表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
狼の耳の番  作者: himi
9/34

9 夜の邂逅



暗い廊下に足音が響く

冷たい空気が肌に触れる中

あみはトイレへ向かうためだけに部屋を出たはずだった


しかし、その廊下で彼女を待ち受けていたのは、意外な人物との遭遇だった



「よう、こんな時間に散歩か?」


低く穏やかな声が闇の中から響き

あみは思わず足を止めた

振り向くと、狐の耳を持つシノが壁にもたれかかり

軽く腕を組みながらこちらを見ていた



「あ、えっと……違います、トイレに……」


あみがぎこちなく答えると、シノは口元に薄い笑みを浮かべた


「そうか。にしても、人間のお嬢さんがここを歩いてるなんて、随分と珍しい光景だ」



その言葉には、どこか探るような響きがあった

あみは少し戸惑いながらも、どうして自分に話しかけてくるのかを考えた

しかし、シノはそんな彼女の表情を無視して言葉を続ける



「お前、どこから来たんだ?」


その問いはストレートすぎるほどだった



「……気がついたら、あの……あの場所にいました。それまでのことは、あまり覚えていなくて……」



あみは慎重に言葉を選びながら答える

異世界人だという事実を話すわけにはいかない

彼らがそれをどう受け止めるのか

全く予測がつかなかったからだ


シノは眉を少し上げながら、彼女の言葉を聞いていた

その薄茶色の目には軽い興味と

どこか鋭い観察眼が光っていた


「ふーん、覚えていない、ね。そうか」



沈黙が一瞬流れた後、彼は壁から体を離して一歩前に出る


「ここは、俺たち獣人のレジスタンスだ。お前みたいな人間がここにいるなんて、本来あり得ないことだが……どう思ってる?」



「どう、って……」



あみは言葉に詰まった

自分がここにいる理由も、この人たちの事情も

何一つ分かっていない

それでも彼女は、素直な気持ちを伝えるべきだと感じた



「獣人についても、あなたたちがなぜ人間と戦っているのかも……正直、何もわからない。でも……それを知らないからって、ここにいるみんなを否定する理由にはならないと思う」



その答えに、シノは一瞬目を細めて彼女を見つめた

そして、軽く肩をすくめるようにして言った



「……変な奴だな、お前は。でも、まあ、あいつが連れてきたんなら、それでいいんだろう」



シノの口調は軽かったが、どこか警戒を解いたような空気を漂わせていた


「それじゃ、迷子になるなよ。トイレならあっちだ」


そう言って、軽く顎を動かして方向を示した



あみは何とか返事をしながら彼に背を向けて歩き出した



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