向ける男たちもどこか戸惑っているようだった。それはルドルフも同様。


「馬を切り離して!」


 カレンがフライパンでまた一人、男を殴りながら声を張り上げた。

 馬車から馬を切り離し、"荷物"を運び出す足を潰しておきたかった。


 意図を理解したルドルフは、すぐに思考を切り替え、馬車と馬を繋ぐ縄を切った。

 勿論、途中で何人かを切り伏せる。

 離した馬の尻を叩くと、ひと鳴きしてどこかへと走り去っていった。


 そして剣を振り、ようやく本格的に参戦しようとカレンの元へと走り寄った。


「ルドルフ、殺しちゃだめよ!」

「なせだ」

「なぜで、もっ」


 最後の一言に被せるように、ぼうん、とくぐもった音が鳴る。

 フライパンの底に顔をめり込ませ、一人の男が散った。


「この私に指図するとはな」


 仕方なく最低限の手加減をし、急所を避けながら襲い掛かってくる者たちを切り伏せていく。

 腕はないが、相手も本気だ。そして人数もいる。自分の実力なら問題はないが、それでもがむしゃらに向かってくる相手から、抵抗力だけを奪うような戦い方はめんどくさい。


 初めに居た男たちを無抵抗にした頃。

 さらに五人程のゴロツキ風の男たちが、屋敷の奥から剣を抜いてこちらに向かってくるのが見えた。


 そこに遅ればせながら銀髪の騎士が追いついてきた。


「マリグ、遅いぞ」

「すいません。代わりにここは俺が」


 真面目な顔をしたマリグはしゃん、と音を立てて剣を抜く。


 そして一転、


「かぁかってこい、雑魚どもがァ!!」


 鬼の形相で、吠えた。


 ――え゛。


 カレンの顎がかくんと下がる。


「え、ええと、ルドルフ?」

「――ああ、マリグは剣を抜くと人が変わるんだ」


 ゴロツキの集団に突っ込んでいくマリグの背を指さしたカレンに、ルドルフが冷静に言う。

 いや、よく見ると目がちょっと遠い。


「夜会の時は普通だった気が……」

「知らない令嬢もいたから、叫ぶのは自制したんじゃないのか。目はあんな感じだったがな」


 ゴロツキたちを次々切り伏せていくマリグは、まるで涎を垂らして牙をむく獣だ。

 銀髪を振り乱しながら剣を振るう顔は、嬉々としていた。


「殺すなよ」と声を掛けるルドルフの声も届いているのか怪しい。


 カレンの中で『月光の騎士』像ががらがらと崩れていく音が聞こえた。


 ゲ、ゲームには無かった設定だわぁ。


 紳士な騎士への尊敬も消えそうだ。


「カレン。それより今のうちに中に入――っ!」


 カレンを振り返ったルドルフが、腕を跳ね上げ、自分の顔の前で剣を振るった。


 カキン、と音を立てて短い矢が弾かれる。


 それが何かを瞬時に認識し、二人は左右に、同時に地面を蹴った。


 その跡に次々と矢が刺さる。


 ――ボウガン!


 上を見上げると、屋敷の二階、玄関の上の窓とその隣の窓からボウガンを構える何人かの男たちが見える。

 カレンは舌打ちする。


 六人か、ちょっと多いわね。


 スカートの下の短剣に触れる。

 投擲したとしても、一階のこの場所からでは攻撃するには少し遠い。それに六人を攻撃できる数はない。


 彼女・・ならいけるかもしれないが。


「カレン、馬車の陰に!」

「だめ、"荷物"を守らないと!」


 馬車の陰からルドルフが呼ぶが、カレンは男たちが運ぶ途中で地面に置いたままの"荷物"の前に立つ。


 中身は"人"だ。

 この距離で、ボウガンの貫通力で矢が当たったら、無事では済まない。


 実際、人質と考えたのだろう。数人の男のボウガンが、カレン達ではなく"荷物"に向いていた。


 次々降り注ぐ矢をカレンはフライパンで見事に叩き落としていく。

 ルドルフも、ゴロツキを叩き伏せたマリグも同様に"荷物"を守った。


「多いな」


 ルドルフが矢を落としながら漏らした。


 確かにボウガンの矢が尽きる様子がない。

 矢を落とすだけなら、カレン達にとって苦労はない。が、矢が尽きるか、相手の攻撃を何らかの方法で無効にするかしなければ決着がつかない。

 そうでなければ、こちらの体力がゼロになったところでゲームオーバーだ。


 誰か一人を特攻させるか。


 カレンが考えたとき、屋敷から次々と男たちが出てきた。

 その数、約三十人。

 そして、二階にボーガンを持った男が、玄関上のその脇の窓にそれぞれ三人ずつ増えた。


「あらー、時代劇もびっくりな人数だわー」


『出あえ、出あえー』で武士がぞろそろ出てくる時代劇のシーンを思い出す。


「ジダイゲキが何かは知らんが、こいつらが雇われた街のゴロツキたちか。さすがに多いな」

「駆逐する!」

「マリグは黙れ」


 ふしゅるるーと息を吐きそうな近衛騎士を黙らせ、ルドルフは矢をひとつ叩き落とした。


 ボウガンの攻撃が一旦止む。

 下に味方がいるためか、一度体制を整えるためか。


 カレンの背に、一筋汗が流れる。


 下の男たちだけなら何とかなるが、ボウガンはやっかいだ。尽きる気配のない矢を捌き、"荷物"を守りながら戦うのは難しい。

 それに、きっと屋敷の中にはまださらわれた人がいる。

 早く救出に行かないと、外でてこずっている間に危害を加えられてしまうかもしれなかった。


 ――まだか。


 カレンは、待っていた。


 外城に向かう際、「西区の詰所に」と声を張り上げたから、それを聞いて連絡に走っているはずだ。

 そして、そろそろ――


 それらを待ちながらも、今の三人でこの状況を打破する方法に考えを巡らせていると、二階のボウガン隊が一斉に構えた。


 誰か、この集団を指揮するものがいるようだ。

 二階を見ると、ボウガン隊がいる窓の奥に、ちらりと人影が見えた。


「二人とも!"荷物"を守るのを優先だ、騎士が来るまで耐えろ!」

「それしかないわよね!」

「承知ッ!」


 最善策と言えるか分からない。が、人命優先を取ったルドルフにカレンも同意する。

 彼ら(・・)がまだならこの方法でやるしかない。


 持久力が勝負ね。


 ボウガン隊が矢を放った。


 ――半分ずつか。


 憎いことに、多少時間差をつけて攻撃するようだ。ただのゴロツキではこの方法は取れないだろう。


 第一陣を弾いた直後、カレン達にすぐ次の矢が迫った。


 ちょっと、ヤバいかもしんない――


 神様に祈りかけた瞬間。


 カカカカッと音がして、ボウガン隊の半数が倒れた。


 同時にカレンの目の前で、ふわりと黒い服の裾が舞い、残りの全ての矢が地面に散る。


「――全く、だから面倒事に首を突っ込むのは止めてくださいと申し上げましたのに」

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