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徒然と紡ぐ日の影  作者: 村街マイク
12/16

凄い奴 その2

 「という奴がいた訳ですよ。どうですか? ある種の偉人ではないでしょうか?」

 充は下唇を親指で触りながら頷いた。下唇を摘んで離した。

「普通ではないね、素質はあるな。でも、そういう方向性でいいなら、とっておきの話をしてやるよ。本来は黙っておくべきだけど、二人は特別だからな」

 充は久一に対抗心を燃やしながら語った。

 「偉そうに!」

 久一と隼人は口を揃えた。充はグラスを斜に構えて揺らしながらグラス越しに二人を透かして続ける。


 高校生活を謳歌する為に必要なものがある。それは身を焦がす激情。勉学でもスポーツでも音楽でもいい。もちろん異性だって問題はないはずだ。


 充は四六時中ポケットにしまって置きたいほど好意を寄せる女がいた。充は周りの友人に乗せられ、感情の赴くままに待ち伏せして声を掛けた。二人は付き合うことになった。


 太陽は常に充を芯として降り注いでくれた。そよ風が充を讃え癒していた。


 彼女の誕生日に二人は遊園地に出かけた。結果、充は幸運と不運を手にすることに。 


 「先生に見つかったら怒られるねかな? 不純だーって?」

 彼女は充の腕にからまりながら上機嫌だった。

 「その時は走って逃げるぞ」

 充は彼女の髪に息を吹きかけた。髪が風圧で乱れる。それを撫でて直す。

 「置いてかないでよ?」

 「置いてくよ! 内申書に響くとやっかいだろ?」

 「意地悪!」

 置いていく訳がない。先生に平謝りしながら彼女に非がないことを延々と説明する。こんな素敵な人に非がある訳がない。

 

 二人はレストランで昼食を取ることにした。平日ということもあり店内は閑散としていた。

 「やっぱりこういうところは高いね」

 彼女はメニューを眺めながら充の懐具合を気にかける。

 「大丈夫! 好きなのを頼めばいいから」

 「じゃあ、本日のオススメランチ」

 「もっと高いの頼めば?」

 「いいの、これで」

 「じゃあ俺も」

 「あっ、アイスミルクティーもいい?」

 「いいよ」

 充は珍しく神様に感謝した。いつも神頼みは後払いにしてから踏み倒すのに。

 彼女と過ごせるこの時を与えてくださったことに。

 

 神様は常に人々に平等なのか? フラットなのか? そうだという人、断じて違うという人。我々人類に興味がないと主張する人。そもそもいないと断言する人。


 二人は最近流行りのパンクバンドについて話をしながらオススメランチを堪能していると、少し離れた席に一組のカップルが着いた。充は気にも留めなかった。彼女はその客の方に視線を送りながら気にかけていた。充は振り返って見ようとはしなかった。もしも因縁などつけらたら、たまったものではない。今日という日が台無しになってしまう。

 「充君、あのカップル怪しいのよ」

 彼女はサラダのトマトを箸で掴んで充に報告する。

 「どう怪しいの?」

 二人は小声で囁き合った。

 「付き合っているのは確かだと思うの。こんな人目があるのに、女がホークに刺したチキンソテーを男に食べさてる。それで男は喜んでるの」

 「ここからチキンソテーだってよく見えるね」

 「いいのよ! 今、私が目がいいという話は控えてくれる?」

 「うん、ごめん、トマト食べなよ。それで?」

 「歳の差が結構あるのよ。あれは危険な恋じゃないかしら?」

 「夢があっていいじゃない」

 「えっ? じゃあ充君は私が年老いたら若い子に乗り換える訳ね?」

 「ないない! 最低だよそんな男」

 「ですよね」

 充は輝く瞳の彼女がトマトを口にした後、どんな二人なのか、さり気なく伸びをする動作にくわえながら振り向いた。


 男は中肉中背中年で、女は若くて明るい茶髪だった。女は男の対面ではなく横に座りながら食事のサポートをしている。男が一口食べると頭を撫でてやり、男は微笑んでいた。稀に見る光景。見せられている方が複雑な気分になる。迷惑をかけられているほどではないが、迷惑なような。注意するほどでもない、注意したなら嫉妬の濡れ衣を着せられてしまう。欺瞞に満ちた牧歌的な光景。苛立ちを覚えてしまう。


