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幻影(短編集1)  作者: 三海怜


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4/10

夏祭りの胸騒ぎ(4)

SFカテゴリーで『光と陰-織りなす夢に形』に、双子の美人をヒロインにして毎日投稿しています。

純文学のエッセイでも思ったことを随時投稿していますが、短編集も書いてみることにしました。

反応が強かった短編を長編にしていこうかなと思っています。これもまた宜しくお願い致します!


そして金曜日となった。

やはり午前10時きっかりに内線がかかってきた。


「あっ、もしもし一ノ瀬です。本日の件ですが、18時半に渋谷のロフト前でいかがでしょうか?」

『なるほど、社長か誰かがそばにいて仕事の電話風にしているのか・・・』


「わかりました。では、18時半に伺います。」と僕も口調を揃えて答えた。

そして、彼女はその要件だけを伝えるとすぐに電話を切ったのだった。

『一体、18時半に待ち合わせてどうするんだろうか? 

まあ、今日の仕事を早めにやっつけて、早めに向かうことにしょう!』


仕事は年末を迎える時期で立て込んでいた。

その中で2月からの出店に向けて本社の店舗開発部と最終の詰めを行わなければならず、

久々に本社でうちの担当とのミーティングがあった。

営業部のスタッフは、本社が抱える全てのブランドの出店交渉を館と行っているため

顔が広く、おまけにやたらと噂話を仕入れてくるのである。


「じゃ、ということは上期は4店舗ということですね。で、9月は一気に4店舗オープンで

今年は8店舗展開ですよね!?」

「いやー、悪いね予算行かなくて。やっぱり実績がない新規ブランドだから

109での売り上げを見てからとかいうバイヤーが多くてね・・・」


「ところで、長瀬さん、社長秘書の一ノ瀬ってご存知ですか?」

「ああ、知っているよ。うちのスタッフもあいつと呑んだりしてるみたいだけど、超遊び人とか言ってたぜ。」

「え、そうなんですか?」

「いやー、結構オジサン系に受けがいいみたいで、奢ってもらって貢物とか金も使わせて、

いい具合に転がしてるとか言ってたぜ。でも、なんで?」


「いやー僕も先週社長からの命令とかで109でリサーチ説明を彼女にしたんですよ。社長はおじさんだから09に

いけないからお前が代わりに言ってこいとか言われてらしいんですが。」

「なるほどね、奴は社長が数いる新入社員の中からあいつを選んだだけあって超お気に入りなんだよ。

本人もそれを知っているから、なんか怪しいほどお2人は親しげらしいぜ。

お前もやられて変な噂が立たないように気をつけなよ。」

「そうなんですね。ご忠告ありがとうございます。」


『なるほど、一応噂話でも参考に聞いておいてよかったな。今日は何があるのかわからないけど

気を引き締めていかないとな!』と心したのだった。


やっと本日最後の商談に漕ぎ着けた。

急遽17時過ぎにメーカーさんが春立(春立あがり商品)の修正サンプルを持ってきたのだった。

担当デザイナーのユキ曰く修正依頼をかけた通りに直っておらず、

メーカーさん的にはパターン的に量産レベルでは無理があるというのだ。

それをコスト的にもハマるように調整していたため、退社するのが少し遅れてしまったのだった。


僕は、3人に最後の指示を出して会社をこっそり抜け出し走っていった。

待ち合わせの時間にすでに15分遅刻している。

彼女の素を知らないので何を言われるかわかないと少し焦っている自分がいた。

社長にマイナスなことを言われたら、ここまで死にそうになりながらやってきたのにたまったもんじゃない。

今日の長瀬さんの話は聞いておいてよかった。

もしかしたら彼女は社長のスパイなのかも知れないと思えてきたのだった。


やはりロフトの1階入り口に入ったところに彼女を発見した。

僕は防御を固めて、「いや、一ノ瀬さん、ごめんごめん、商談が長引いちゃって遅れてしまった。まった?」

「いえ、大丈夫ですよ。こちらこそお忙しいところ無理言ってすいませんでした。じゃ、この先のスペイン坂の新しいレストランに予約したので行きましょう!人気なので一度行ってみたかったのです。」


