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77杯目 海

 白鯨との出会いという幸運以外は、海の上は退屈だった。魔道具により制御されていて船の上は快適で助かる。食事は食堂で食べるのだが、積み込んだ特に感動的でもない普通の食事だ。


「うーん、せっかく海の上にいるんだから、海のもの食べたいな……」


「確かに、陸と同じですもんね」


「ありがたいことではあるんだが……」


「それならもうすぐご期待に添えると思いますよ」


 船員さんが甲板で話していた俺たちの会話に反応してくれた。


「もうすぐ網を上げますから、見学されますか?」


「ぜひ」


 俺たちはすっかり退屈していたので、後部甲板で行われる網上げを見学することにした。現場ではすでに人が集まっていた。やはり他の乗客も暇を持て余していたようだ。


「えー、それでは引き上げ開始します。皆様その柵からは入らないようにお願いします」


 見学者は柵の外から網が引き上げられていく様子を眺める。網には時折魚や海洋生物が絡め取られている。そして……


「ギャー!!」


 海洋魔物も上げられるが、船員さんたちに一瞬でボコボコにされる。船員さんたちも海を渡れるくらいの実力がなければなれないので、それも当然だ。動きを見ているとシルバーやゴールドクラスの冒険者ぐらいの強さがある。


「海の魔物、海で出会ったら大変ですね……」


「そうだな、水の中だったら相手にならないだろうな、俺たちが」


「水の中の戦い……水の操作で移動はできるとして……攻撃手段は土系ですかね」


「少なくとも火とか氷系はだめ、風も短距離なら? なんとか水中から引きずり出して上で戦うことを考えたほうが良さそうだな」


 魔物を見るとついついどう戦えばいいかという話で盛り上がってしまう。たまに大型の魚やタコ、イカ、それとエビなどが上がると歓声が上がる。最後のほうになると大量のカニや貝類が取れた。


「巨大二枚貝がいるぞっ! 気をつけろっ!」


 最後のボスは人の3倍はありそうな大きな貝が甲板に引き上げられた。


「魔力の流れ!? 防ぎますっ!!」


 ヒロルが風の壁を展開すると同時に、貝の口が開き、水の巨大な槍が放たれた。風の壁が水槍を空中へと軌道変更させて空へと消えていった。


「馬鹿野郎っ!! 反応が遅いっ!!」


「いつの間に……見えましたかゲンツ?」


「すごい速度で閉じる貝殻、閉じきる前に一閃で仕留めていた。凄まじく速い一撃だった」


 パカーンと殻が開くと中身は真っ二つになっていた。


「お騒がせしました。そして、お嬢さん、おかげで助かりました」


「いえ、お気になさらず」


 海の男って感じの濃い剣士はヒロルに軽くあしらわれ、やれやれとポーズを取る。ヒロルも気がついたらしい、ヒロルが反応するより早く、その男が対策を講じていて、ヒロルは顔を立てられただけなことを、攻撃と防御、両方に気を払いながらあの速度……たぶん、プラチナレベルなのかもしれない。


「さて皆様、今宵の夜はこちらの素材を使ったパーティをメインの甲板で行いますので、奮ってご参加ください!」


 乗客たちの歓声が上がる。これは嬉しいイベントだ。俺たちも例に漏れず楽しみにその時を待つことにした。


 どうやら結構本格的なパーティのようで、着飾る人は着飾って参加したりもできるようで、レンタルの衣装の打診があった。ヒロルもケイトも時前のドレスを持っているようだ。流石いいとこのお嬢様だ。俺ははじめ断ったが、二人からの猛烈な押しによって仕方なくパーティ服を借りる羽目になってしまった……


 水平線に太陽が触れ、美しい光のラインを水面に映している。海風が気持ちよく頬をなで、広々とした甲板に次々と魔道具によってライトアップされ、美しい風景を生み出して行く。正直、こんなにも立派な会場になるとは思っていなかった。


「これ、正装じゃないほうが目立ったな」


「だから言ったじゃないですか」


「基本的に国の移動をするのは上流階級や上位の冒険者なんですから」


 これには素直に謝罪するしかない。俺が世間知らずだった。お金がない人間は、大回りで時間がかかる過酷な陸路を行く……今ここで着飾っている人たちは、高価な船賃を払える人々なのだ。そんな人々の中で、ヒロルとケイトの美しさは輝いていた。ヒロルの淡いピンクのドレスは彼女の雰囲気とよくマッチしている。ふわふわとした可愛らしいデザインだが、その、結構セクシーさもある。ケイトは青を基調としたどちらかというとスタイリッシュなデザイン、美しい彼女のボディラインがはっきりと見えるので、色っぽいよりもカッコいい、が勝っている。メイクも髪もきちんと整えられた二人は、まさに貴族のご令嬢。


「二人共、素敵すぎて目立ってるぞ」


「あら、ゲンツさんが素直に褒めてくれるなんて雨が降るのかしら?」


「そういうゲンツも似合ってるな」


 一方俺はレンタルとはいえ黒を基調とした騎士の礼服をモチーフにした正装。髪も整えてヒゲも整えた。なんとか二人のそばに立っても見苦しくはないだろう。お付きの執事といったところだがな。


 生演奏による音楽が流れると同時に、中央の大きなテーブルに次々と料理が並べられていく。今までの食事はこの食事を引き立てるためにわざと質素にされていたのかと疑いたくなるほど、ゴージャスなパーティ料理が並んでいく。


「飛びつくのは、マナー違反なんだろ?」


「ええ、それではゲンツさんエスコートをお願いします」


「ゲンツ、私もお願いしよう。両手に華だな?」


「ふっ、それではこのゲンツめがお嬢様方をエスコートさせていただきます」


 こうなりゃ乗ってやる。さて、楽しいパーティの始まりだっ!

 


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