第三話 幸せのカタチ
「... ...さん。」
どこか遠いところから声が聞こえる。
「本田さん。」
知らない声がする。
ゆっくりと目を開ける。
眩しい光で目が痛む。
見知らぬ天井。
見たことのない部屋。
俺を囲むように数人の男女が立っていた。
「こ、ここは...??」
薬の独特の臭い。
乾燥した空気。
白い壁...。
「び、びょういん...??」
「はい、ここは病院です。」
白い服を着た男が答える。
「な、なんで...、びょういんなんかに?」
俺が返事を返す。
「二年前、あなたは工事現場で鉄骨の下敷きになっていたのですよ。覚えてらっしゃいますか?」
「こうじげんば...、てっこつ...!?」
あぁ、そうだ、俺は鉄骨の下敷きになって。
「救急搬送され、この病院に運ばれ今まで意識を失っていたのです。」
そう言うと、男は振り返り、家族へ連絡するように伝えた。
看護師たちが対応する。
「本田さん、今はゆっくりお体をお休めください。」
男は優しく俺にそう伝えると、病室内を後にした。
...。
それから、両親や妹たちが見舞いにきた。
やせ細った体を見て泣いていた。
涙を流す親たちを見て、俺は...、何も思わなかった。
いや、何というか。
まるで、この男女たちが自分の親ではないかのように思えたのだ。
俺は誰だ?
本田 公彦??誰だ、それは?
俺は、キャサ...リ...?
数日が経過し、ようやく俺は『本田 公彦』だということを理解した、納得した。
何か夢を見ていたんだろう。
夢が深すぎて、現実と夢の記憶がごちゃ混ぜになっていたんだと思った。
夢がどんなものだったのかは、もう覚えていない。
1か月のリハビリを終えて俺は退院することになった。
俺の横には、俺をずっと支えてくれた女性。
そう、この病院の看護師で工藤 恵美がいた。
二年前の事故で、俺は会社を退職扱いになっていた。
退院してからすぐに復帰できるわけでもなく、どうしたものかと思っていたら、恵美がこう言った。
「大丈夫、私が一生、あなたを支えるから!」
そう言って俺の顔を見つめてくる恵美。
そう、俺は主人公なのだ。
俺の顔面偏差値は今も高いままだった。
---------------------------数年後
俺は、いや、俺たちは結婚した。
一人娘にも恵まれた。
毎日、娘とじゃれ合う日々。
父親になったという実感が湧いてくる。
もちろん、仕事は今もしていない。
もちろん、家事は全くしていない。
世間では、俺みたいな奴のことを『ヒモ』とか言うが、『ヒモ』にもなれない無能に何を言われても気にならない。
俺は、いつも、そう、これからもずーっと、こうやって生きていくのだ。
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今日は日曜日。
恵美は、午前勤務だと言って仕事に出て行った。
俺は、いつものように娘と一緒に遊んでいた。
「パパ、見て見て~」
娘がそう言い持ってるものを俺に見せてくる。
「うん?なんだい??」
俺は、そう言いながら娘が見せてくるものを見た。
それは、今放送しているアニメのキャラクター人形だった。
「キャシー、パパにあいさつして」
娘はその人形を俺に向けながら言った。
「ごきげんよう、わたくしの名前はキャサリン・リンバーグ。おうこくを..さ.さえりゅ...?」
娘の声が部屋の中に響く。
「くっ、な、なんだ??」
心が騒めく。
「キャサ...リン?リン... ...バ... ... ...。」
あぁ...。
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「ただいま~」
女の声が玄関から聞こえてくる。
「あれ?どうしたの?」
部屋に電気がついておらず、全く返事がないため、女が戸惑っている。
その時、女の耳に微かだが娘が泣いている声がしてきた。
「ど、どうしたの?... ...ちゃん!」
慌てて娘を探す女。
暗い部屋の隅に、娘はいた。
泣きながら、一点を見つめ続けている。
娘の視線の先を見た瞬間、女は...。
「ど、どうして...。」
男がいた。
サイズが全く合わない娘の。
下着や服を無理やり着た男。
焦点の合わない目でずーっと独り言を言い続けていた。
「ご機嫌よう。私の名前はキャサリン・リンバーグ。エーデルバッハ王国を支える至高の血筋、リンバーグ公爵家の正統なる第一令嬢ですわ...。」
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「現実世界で生きることと、妄想世界で生きること。」
本当に。
「人間にとって幸せなのは、どちらなんだろうな...。」
あなたは、どちらだと思いますか?




