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夏祭りの胸騒ぎ(5)

SFカテゴリーで『光と陰-織りなす夢に形』に、双子の美人をヒロインにして毎日投稿しています。

純文学のエッセイでも思ったことを随時投稿していますが、短編集も書いてみることにしました。

反応が強かった短編を長編にしていこうかなと思っています。これもまた宜しくお願い致します!

すでに30歳に近くなってきているので、女子に対しての抵抗力はかなりついたと自負している。

なので、はたから見れば、うちの女子スタッフはかわいい子揃いで、そんな職場環境で仕事をするのって

羨ましいとか、よくそんな女子だけの空間で欲情しないでやってられるな!とか言われたりもしている。


だがしかし、その悟りに行き着くには結構な月日が必要であった。

今でもたまに思い出されるのが受験戦争真っ只中の中学時代である。

競争社会の世代であるため、開けても暮れても勉強勉強の毎日・・・

自ずと女子と話すことなど控えめになる。なぜなら思春期の男の子には刺激が強すぎるからだ。

よって、自己防衛策として自らそういった現象に陥るのを回避していたのだった。


特に、今でも惜しまれるのは、何人かの女子学生である。

『ああ、もっと話して親しくなっていたらな〜』

当時は対女子抵抗力が低く、相手から話しかけられても必要最小限の言葉しか返せていなかった。

『回避』と言う目的のために異常なまでに意識し自己防衛していたのであった。


それが受験戦争が終わり平和が訪れたと同時に後悔も深くなっていった。

あの夏祭りの日の思い出・・・

今でもその幻影が浮かぶ。

『あの時の胸騒ぎ・・・ 痛いような快楽』

今でもその光景を浮かべるとドキドキしている自分がいるのだ。

この感覚は?

もう取り戻せない。


それから大学時代には、まるで性格が変わったかのようにナンパに打ち込んだ。

失われたものを取り戻そうとしているかのように。

回数をこなしていき、そして悟ったのだった。

『これって慣れなんだな!』

その悟りを開いた瞬間、あんなに緊張していた自分が情けなくなった。

吹っ切れた自分の中には、女子と話すときに冷静に観察しているもう一人の自分が後ろにいるようになったのだ。

そして、実行部員の僕本人に指令を出してくるのだ。

そう、相手をリサーチして戦略を組んでナンパするというスキルが身についたのだった。


たかがナンパであるが、実はこのスキルの応用は幅が広かった。

僕の1つのお宝になったのかもしれない。

そうして社会人になった今も交渉ごとにとても役立っているのだ。


まあ、そんな黒歴史があったわけなのだが、残念なことに、

あの夏祭りでの胸騒ぎが込み上げてくることは無くなってしまったのだった。

そして、いつしかその感情を追い求めている自分がいた。


翌週の月曜日になった。

また10時に内線が鳴った。

「あっ、一ノ瀬です。金曜日の件でお電話しました。実は社長がJAFICのイベントに参加されるのですが、

何人か社長に同行することになりました。その中に新規事業の責任者の石塚さんも含まれています。後ほど詳細の連絡が行くと思います。私も社長に同行しますので宜しくお願い致します。それが終わった後に例の件も宜しくお願い致します。」

