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耳を隠して、翼を隠せば

 あたしの恐れを敏感に察したように、ゴブリン子ちゃんが口を開いた。



「ナギ様。ワタクシ、ナギ様の耳を目立たなくするようにできると思います。

 あの魔法使いの術が解けるわけじゃないですが……」



 そしてスカートの襞の小袋から、小さくて細長い、()()のついた木の実を取り出す。

その()()を外すと、中には花の香りの、薄黄色の軟膏のようなものが詰まっていた。



「ちょっとナギ様、失礼します……」


 ゴブリン子ちゃんはその軟膏を少量指先に取り、私の耳全体に塗りつける——と。

 

 とたんにえも言われぬ、芳しい香りが辺りに漂った。


 春の花畑にいるような——雪解けの山からの涼しい風を頬に感じるような。



「あ、ほんとだ、ナギ様。耳——耳が気にならない——多少尖ってはいるけど、普通の耳に見える」


 ヒナが興奮したように言う。

 

「ほんと?」


「ええ、さっきのとんがり具合を考えれば。普通の人間にもこの程度尖ってる人はいますよ」



 湧き上がったゴブリン狩りへの激しい恐怖——それから逃れるものなら藁にもすがりたい思いだ。



「でしょう。この軟膏のベースは、春の野風で乾かした珍しい緑ヒナギクと、日陰の鈴草の蜜、そして山薄荷の葉を——」


 

 ゴブリン子ちゃんはやっぱり薬のレシピを嬉々として、長々と説明し始める。


 そんなもの聞かされたって、さっぱりわからないけど……

 

 この問題を解決できるなら、ゴブリン子ちゃん、本当に有能だ。


 今度ばかりは黙って聞いてあげよう。



「で、最後にすべてをゴブリンの涙で練り合わせたものなのです。

 毎日、こうやって少うしずつ塗っておけば、どれだけ耳が伸びようが尖ろうが、人に怪しまれることはありません。

 目くらましの一種ですね。

 ——あとは、支配人さんがおっしゃるように、髪や三角巾で隠しておくのもさらに良いかと思います」


「本当にすごいわ、ゴブリン子ちゃん」


 明らかに尖ったこの耳が、普通の耳に見えるなんて。

 


 と——私は急に思いついた。



「ねえ、ゴブリン子ちゃん。それならもしかして、ヒナの翼もなんとか——目立たないようにできるんじゃない?」


 そうだ。


 そうすれば、逃げるのもそう苦労しないだろう。


 ヒナの青い大きな翼は、人目を引きすぎるから。


 ゴブリン子ちゃんは、眉をひそめて言った。

 

「確かに理論上ではできますが……、ちょっと翼が大きすぎて——薬が足りません」


 ああ。

 やっぱり、そう甘くはないか……。



 でもゴブリン子ちゃんは諦めなかった。

 

「それよりも——逃げる時、羽織るマントの方に何かしらの魔法をかけて、隠す工夫をできるかもしれません」


 そして、ヒナのマントを眺め、いろいろな花の名前をぶつぶつつぶやいて考え込む。


「何とかなると思います。隠す、という目的から言うと、魔法陣といい、ナギ様の耳といい、基本の考え方は一緒ですから。すぐにレシピに取り掛かりますわ」 


 今にも調合にかかりそうな勢いのゴブリン子ちゃんを手で制する。


「待ってゴブリン子ちゃん。どっちにしてもヒナの傷が治るまでは逃げることはできないんだから、慌てなくてもまだ時間はあるわ」


「とにかく、あたしの耳の薬は——なんだか素敵な香水をつけている気分だわ。本当にいい香り——ありがとう」


 ゴブリン子ちゃんは嬉しそうに、はにかんで笑った。


 

続く

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