装飾廃材の売却済みは、夜番の帰宅賃を燃やせません
廃材置き場は、王子府式典倉庫の裏口よりさらに冷えていた。
薔薇木箱から外された香油布、折れた飾り板、金粉のついた釘箱。祝典の残り物に見えるものばかりが、灰色の縄で一束にされている。束の上には、赤い札が一枚だけ差してあった。
――装飾廃材、売却済み。火気番立会い不要。
「売れたものなら、もう王子府の帳ではありません」
ローゼン装飾商会の使いが、鼻先を袖で押さえた。
「香油布は燃やして処分します。夜番の帰宅賃だの裏口灯油だの、廃材には関係のない項目です」
セリムが小さく首を振った。
「違います。香油布は、ただの布ではありません。昨夜、片輪の車を廃材置き場まで戻した時、火を近づけるなと火気番の婆さんに止められました。香油が残っていたから、馬車道を遠回りしたんです」
エレノアは赤札を抜かず、下に挟まれた夜番帳を開いた。
一行目、廃材火気番立会い。空白。
二行目、遠回り帰宅賃。空白。
三行目、香油布の保冷水桶。空白。
「売却済みは、買い手が決まったという言葉です。火気番が立ち会い、馬丁が帰り、保冷水桶が戻る前に、生活到達を閉じる言葉ではありません」
倉庫係は困った顔で判を持った。
「ですが、廃材置き場は早朝までに空けろと。王宮厨房への薪車が通れません」
その言葉に、ミリアが顔を上げた。
「厨房の薪車……北方の返書便ではなく、晩餐会の火ですか」
「はい。薔薇飾りを焼く香油が残ると、通路が危険で」
「なら、なおさらです」
エレノアは香油布の端を水桶へ戻し、青い保留札を置いた。
「晩餐会の火を守るためにも、昨夜その火を止めた人の帰宅賃を燃やしてはいけません。火気番の名を呼んでください」
廃材置き場の小屋から、白髪の老婆が出てきた。煤のついた手で腰布を押さえ、遠慮がちに名乗る。
「火気番、マーサ・ベル。香油布二束、未消火。セリム坊の馬車を北回りへ出しました」
「聞きました」
ミリアは赤札の余白へ、自分の名ではなく、マーサの名を書いた。
――売却済み保留。火気番マーサ立会い未了。セリム遠回り帰宅賃、半刻分未払い。保冷水桶一つ、夜明けまで廃材置き場へ残置。
小さな報酬だった。セリムの銅貨袋に半刻分が足され、マーサの立会い欄に初めて名が入った。香油布は売られず、水桶の横で朝まで眠ることになった。
ローゼン商会の使いは、赤札を握り潰しかけて止まった。
「廃材の買い手はもう記載されています。そこまで保留されては、こちらの引取帳が合いません」
「合わないなら、合わない行を残します」
エレノアは売却済みの裏面を返した。
そこには、リオネルの私室机とは別の名が細く写っていた。
――買受人、王宮厨房外火守り代行。
ミリアの指が、青い札の上で止まる。
薔薇木箱の廃材は、晩餐会の火元へ先に売られていた。