 充はその光景により思考が固まった。どくどくと鼓動が加速する。こめかみに血の流れを感じる。どういうことか? どうするべきか? どういうことか? どうすることができる? どうすることもできないじゃないか。


 「オヤジ」


 声にならない声を小さく充はこぼした。

 「いい年して恥ずかしいよね、家でせい家で! よね」

 彼女は噛んで跡のついたストローを咥える。

 「まぁ、恋愛に歳の差なんてって言うし」

 家でできるはずがない。嫁や子もいるのだ。

 「そろそろ出ようか?」

 「まだミルクティー飲み終わってないから、少し待って」

 彼女は残りのミルクティーを飲み干した。充はこの後、どのようにレジに向かうかシミュレーションをする。

 レジは出口付近にある。その動線に父親の座っているテーブルがある。どうしてもお互いが向き合ってしまう。対面は避けられない。しかし残された僅かな可能性に賭けるしかない。

 それは退行しながら女の食事サポートに父親が夢中で、周りを気にしていないことが第一条件になる。その横を露骨に顔を背けて通過する。

 とりあえずそれだ! それしかない!

 「よし行こうか」

 「うん、次は観覧車だね」

 充の気を知らない彼女の暢気さに背中を押されながらシミュレーション通りに行動する。

 「お腹一杯ではち切れそう」

 彼女は充の手を取った。

 「俺は吐きそう」

 「吐くなら観覧車乗る前ね」

 「はーい」

 充は繋いだ手を上げて戯けてみせた。とりあえずは乗り切れたことに安堵する。家族への裏切りは不愉快だが揉めるにしても適切な時と場所がある。それは今ではない。トイレで息んでいる時でもかまわない。


 退店して感情を持ち直しかけた刹那。

 「おーい充」

 充は足を止める。充が止まれば彼女の歩みも止まる。充より先に彼女が振り向いた。

 「えっ?」

 呼吸を荒げた父親が二人に向かっていた。肩を上下にしながらスーツの胸ポケットから財布を取り出した。

 「デートか? あまり遅くなるなよ。母さん怒らすとあれだから。わかるな、頼むぞ」

 はぁはぁと一万円札を充ではなく彼女に握らせて来た道を戻って行く。中年の全力疾走は滑稽でうら寂しかった。

 「さっきの人?」

 充は父親の背中を店まで見送った。口止め料を息子が拒む可能性を考慮して、彼女に握らせた。かっこ悪すぎる。最低だ。

 「うん、おれのオヤジだったね、ははっ」

 「あのー、いいお父さんだね、こんなにお小遣いくれるし、若い彼女がいるなんてかっこいいからだよ!」

 「あぁ?」

 充は彼女のフォローに一言だけ返して観覧車の順番待ちの列に並んだ。


 二人は誘導員に従い観覧車に乗り込んだ。扉に鍵がかかる。観覧車は機械音とともに回り出した。

 「楽しい一日は直ぐに終わるね」

 「そうだね」

 「もうすぐてっぺんだよ」

 「あっ、これ誕生日おめでとう」

 充はポケットから誕生日プレゼントを出した。彼女は開けてもいいかと尋ねて充は頷いた。

 「つけてくれる?」

 「うん」

 それは彼女の誕生石を用いたネックレス。明るい緑の輝きを放つペリドット。店員に石言葉を教えてもらった時は運命を信じた。そして運命は皮肉も交えていると今日知った。知りたくはなかったけれど。


 充は彼女の首に手を回してクラスプを留めた。彼女はそのまま充を抱きしめて囁き、充に口づけをした。充にとって初めての接吻。

 「大丈夫だよ、私がいるから」

 充は温かなものに抗おうとした。少し目尻から溢れた。ただ素晴らしい一日だ。それ以外のことは無かった。忘れよう。終点まで言葉は不要だった。

 

