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50杯目 解放と挑戦

 それからは新しい情報が来るたびにギルドで新たな確認と過去の発言との照らし合わせなどが繰り返された。魔物が他の魔物を取り込んでの魔獣化するということはようやくギルドとして確定し情報が発信された。

 そこからは聴取も楽になって簡単な確認だけになって、アベルさん達自身によっての最終報告とすり合わせによって全ての調査が終了した。

 あのワーウルフの雄叫びによってコボルトの残党もほぼもれなく集められ吸収されたようで残党もほぼ居なかったらしい……本当に街を一つ飲み込んだ存在だったという事実に、改めて恐怖が蘇った。


「長い事協力いただきありがとうございました。

 こちらは前にお渡しした報酬とあわせて、最終的な今回の件に対するギルドからの報酬となります。それと、武具も修復を終えて戻ってきました。

 残念ながらワーウルフの魔石は修復で使い切ったために、現場に有ったコボルトの魔石などを換金して、調整して皆さんにお渡ししております」


 再び革袋を頂いてしまった。

 これだけあればダンジョン探索の準備には十分、原状回復に十分な報酬だ。


「アベルさん、お疲れ様でした」


「いや、改めて現場を調べて、あれだけのエリアを一人で立ち回ったゲンツさんの異常性がわかって私は怖くなりましたよ、シルバーなんですよね?」


「いや、装備との相性がたまたま合致したと言いますか」


「あんな手段、他の誰にも出来ませんよ、ますますしゃしゃり出てワーウルフを倒したことを後悔しています」


「何度も言いますが、私にアレを倒す手段は残っていませんでしたし、命を救ってもらったこと、本当に感謝しております!」


 それからはなんか謝罪合戦みたいに成ってしまい、ギルドの職員が止めに入るまで続いてしまった。


「そうだ、すっかり忘れてましたゲンツさん一つお願いが有ったんでした」


「何でも言ってください。命の恩人の願いですから」


「私と試合をしてください」


「ええ、もち、ろん?」


「よかった。早速行きましょう、いや~楽しみだなぁ」


「ま、待ってください! ゴールドの方が俺なんかとやるんですか?

 意味ないのでは?」


「いえ、私にとってはあります」


「そ、そうですか……では、胸を借りさせていただきます」


 よく考えれば、現在、現役バリバリのゴールドと手合わせできるなんて、得難い経験だろ! どれだけのものか……楽しみに成ってきた。

 はじめは戸惑ったが、訓練場に入る頃にはすっかりやる気が湧いていた。俺も現金なやつだ。

 

「準備よければ声をかけてください」


「わかりました、ちょっとまってくださいね」


 俺は棍棒を掴む。

 毎日の習慣はきちっと続けているので、そうそうなまることはないが、少し実践から離れすぎている。

 入念に身体の動きを確かめながら一通りの型をこなしていく。

 この所、かなりいい飯と睡眠、それに風呂によるケアをしっかりとやってきたせいで、正直めっちゃ調子がいい!

 20代の頃の自身に自信を持った万能感、もうなんでもできちゃうんじゃないか?って思わせるような、そんな体調の良さだ。

 40代を超えると、だいたい朝起きれば身体の何処かには不調がある。

 それを全く感じないなんて、ほんと何年ぶりだろう。


「ふぅ……良いです。お願いします」


「よろしくお願いします」


 アベルさんは普通の木剣だが、なんというか、存在の大きさと気配が凄い。

 体格の差ではない、エネルギーと、格の差を感じてしまう。


「行きます」


「どうぞ」


 格上に、とにかく思いっきり俺の力を見てもらおう。

 俺はそんな気持ちを込めて、棍棒を振るった。


 カァーン、コーン、カァカッカァーン。


 木製の武器同士がとても良い音を立ててぶつかり合う。

 凄い。打ち込んでいる俺が気持ちよくなるほどの澄んだ音。

 受けてが完璧に俺の攻撃を見切って合わせているからこそまったく濁りのない美しい音色を奏でている。

 俺の棍は必死に相手を打ち付けるが、それを受ける剣はまるで山のように動かない。ほんの少しでも気を抜けば相手の振るう力強い一撃で全て終わるだろう。

 ああ、楽しいな、これが格上との戦闘。

 命のやり取りではないが、上には上がいるということを、現実を叩きつけられてもなお、こういう世界が有るのかと胸が高鳴る。

 技量、力は全て相手が上、鋭い一閃が頬を掠め、前髪を散らす。木刀だぞっ!

 容赦なく顔、腹、腕、足、連続した剣戟が竜巻のように襲いかかってくる。

 地面に棍を突き立て、跳んで跳ねて、振り回して、必死に距離を取ろうとするが、ここで決めるつもりなのか、一瞬で距離を詰めて攻撃を続けてくる。

  

「フンッ」


 相手の剣が煌めくような一撃、強力な横払い、まるで大木が迫るような迫力の一撃を棍でまともに受ければへし折られそうだ、ここだっ! 俺は突きで剣を弾く、いや、弾こうとしたがまるで動じず手にしびれを残し逆に弾かれるが、それは想定通り、その力を利用し身を捩り、渾身の一撃を地面を蹴り回転し振り払うっ!!


 カ、カァーン!!


「……参った」


「ふぅ、ありがとうございました」


 俺の渾身の、相手の力を利用した一撃を、その力とまったく同量の力で受けられ、空中で止められてしまい、着地までの時間で首元に剣をすっと置かれてしまった。

 いや、これは、完敗だ。ぐうの音も出ない。


「これほど、か」


「いや、最後の攻撃は驚きました。

 ゲンツさん、完全に見えているんですね私の攻撃が」


「俺の力だけでは通用しないから、利用させてもらったつもりだったんだけどな、あんな受け方されたら、もう、どうすればいいやら」


「こんなに《《見られた》》のは久しぶりだったので、私も本当に勉強になりました。

 ありがとうございます」


 おれは差し出された手を掴み、引っ張り上げられる。

 

 ああ、デカく、固い手、これがゴールドの手なんだな。

 俺は、胸の中に熱いものが灯った。






 

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