そして外に出ようとすると、いきなり雨が降ってきたのだった。

『やば、傘持ってないわ・・・』というよりは僕はいつも手ぶらだった。ポケットに財布と携帯電話のみなのだ。

躊躇している僕を見て、「大丈夫です。私傘持ってますから。」と言いながらレザーのトートバッグから折り畳み傘を取り出して開いた。


「さあ、どうぞ」と言って僕の左横に入ってきたのだった。

『えっ これっていわゆるアイアイ傘ってやつじゃん!会社の人に見られたら・・・」と頭をよぎったのだが、

『でも、これに入らないと目的地まで濡れていくことになるから、まあ、しょうがないか!?』と言い聞かせて

「ありがとう!じゃ、遠慮なく。」と言って自然な感じで彼女の横に並んだ。


「階段の途中になのですぐですから。」と言いながら2人でスペイン階段を下がっていった。

「ここです! イタリアンはお好きですよね!?」

「へえー いい感じじゃない!」

「17時に予約した一ノ瀬です。」とまるで秘書のようにリードしてくれたのだった。


僕らはレストラン奥の2人席に座って、シェフのお勧めをオーダーした。

「一ノ瀬さんって、新卒なのにこういうの慣れてるんだね。秘書だから?それとも学生時代から?」

「そうですか? 私、年上の方が好きなので、年下の私がやることが多くて・・・ゼミの時もよく教授に

してたからですかね?」

「なるほどね〜 いいと思うよ。なんのゼミだったの?」

「私、あまり会社では言ってないんですが、スクーバダイビングが趣味でゼミが海洋学のゼミだったんです。」

「海洋学?まじ?? じゃ理系なの?」

「そうです、実験が多かったですね。」

「へーそうなんだ。驚いたよ。じゃなんで秘書になったわけ?」

「大学で学んだことは、趣味の延長というか、仕事とは別物かなって思ってたんです。本当はFAになりたかったのですが・・・うちの会社の最終面接で社長秘書を打診されていいかなって。」

「そうか、スッチーね!なるほど、わかるわかる!」


これで全て理解できたような気もした。

『サービス精神旺盛で特に目上の人をもてなすってことが好きなのかな!?』と思えてきたのだった。

今一度僕なりに検証すると・・・確かに、今日長瀬さんから聞いたことは、彼女の好意を裏返せば何か裏があってやっている”あざとい女”に思われがちである。僕が彼女に初めて会った時との印象が社内の噂と違っていたので

不可解だったのだが、これでなんとなくしっくりくるようになった。

もしかしたら、この彼女が素でありそんなに身構えることもないのかなとも思えてきたのだった。


「ねえ、一ノ瀬さん、社内ではマドンナとか言われているし、男連中に人気のようだね!?」

「そうなんですか? 色々な部署から飲みに誘われたりはしますが、多分私が社長の秘書だからですよ。」

と謙遜している。

「新卒だから、もう少し学生ぽいのかなと思ってたんだけど、大人ぽくて驚いたよ。ちなみに彼氏はいるの?」

「彼氏ですか?」

やば、まずいこと聞いてしまったかな? セクハラで訴えられたりして・・・

「ごめん、プライベートは言いたくなければ全然いいよ!」とすぐに弁解した。


「いえ、そういうわけじゃないんですが・・・これ絶対内緒ですよ! 実はゼミの教授が好だったんです。」

『まじ!!!??? こいつってやっぱり強者?』

「というよりは、私が一方的に憧れていただけなんですが。教授は結婚していたので。なんか同期とか年下はもちろん、精神年齢が合わないっていうのか・・・」


「だよねー 僕と6歳違うのかな? なんか同期って感じがするよ。」と言って笑った。

「今の話絶対に言わないでくださいね! 他の人が聞くと勘違いされますから。」

「うん、わかった、秘密にするよ。」

「じゃ、指切りですよ。」と言って指を出してきたのだった。

まるで小さな子供のような無邪気な表情でだ。僕もまるで小さい妹にするかの如く

「わかったよ! はい、じゃ指切った!!」と言って子供の頃にやった儀式を済ませた。


すると何故か彼女は笑顔になっており、いつもと違った砕けた雰囲気に変わっていた。

なるほど、会社では大人に見えるように肩肘張っているようである。

それからは普通に同期のように四方山話に盛り上がり、かなりの情報を聞き出すことができた。

気がつくと、あっという間に10時なろうとしていたのだった。


「ごめん、ごめん、そろそろ10時になるね。長距離通勤しているから、そろそろ帰らないと

途中からの終電がなくなるんだ。今日は楽しかったよ!また行こうね!」と言って連絡先も交換した。

テーブルで僕が払おうとしたのだが、この前のお礼で絶対私が払いたいと頑ななため、

それに負けて年下の新入社員に奢ってもらうことになってしまった。


「いやー、ご馳走様! じゃ今度は僕が奢るからね。いつがいいか都合がいい時連絡してね」

と言って別れようとすると、

「じゃ、また来週お願いします!」と言ってきたのに驚いた。

『えっ これって、毎週じゃない!? しかも花金。もしかしてデートってやつ〜??』















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