 観覧車から地上に降りた。彼女は充の手を強く繋いだまま離さなかった。


 二人は帰りにセレクトショップで父親からの一万円を使い、お揃いのチェーンで作られたシンプルなブレスレットを買った。夕食に豚骨ラーメンを食べた。歯に紅生姜が詰まったまま解散となった。

 来年はもっと洒落たディナーに連れて行こうと充は誓った。別れ際にもう一度口づけしたかったが、そういう雰囲気にはならずに別れた。欲を出してはいけない、吠えて川に肉を落とすごとになる。最高な一日だった。充の頭に父親のことがかすめ通った。

 全くもって欲望の権化じゃないか! あの様な者は父親ではない。半分は血が繋がっているとなど反吐がでる。離婚すれば母親について行こう。

 充は多幸感を不快感に塗り潰されながら家路に着いた。


 充にとっても父親にとっても幸いに母親は不在だった。今日はヨガ教室だ。ヨガ仲間と酒を飲んで来るから帰りは遅い。

 充は風呂に入ろうとリビングのソファーから立ち上がると、父親の帰宅するドアの音がした。どうして音で父親と分かるのか不思議だけれど、分かってしまう。

 「お前いたのか?」

 「いるよ、そりゃ家だもの」

 「そうか、そうだな。母さんは?」

 「ヨガの日」

 父親は平静を装って充を窺う。充は冷徹に舌打ちをする。父親はめげない。めげている場合ではないのだろう。

 「腹減ったなぁ、ラーメン食べに行こう、なっ? ラーメン好きだろお前?」

 「さっき彼女とラーメン食べたところだから」

 「なにラーメン?」

 「醤油」

 充は嘘をついた。二人の時間を汚させぬための嘘。

 「醤油か、美味いなぁ醤油も。よし、豚骨ラーメン食べに行こう」

 父親は二人で安全に話せる場所へと誘導しようとする。豚骨ラーメンが充を刺激した。

 「二人で行けよ」

 「そうだな、お前と俺とで二人だものな」

 「はっ?」

 「お前の彼女可愛いな。大切にしろよ」

 「オヤジの彼女は派手だったなぁ? あぁ?」

 「充」

 父親は鋭く怒鳴りつけて下手に出るのをやめる。牽制を込めて充の前に立ちはだかる。充は暴力に屈さない自信はない。父親の方が体格も良く力ではまだ及ばない。しかし大きなアドバンテージが充にはある。

 「母さん悲しませるなよ」

 充は父親に訴えた。声が震えていた。暴力に怯えたからだ。それが父親にとっていい効果を与えた。

 「そのことで話がしたい。ここは場所が悪すぎる。だからラーメン屋に行く車中で話そう、いいな?」

 「俺は話すことなんてないけど」

 「お前の将来にも関わることだ!」

 そう言われれば従う他ない。充は帰宅したばかりの父親と車でどこにあるかも知らないラーメン屋に向かうことになった。


 「率直にお願いするが、母さんには黙ってて欲しい」

 父親はハンドルを握りながら話した。

 「離婚となれば慰謝料や家のローンや色々とお金がかかる。それに母さんと別れる気はない。お前が目を瞑ってくれていれば今までと変わらずやっていける。そうだろ?」

 都合がよすぎる。

 「なら女と別れろよ」

 父親は直ぐに返事をしなかった。

 「明日にでも別れてくれるなら忘れてやる」

 「まぁ、待て。こっちにも都合というものがある。わかるだろ? 変な別れ方でもして殴り込んできたらどうする? 家庭が崩壊するだろ? お前はそれを望むか? それにまだ付き合い始めたばかりなんだ」

 「息子にかける言葉かそれ?」

 父親は息子の指摘にふふふと小さく笑った。

 「なに笑ってんの? 苛つくな、クソが!」

 「すまん。しかしだ、一番の解決策はお前が忘れてくれることだ。それしか生き残る道はない。男ならわかるだろ? 小遣いも母さんに内緒で増額してやる。それで彼女と楽しく過ごしてくれ。いい青春の1ページを刻んでくれたらいい。部活一辺倒で、いい青春を送れなかった父さんの反動なんだと思うこの件は。だから見逃してくれ、頼む充」