と言うことであった。


そのイベントは渋谷のセルリアンホテルで行われた。イベント自体は年末行事としてJAFICが執行しているので

社長は来賓の一人であったが、僕らは社長の後について事務局及び他の来賓と名刺交換となった。

僕は意識的に社長をサポートしている秘書とは間をとるようにしていたのだが、社長の隣に姿が見えなくなった

と思った瞬間僕の隣にいた。

彼女は小声で、「これ渡しておきますね。」と言って何もなかったかのように離れて、また社長の隣に立っていた。


その挨拶の列の最後尾で、渡された2つに折られた紙切れを開いて見てみると『社長をタクシーに乗せてから道玄坂上交番前で待ってます』と言う伝言であった。

『道玄坂? 確かにセルリアンからは首都高3号渋谷線をくぐれば行ける・・・でも、道玄坂というと、ラブホ街!? 一体なぜ? 意味はないのか!?』と思った。


そして、この会合は終わり、社長に挨拶をしてセルリアンを後にした。

僕はゆっくりとしかもブラブラと目的地に向かい歩き始めた。

振り返ってみると秘書が社長と常務をタクシーに乗せている姿が確認できた。

僕がいたのが場違いな感じでもあり、他は全員社長以下のお偉方だったから、まだそれを捌くのに時間がかかるだろうと踏んだのだった。


そして、目的地の交番前に着いてぼーっと車の行き来を眺めていた。

しばらくして、「あっ石塚さん!成功です!おじさん達はやっつけてきましたよ!」と言いながら

彼女は笑顔で走ってきていたのだった。

いつもよりも秘書風コスチュームでオールブラックのタイトスカートスーツにピュアホワイトのブラウスだった。


「やあ!お疲れ!おじさん達の相手大変だね!」と返すと、

「慣れてますから。」と返ってきた。

「実は奢ってもらえるということなので、道玄坂にある人気の居酒屋に行ってみたかったんです。」

「え、そんな居酒屋あるの? 場所知らないけど・・・」

「大丈夫です!場所は確認済みですから、じゃ行きましょう!」と言って、

自然に僕の腕を組み歩き始めたのだった。


『えっ 腕組み?? 僕たちはやっぱりすでにカップルなのか??』

ちょっと驚きの表情に気がついたのか、

「私、父が大好きで、よくこうやって腕を組んでいたんです。つい無意識でそれが出てしまいました。

ご迷惑ですか?」

「えっ、そうなんだね。大丈夫だよ、僕でよければ。」と動揺を隠して返したのだが、我ながらいい反応だと思った。

『彼女は、ファザコンなのか!? おじさん好きだと言ってたしな。でもなんで僕が??』と疑問が果てしなく広がっていった。


そして、お目当ての居酒屋についた。

彼女のことだから、なんかオシャレな居酒屋なのかなと想像していたのだが、見事にそれが裏切られ、

そこにはなんの変哲もない普通の年期が入った居酒屋の入り口があった。

「ここです!入りましょう!」


「2人テーブル席でお願いします!」

「いらっしゃい! じゃ、そっちの奥でいいかな?」と大将が。

僕らは混み合っている店内を通り抜けて奥の席に座りメニューを見始めた。


バイト風の若い子がオーダーをとりに来たので、僕らはとりあえずビールをジョッキで

それと彼女がおつまみをいくつかオーダーしてくれた。

またもやリードされてしまったのだった。しかしやっぱり慣れている・・・


「ここ、なんかフツーの居酒屋ぽいけど・・・なんでここに来たかったの?」

「知り合いから聞いたんですが、ここ道玄坂にはラブホがたくさんあって、

よくパパ活の女の子とオジサンが利用するってことなんです。」

『???』謎であった。今急遽分析中である。

『パパ活の現場に興味がある?』

『パパに興味がある?』

『パパ活の女の子に興味がある?』

もしかしたら・・・

『ここからラブホに行ってみたい?』

いやいやそれはないだろう!!!


「へえー じゃ僕らもパパ活??」とジャブを入れてみた。

「私、パパは好きですけど、パパ活はしませんよ!」

意味ありげな返答であったが、曖昧すぎてそれ以上は分析できなかった。

一瞬、僕がそのパパってことなのかな?とも思ったのだが気にしないことにした。


「しかし、一ノ瀬さん、僕はいいけど、今日で3週連続の金曜日デートだけど、本当に彼氏いないの?

いると怒っちゃうと思うんだけど。」

「だから、いないですよ!金曜日は一人じゃ寂しいんでこうしてもらえると私有難いんです。」

「でも、一ノ瀬さんは会社のマドンナだから色々とお誘いあるでしょ〜?」

「まあ、よく言われますが、なんだかんだ言ってお断りしています。あとが色々と面倒くさいんで・・・」

と言いながら顔が少し曇ってしまった。

『入社してから8ヶ月以上は経つから今までに何かあったのだろうか?』とも思った。


「僕はめんどくさくないの?」

「それはそうですよ!石塚さんは品行方正な方ですから!」とまた笑顔に戻っている。

という雰囲気で今週1週間の出来事を笑いながら色々と話してくれたのだった。

確かに、他の社員に聞かれると問題になりそうなネタもあったのだが、ストレスが溜まっているのだろう。

同僚には話せないし、本社の社員でも問題あるしってことで、同じ会社だが別会社の僕に話しても

差し支え無さそうだってことなのかなと感じた。


そして気がつくと彼女はいつの間にか日本酒を飲んでいた。

「えっ一ノ瀬さんって、日本酒好きなの?」

「はい、このちょっぴり甘くて、飲むと身体がドクドクしてくるのがいいんです。」

「お酒強いんだね〜 でも、あまり飲みすぎると帰れなくなるよ。」

「大丈夫です!ここからは近いんで!」

暫くすると、やはり酔っ払った感じで腕をテーブルについて上半身を支えているようである。

「大丈夫です。」とは言いつつも、目が虚になっているようにも見える。

そして、テーブルにうつ伏せになってしまった。


『やばい、やばい!どうしよう!? このままほっとくと・・・』

僕はそそくさと会計を済ませて、コートを持って一ノ瀬さんを抱きかかえ店の外に出た。


半ばぐったりとしている状態で、彼女の身体の重さと温もりを全身で感じた。

「ちょっと頑張ってここで立っててね!コート着させるからね。」と言いながら、

僕が彼女に着させていると、立ってはいるが顔が僕の首にくっついてきた。

目は瞑っているようだ。

僕はそのままにして、ボタンをいくつかとめた。

「これで大丈夫かな? 寒いから風邪ひいちゃうからね!」

さらにグッタリとしてきて彼女の柔らかい胸が僕に密着しているようだ。

辺りを見回すとラブホテルのネオンが輝いている。







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