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1話 『少年』と騎士

白いローブの『少年』と騎士のほんの一瞬の物語

 早朝、小雨が降っていた。


 騎士のフォールは、街外れを巡回中に少年のような存在と遭遇した。

 少年は白いローブを身につけ、裾は赤黒い血に汚れていた。

 その身体は呼吸をしているのかも怪しいほど微動だにしない、彫像のようだった。何かを考えているのか、ただ俯いているだけなのか、判然としないまま、顔はわずかに地面へ向けていた。


 フォールは息を呑んだ。少年の異様な雰囲気に加え、その周囲には、成人の男の死体が5体ほど転がっていたのだ。

 少年から2メートルほど距離を置き、フォールは腰の剣のヒルトに手を添え、話しかけた。


「……助けはいるか?」


「誰だ」


 発した少年の声と口調は、その姿よりも大人のようだった。


「近くの城の騎士だ」


「そうか」


 小雨の音が少し強く続いた。

 フォールはまた少年に話しかけた。


「……その者たちは?」


「知らない」


「君が殺したのか?」


 少年は初めてフォールに顔を向けた。

 フォールは目を見開いた。

 小雨の雲から微かな太陽の光に照らされた少年の容姿は、骨格通りの子どもだった。

 少年は語った。


「そうだ。こいつらは私の身体をバラして金にするつもりだったらしい。私はただ道を歩いていただけだ」


 覇気は薄かった。その瞳は丸い輪郭と(つや)のある白い肌とはあまりそぐわない。大きく、緑色に淀んだ宝石のようだった。

 フォールは少年を囲うように転がる死体たちを一瞥(いちべつ)した。いずれも剣を抜いた状態で、心臓があるはずの箇所には同じ大きさの丸い穴が空いていた。他に損傷はない。役目を果たさず、死体に握られたままの剣の刃は、小雨に濡れて虚しく澄んでいた。

 フォールの脳裏に1つの結論が浮かんだ。


 ――人間じゃない。


 フォールは迷いを断ち切るように左足を1歩、前に出してはっきりと言った。


「城に連れて行く」


「捕らえるか」


 フォールは少年の目をまっすぐに見つめた。


「……無視はできない。それに、ここから我が国の城は近い。返り血を浴びたローブを着たままうろつかれたら、我が国の評判に関わる。そこの死体たちもきちんと弔う」


 嘘ではなかった。実際に今フォールが立っている場所は、国が管理を管轄する区域であり、城までも徒歩で行ける距離だった。

 少年は再び何かを考えるように死体の方へ顔を落とした。


「お前の国では人殺しを城へ招くのか?」


「あり得ないことだ」


「そうか」


 気づけば小雨は晴れ、朝が訪れていた。


 フォールは無言で少年に背を向けて、城の方角へ歩き出した。

 数歩遅れて少年も歩き出した。湿った地を黒いブーツで踏みしめる歩幅は狭く、その仕草はまるで、親の後ろを渋々ついて行く子どものようだった。

【次の更新】

仕事をしながらのため、不定期になります

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