 「こんなの親子の会話じゃねぇよ! 気持ち悪い」

 「そうだ、俺は一人の男として一人の男に懇願しているの! だから、お願い」

 充は呼吸を整え冷静に、もしを想像した。父親と母親が別れてしまえば、おそらく母方の実家に着いて行くことになる。そうすると必然的に彼女と離れなくてはならない。心情的に父親の方に残るという選択肢はありえない。となると、父親に譲歩するのが一番なのか? 納得と理解の狭間。

 「それにだ、夫婦にも色々あるものだ。父さんと母さんの間にもお前の知らないこともある。知らなくていいと言い換えるべきかな? とりあえず今日のことは忘れてくれ」

 「忘れたいよ、彼女とは最高の一日だった。お前は最高に情け無い面でチキンソテー食べてたな! 美味かったか?」

 「よくチキンソテーだとあの距離でわかったな! お前視力いくつだ?」

 「うるせぇよ!」

 「とりあえず話はついたと思っていいんだな?」

 「あぁ、そのかわり俺にあまり干渉しないでくれ」

 これが充の最大限の譲歩であり反抗でもあった。

 「よし、あまり干渉もしないで、金だけ出す。ただそこは常識的な範疇だからな。それと母さんの手前でお前に説教とかするかも知れないが、まぁ聞き流してくれ」

 「なぁ、父親としてどうなの?」

 「お前ももうすぐ大人だから教えてやる。人間なんて変わりはしないもんだ。見た目がおっさんになるだけで中身は大して変わらない。犯罪者には大人も子供もいるだろ? そんなもんだ。失望させて悪かったな。ラーメンどうする?」

 

 誰よりも彼女を大切にしよう。増えた小遣いで色んなところに連れて行こう。足りなくなったら父親にたかろう。母親には気の毒だが、ヨガに通ったり、映画やランチだエステだなんだと好き勝手に暮らしているから大丈夫だろう。エステは誰の為なのか? そんなものは自分の為だ。もしかしたら父親と同じようなことをしているかもしれない。俺の家族はこの先どうなっていくのか。知らないね。


 人は人を信じれなくなっていくのかもしれない。


 充には信じるものがあった。彼女にさえ見放さなければいい。あの笑顔があれば。愛こそ全てだ。愛こそ全て? 


 愛とはなんだろうか。


 「俺の親父凄くないか?」

 語り終えた充は空になったグラスをカウンターの奥に押して久一に感想を求めた。

 「マスター、充にお替わり一杯」

 久一は注文してから背筋を伸ばした。誠意を込めて充に言葉を贈る。

 「凄いよ、まさに偉人だよ。生存本能? 違うな、保身力が怪物だなぁ」

 「なんだよ保身力って!情けねえ」

 充は我がことのように恥ながら黙って聞いている隼人を見やる。その視線に隼人は質問をする。

 「その後はどうなったの?」

 「別に変わりなく生活してるよ。俺も社会人になって多少はオヤジの気持ちも理解してやれているから」

 「例えば?」

 「会社でのストレスとかあるだろ? それを夜の店で発散している世の中の父親と変わらない。母親にも少なからず非はあるしな。汗水垂らして稼いだ金を当然の権利のように散財されたら嫌気もさすだろ? 結局は親父の稼ぎがそこそこあるから成り立っているのよ。金だよ金! 世の中は金だよ。やだね」

