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しろのほう  作者: 焚(たき)
『好きだったはずの"ひとり"』
9/39

忘れられない日(下)

会場に着くと既に場内は賑やかだった。

試合開始前に最期の練習している選手や

コーチから熱い指導を受ける選手達。

熱気と騒がしさでいっぱいだった。


私は少し落ち着いた。

この雑音の中なら1人ぼっちの寂しさが紛れる気がした。


大会が開始され試合が始まった。

先輩達や普段無視される友達の試合を

私も部員のみんなと一緒になって応援する。

一生懸命声出しをした。

何が理由かさえ分からないにも関わらず、

罪を償うように。

私がまた受け入れてもらえるように。

こんな私が変われるように。

そんな事を思って行動しても

みんなと話せることは無かった。




12:00をとっくに過ぎた頃、

ようやくお昼休憩の時間となった。


私は自分の席に腰を下ろした。

自分の椅子の列だけ誰も人がいない。

みんなは前列の席に座っていて、

私は視界にさえ入らない。


1人は寂しいと思ったけど、

部活前の会話の輪に入れずに

コートの隅で座り込む時間より、

何か食べている方が気が紛れるからマシだと思った。




私も早くご飯を食べよう。

食べたらトイレにでも篭っていよう。

この空間から少しでも逃げたい。

そう思いながら母から持たされたお弁当箱を開けると、中身は可愛いクマのキャラ弁だった。




私はこの時初めて抑えきれずに涙が溢れた。

表では絶対に泣かない。

そう心に決めて毎日ピンと張りつめていた糸が

一瞬にして切れ、いろんな想いが込み上げて来た。


なんでこんな時に限ってお弁当なんだろう…

せっかく頑張って作ってくれたお弁当。

みんなに自慢したかったな、

今の私にそんなこと出来ないけど。

そんな言葉が浮かんだ。


母が早起きして私の為に作ってくれた、

こんなに凝ったお弁当。

1人で食べなきゃいけないのが苦しかった。

いつも当たり前に作ってくれるお弁当が、

こんなに優しさで溢れてるなんて。

毎日部活で無視をされてる日々の中で、

人の温もりを感じられないこの瞬間の中、

母の想いが詰まったお弁当で涙が止まらなかった。


そして無視をされてる今の自分が惨めで、

こんな自分を親に知られたくないと思った。

わたしはずっと下を向いて前に座っている

みんなに分からないように静かに泣いた。

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