74杯目 それぞれの選択
「ゲンツ殿、いや、ゲンツくん、君を信用している。信用しているからなっ!」
「あ、ありがたいのですが、話が見えなくて……」
「き、君に、私の、可愛い可愛い娘を、預けるっ!!」
「へ?」
「なんだね、なにか不満なのかね!?」
「い、いや、そういうわけじゃないですが、え、どういうことですか?」
「お父様、私から話しますね。ゲンツ様、私は貴方を心からお慕いしております」
「ゲフゥっ!!」「お父様うるさい」
「エスタールの街は、これから100階層を超えたダンジョンを有する街となります。
つまり、巨大都市になることは疑いようもありません。
私と姉、ケイトはすでに冒険者としての地位を得ておりますが、それでも有力な貴族からどんなことをされるのか、想像に容易いです。
息子をあてがい、我々を利用してこれから生まれる莫大な富を奪おうとしてきます。
しかし、私とケイトはゲンツ様以外の何物にも身体も心も許すつもりは有りません。
そんな事に利用されたら、死にます。
しかし、私は権力を持ってゲンツ様を手に入れるつもりはありません。
そこで、ケイトと蒼き雷鳴の皆とも話し合い、これからは、ゲンツ様、私、ケイトの3名で行動し、できる限りエスタールの街から、できれば国を超えて旅に出たいと考えています」
「いやいやいや、いろいろ、吹っ飛びすぎて、あれだけど、え?
パーティを解散するってみんなはどうするの?」
俺の問に答えたのはケイトだった。
「皆は街に残り、今後の発展と、ギルドの機能維持に尽力したいと言っている。
正直、シルバーになれて夢を叶えた、さらに、街の危機を目の当たりにし、自分の家族が心配になった。
さらに、アスラを見て、これ以上の苦難と向き合うことの恐怖と、色々なことがあって、これ以上パーティを続けるのではなく、街のために働きたいというのが、皆の総意だ……
私も、説得はしたが、難しかった。
先に言っておくが、私達二人がついていく話より前に、パーティの皆からその旨を伝えられている」
「そう……か……」
冒険者をやっていれば、心が折れてしまうことはよくあることだ。
まだ若いのに、いや、まだ若いからこそ、これからの人生を大切にしたくなった。
その気持ちは優先しなければいけない。
「私も、ケイトも、冒険者としてまだまだ高みに至りたいという気持ちは折れていません」
「ゲンツが許してくれるなら、いや、許してくれなくても、私達はついていく。
冒険者ゲンツと共に生きていきたい」
二人のまっすぐと俺を見つめる視線は、男女の恋物語に酔った、そんな目ではない。
冒険者として自らを高め、未知を追い求めていく決意の色がしていた。
「……わかった」
ぱぁっと二人の顔が明るくなる。
領主様はがっくしとうなだれた。
お兄様がぽんぽんと肩を叩いている。
「ただし」
しかし、言っておかなければいけないことは有る。
「あくまで、冒険者として共に行くという事だけだ。
その、恋人とか、伴侶とか、そういうことは、別の話だ。
冒険者として共に行く。
そういうことだ」
「おい貴様!!
うちの娘の何が不満だコンチクショー!!
ああ、妻も娘も、この家の女たちはどうしてこう外に飛び出してしまうのだっ!!」
「お父様、うるさい。
せっかくまとまった話がこじれます」
「はぁ、母様もまたどっさり土産を持って帰ってきますよ。
なんならギルドを通じて話を聞いたら戻ってきてくれるんじゃないですか?」
「はっ!?
そうか!!
おお、愛しのセーラよ……」
「おっほん。
とりあえず、話はまとまったね。
では、後のことは我々に任せて、早いところ旅立ったほうがいい。
可愛い妹たちよ、貴族でも手出しが出来ない位まで上がったらまた帰っておいで」
「お兄様、お元気で」
「お兄様、ありがとうございます」
「ああ、娘たちよぉ……」
「はぁ……《《パパ》》、これから大変だろうけど、私達の帰る場所、しっかりと守ってね」
「《《パパ》》、頑張ってね。もしかしたら、次会う時はおじーちゃんになってたりして」
「ゆ、ゆるさんぞっ!!ゲンツくん、信じているからね!!」
「さぁ、ゲンツ、旅立とうかっ!」
「私達の新たな歴史の始まりですよっ!」
「え、あ、ちょっと」
「ヒイローーー!!ケイトーーーーー!!」
「がんばれよっ二人共、ゲンツくんの旅に幸運が訪れんことを祈っているよ」
激動の会合はこうして終わった。そして、文字通り、風のように準備を済ませて、俺達は皆から離脱することになる。
蒼き雷鳴たちとは冒険者らしく、また会おうとサラッと別れの挨拶をした。
尊敬する3人にはきちんと責任を取るんだぞと言われたが、だから、そういうのはなしだってばと言いたかったが、面倒くさいのでうなづいておいた。
「ゲンツ、目的地はシーハブの街、そこから船に乗り西のデューンファールに行こう。あの大陸に入り込めばそう簡単には見つからないだろう」
「ゲンツさん、パーティー名どうしますかー?
これからは私達、離しませんからねー」
「……、ま、これもまた冒険だな。
パーティ名か……」
空を見上げると深い深い青空が広がっている。
緑の草原にまっすぐ道が伸びている。
その先には多くの未知の冒険が待っている。
「蒼空の旅人なんてどうだろう?」
「蒼き雷鳴の一文字を使ってくれているのかい。
うん。気に入ったよ」
「では、パーティ蒼空の旅人、最初の目的地は、シーハブ!」
「俺達の冒険は、今、新たな扉を開いた!なんてな」
冒険譚の始まりはいつだってこんな感じで始まっている。
これから3人でまた多くの冒険をしていくのだろう。
引退間近だった俺が、今、こうして、新しい冒険の旅に出る。
旅人たちの冒険は、永遠に終わることはないっ!!
「さーて、ゲンツさん、どうします?」
「へっ?どうするってのは?」
「私とヒロル、どっちが一番なんだい?」
「はっ!?」
「一番と二番決めてくれないと困ります」
「い、いや、そういう話はなしだって言っただろ?」
「何を言ってるんだい、あんなもの方便さ。ああでも言わなければうるさいからな」
「そうですよー、あんなにはっきりと想いを告げたのに、酷いですよ。
本当にこのまま放っておくんですか?」
「い、いや、しかしだな」
「そんなに、私達は、魅力がないか……」
「そうなんですね、ごめんなさい。
そんな気にもなれないものから何を言われても迷惑ですよね……
早くもパーティ解散の危機ですね……」
「いやいやいや、魅力がないとかそういうことはないんだが、一番だ、二番だとかそういうことじゃなくて、二人それぞれそれぞれの魅力があってだな」
「ぷはははっ!!すまないゲンツ、面白くてからかってしまった」
「もう、ケイトはネタバラシが早いっ!」
「ゲンツ、パーティのリーダーはゲンツで、二人目と三人目の順番どうする?」
にやぁとケイトが笑っている。
「……くっそ、おちょくったな……
年齢順で、その後は加入順」
「はーい、では一番はケイトにゆずります」
「ほらほらゲンツ、怒らない怒らない」
こうして俺達の新たな冒険が始まるのであった。