 隼人は悪い酒の方に充が歩き出した。めんどくさくなる前に口を閉ざした。

 「結局どうなったの?」

 久一はまだ欲しがって話を続けた。お替わりの一杯を口に含んでから充は久一の言葉の裏を読み取って無骨に返事をした。

 「自然消滅したよ。俺が大学に入った年にな。言わせるなよ! 久一は察する力ゼロなのか?」

 「夫婦って紙切れ一枚とよく聞くけど、自然消滅もあるのか、勉強になります充先生!」

 「お前」


 久一の誘導にまんまと乗せられて充は噛み締めた歯を見せる。隼人は笑い、久一は充の肩を強く揺する。店に一人客が入って来た。

 「美湖ちゃん」

 それは充が心を寄せる女性だった。

 「うわー、相変わらず仲良しですねぇ」

 美湖は三人の横に座り本日のお勧めと生ビールを注文した。

 「えっ!」

 間髪入れずに驚きの声を上げた。美湖の声に三人は体をびくつかせた。

 「どうしたの? 急に大声出して?」

 充が美湖に訳を求めた。

 「どうしてそこにワンピースがあるんですか?」


 久一は訝しんだ。折り畳まれた状態のワンピースをどうしてワンピースだと見抜けたのだろうか。新手の特殊能力保持者なのか? 畳まれた生地を広げずに形状を見抜く力! 使いようによっては使える? 使える状況を久一は思い描けない。

