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76杯目 港町シーハブ

「間もなくシーハブに到着します。下車の準備をお願いします。」


 御者の言葉に目を覚ます。気がついたら眠っていた。

 いや、温かいのよ、二人共。

 その二人はまだすやすやと眠っている、いや、寝たふりしてる……


「わかってるぞ、起きろ。」


「……はぁ、もう少しこうしてたかったのに。」


「つれないなぁ、ゲンツは。」


 二人が離れると恐ろしいほど寒くなる。

 くっ、これが人肌が恋しいというやつか……


「あれあれ、少し残念そうですね、ゲンツさん?」


「ほう、ゲンツにもそういう感情はあったのか。」


「人をなんだと……いえ、何でもありません。」


 結構酷いことをしている自覚はあるから、言い訳はやめよう。


「風が強いな……」


「それに、なんか匂い? がする。」


「君たち……」


 馬車を降りると自然と二人が腕を取ってきた。


「すまん、本当にすまないが、街を歩く時は普通に歩いてくれ、羞恥心が耐えられない。」


 必死にお願いをしたら、ブーブー言われたがなんとか納得してもらえた。勘弁してくれ……


 港町シーハブ、この大陸と他の大陸との入口でもあり出口でもある。

 街全体として建築の基本は石材を用いて作られている。

 大陸の中央部の街と比べると景色がガラッと変わっている。

 店にも見たことがないものも多く、文化が入り混じっている雰囲気は目に楽しい。

 比較的人間種が多い内陸部と違い、町中を歩く人には獣人やエルフ、ドワーフなど多人種が共存している。


「お兄さんたち! 新鮮な海産物はいらんかねぇ!!」


「西国の香辛料はどうだい!? 安くしとくよ!」


「旦那! 北国製の魔道具だよ! どうだい、見てってくれ!」


 メインストリート沿いには多くの露天が開かれ、とにかく活気がすごい。

 この大陸から出る人間、この大陸に入る人間相手にまとまった商売をする大きな店も立ち並んでいる。


「凄いですね。」


「そうだな。な、なぁ、ちょっと店、見ていいか?」


「だめだよゲンツ、船の時間まであまりないからまっすぐ港へ行くと言ったじゃないか。」


「だよなぁ……あの香辛料とか貴重なんだよ……」


「ねえさん、お金の管理だけはしっかりね。」


「ああ、わかっている。」


 現在蒼空の旅人のリーダーは俺だが、財政の取りまとめはケイトに任せている。

 俺が自身の金勘定の管理があまりに杜撰だと、しっかりと財布の紐を握られてしまい、高級な香辛料をまとめ買いするにはケイトを説き伏せなければいけない。無理だ。


「いいじゃないですか、別の大陸に行けばまた新しい出会いがありますよ。」


「一期一会かもしれないんだぞこういう物は。」


「はい、ゲンツ、時間が押している。港へ行くぞ。」


「くっそー。」


 港に通じる石畳を急ぎ足で進んでいく。

 すでに領主様のはからいで船の準備はできている。

 国を出るときにはそれなりの手続きがいるが、そこは貴族様のお力を借りて、列をなす出国手続きを飛ばせるのは本当にありがたい。


「あの船だ。急げ、間もなく出港みたいだぞ。」


 俺たちが手続きをして乗り込むと、すぐに出港になった。


「ギリギリだったな。」


「誰のせいですか……結局買い物してるんだから。」


 なけなしのお小遣いで買い物をする。ちょっとだけだちょっとだけ。


「実は、大陸出るの、初めてなんだけど……」


「え、そうなんですか!?」


「若い頃の話とか聞けるのかと思っていたよ。」


「二人は出たことあるん?」


「はい、父に連れて行ってもらったことがあります。」


「いいなぁ。」


 そもそも、大陸間移動する船便は高い。危険度からすれば当然なのだが、とても気軽に移動できる金額ではない。この船だって外海に出るための大規模な魔道具を装備している。内世界の内部の海に出るだけでもこれほどの設備が必要で、外世界に出るための海を超えられる設備の船は、目の玉が飛び出るような金額になる。海の魔物は強大すぎる。さらに、海という場所がもう、それだけでも自然として強い。人間が生きることを許されている内世界に含まれる海でも移動は命がけだ。


 現在内世界の南西に位置するグリーンフェルド大陸からその北に位置する砂漠の国デューンファール行きの船に乗っているというわけだ。


「ダンジョン国家、砂漠とサバンナが広がる国かぁ……別名冒険者国家。」


「ミスリル冒険者、匠皇ガレク・スミス王が納める国。」


「王様がほとんど不在って面白いですよねー。」


「外世界の魔物の素材や鉱石を集めるのに忙しいらしいな。武具狂いなんて呼ぶやつもいるらしい。結果として国を上げて鍛冶の盛んな国だ。」


「それに、何と言っても各地に無数にあるダンジョン! 冒険者としてこれほど心躍る国もない!」


「おねーちゃん、興奮してるね。」


「やはりな、こうして冒険者として国を出たんだと、見渡す限りの海を見て興奮を隠せないさ。」


「それは、わかるな。俺も、年甲斐もなくドキドキしている……!」


 俺にとっては初めての外国だ。しかも、ダンジョン国家! 興奮するなという方が無理がある。


「うおっと。」


 ぐらりと船が揺れる。


「ゲンツさん見て下さい!!」


 目を移すと海面に巨大な白い像が俺たちの船と並走している。

 魔道具によってとんでもない速さで海面を走っているこの船と同じスピードにも驚くが、その巨体……


「え、大丈夫なのか?」


「知らないのかゲンツ、アレは内海の守主 白鯨フェリシウム! 見ると幸運が訪れると言われているんだぞっ!!」


「素敵っ! 凄い凄い!」


 ブシューーっと巨大な水柱が立ち、太陽のきらめきで虹がかかる。海面から立ち上がる巨大な虹は幻想的な景色だ。


「まさか絵本で読んだ存在に出会えるとは……」


 初代の王はこのフェリシウムの背に乗って魔神と戦ったとされる。本当に伝説の中の存在だ。


「本当にいるんだ……」


「神々しいな。」


「ああ……」


 俺たちは、しばしその白鯨の姿に心を奪われるのであった……




 

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