 「ワンピースだとよく分かったね、同じの持ってるの?」

 久一は一番ありえる可能性を口にした。こんなワンピースを美湖が普段着用しているのかとセンスを疑ってかかる。

 「持ってます! それ、どうですか?」

 「持ってるの?」

 三人はどう答えていいものか、顔を見合わせながら困惑する。先陣は美湖に片恋慕の充が切った。

 「着る人をかなり選ぶけど美湖ちゃんには似合うと思うよ。うん似合う! 絶対。なぁお前ら?」

 「隼人さんはどう思いますか?」

 いつになく強引な美湖に気押されながら隼人も言葉を選ぶ。

 「あっ俺? そうだね、うん、触り心地もあれだし良質な品だと」

 そんな軟弱な二人の意見に対して久一は鬼になる。消費者が生産者に感謝しても甘やかしてはいけない。いい物を作り続けてもらわなければならない。

 美湖はこんなふざけたワンピースを有り難がって消費者として生産者を甘やかしている。

 「生地もいいし縫製もしっかりしていて文句ないけど、柄が奇抜すぎるよ。奇をてらえばいいというものじゃない。外しにしては外れ過ぎかな。無地なら最高なのに勿体無い」

 「はぁ、そうですか、参考になります」

 美湖は当てつけのように提供されたビールを煽った。久一の意見を拒むように。

 「まぁ、そんなに落ち込まなくてもカーディガンを上から羽織って柄をチラ見せとかやりようはあるよ」

 久一は皮肉を込めて軽くフォローした。

 「いいんです。それ全然売れてないみたいですから。デザインしたの私です!」

 「えっ!」

 今度は三人が驚愕する。美湖はシマキリキリエの弟子だったのだ。


 「でも、どうしてここにあるんですか?」

 美湖の素朴な疑問に説明しろと二人は顎で久一に促す。久一はオブラートに包みきれずにボロを撒き散らしながらシマキリキリエことメロンちゃんとの関係を話した。


 世間は怖いくらいに狭いときがある。金魚鉢と大差ない。水槽と大差ない。水族館と同じくらいか。動物園と同じくらいか。サファリパークと同じくらいかなのか。


 美湖は久一の話を手を叩いて先生らしいと言った。どうやらメロンちゃんは特殊性を隠すタイプではなかった。

 「凄いね、デザイナーなんて。どうして教えてくれなかったの?」

 敬愛するキリシマシャツ信者の充は美湖に質問した。

 「まだまだ先生みたいに確立されたものも無いですし、胸を張れませんから、自信なくて、誤魔化してました。すいません」

 「いいよ、そんなことは」

 充は新たな美湖の一面を知った。隼人は帰り支度をはじめて向日葵柄のワンピースを鞄に押し込んだ。久一も忘れ物がないか確認して椅子から離れる。

 「もう帰るんですか? 私邪魔しちゃいましたか?」

 美湖が久一に申し訳なさそうに見上げる。

 「全然そんなことないよ、そうそう今度この三人と隼人の彼女たちとでキャンプに行くけど美湖ちゃんも参加する?」

 久一の提案に充ははっとして経過を見守る。

 「一応泊まりになるけど、男と女のバンガローは別に取るから。ロッジじゃなくて悪いけど」

 隼人も久一の提案に助力する。後は美湖次第だ。

 「行きます! 行きますとも。仕事があっても有給使いますから。私あまり友達いないから誘ってもらえて嬉しいです!」

 美湖の返事をきっかけに久一と隼人は帰り支度を済ます。

 「じゃあ決まりね、無理しなくていいから。日時は追って充から連絡させるから」

 隼人の完璧なパスが充に渡る。

 「メロンちゃんによろしく伝えといて、充ここの勘定」

 久一が言い終わる前に充が言葉を被せる。

 「まかせろ、奢るよ」

 「じゃあ、そういうことで、おやすみ」

 「おやすみなさい」

 「おやすみ」

 「充、飲み過ぎるなよ、おやすみ」

 「毎度、お気をつけて」

 「ありがとうマスター、又来まーす」


 久一と隼人は店を出て拳を突き上げる。何が面白いのか説明は難しいが、全体の雰囲気、感覚がおかしかった。

 「充も凄い奴かもしれないな」

 久一は隼人の意見に同意する。

 「そうだね、充自体はそうでもないけど、吸引力は凄いよ」

 「充の今後の課題は保身力だな! 久一!」

 「なんだよ保身力って?」

 「お前の言葉だろ?」

 「かっこ悪いわ、保身力と浣腸は陰でひっそり使うもの!」

 「痛みを一人で耐え忍ぶってことか? 浅いなぁ先生。底がひび割れてますよ」


 二人はほろ酔いながら肩をぶつけて歩いた。二人の会話に意味はない。空を見上げると星が一つも輝いていなかった。


 「明日雨かな?」

 「どうする? 雨の代わりに飴が降ってきたら?」

 「隼人君、くだらないねぇー、そんなの痛いだけだろ?」

 「違う違う、飴は飴でも水飴だよ」

 「べだべたするなぁ、その状況なら蟻が飴を有り難がって大量発生するだろ? 集まった蟻が一塊になって、巨大な蟻が誕生して人類に復讐を始めるのか? 嫌だなぁ、水飴降るの嫌だなぁ」

 「そこでアリクイの出番ですよ久一君」

 「巨大蟻をぺろっとしてくれるのか? なるほど、アリクイは蟻を全てぺろっとした時、かなり巨大化してるよな? 蟻はもういない。巨大アリクイは蟻を求めて街を壊して回るよな? 次は誰が止めるの?」

 「すると又水飴が降ってくるの」

 「蟻はもうアリクイに食われていないけど大丈夫?」

 「大丈夫。実はまだ蟻は生き残っていて水飴のお陰で大繁殖する」

 「又巨大蟻の出番か? でもって巨大アリクイが出てくるということか?」

 「違う、巨大アリクイは蟻の食べ過ぎで体を壊しています。何事もほどほどにだよ」

 「ピンチだよそれ? 大丈夫?」

 「大丈夫! 巨大アリクイの子孫が巨大蟻に立ち向かうから」

 「なら安心だ。焦らせるなよ!」

 「でも、巨大アリクイの子孫はただのアリクイなんだ」

 「やっぱり! どうするんだそれ?」

 「ただのアリクイでも数がいたから、なんとか巨大蟻を撃退することに成功」

 「やったね! でもまさか?」

 「そう! アリクイは激戦の果てに巨大化して蟻を探し求めて街を破壊し始める!」

 「途中から思ったんだけど、アリクイ使えねぇな? 味方じゃないのか?」

 「そして」

 「まさか?」

 「非常にも大地に水飴が」

 「降り注ぎ」

 「世界を」

 「覆う」

 「蟻たちの」

 「歓喜の」

 「歌が」

 「木霊す」

 「アリクイが」

 「軽い」

 「アップを」

 「はじめた」

 「戦いに」

 「終止符」

 「は、つかない!」


 二人の会話に意味はない。


 




 

 


 

 

 

 


 

 

 

 

 


 

 本日も大変ふざけてしまいましたが、最後までお付き合いして頂けたと勝手に解釈してお礼申し上げます。

 私は凄い奴が沢山周りにいるようにも思いますし、あれ? こいつ全然凄くなかった! なんてことも有りますし、凄かろうがなかろうが日々楽しく過ごせればいいじゃないと思っております。そういえば私の周りに一人、絶対に鍋料理を食べない変な人が昔いました。では又。

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