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第一話 覚醒勇者

「.........ゆ....ゆうしゃ...さま...」

どこか遠いところから声が聞こえる。

知らない声がする。

「勇者さま...」

いや...、違う!すぐそばからの声だ。

いきなり、白い光が降り注ぐ。

「な、なんだここは...。」

見知らぬ天井、見たことのない壁画。

俺を囲むように数人の男たちが立っていた。


「おぉ...成功したのか...?」

「勇者様が...。本当に召喚できたのか....。」


「ゆうしゃ...だと?ま、まさか...異世界!?」

「うっ!頭が...。」

「どういうことだ...、なんで異世界に??何が起きた?」


確か...。


俺は学校から帰る途中だった。

いつもの下校ルート。

普段は車がほとんど通らない道。

スマホを見ながら、横断歩道を渡ろうとして...。

トラックからのヘッドライト、ハイビーム。

あぁ...................俺は...。


「大丈夫ですか?勇者様」

優しくも凛とした美しい女の声がして、顔を上げた。

そこには、豪華なドレスを着た絶世の美女が心配そうにこちらを見ながら立っていた。

「あなたは?」

「わたくしは、クリスティーナ・オーモンド。この国の王女です。」

彼女は少し潤んだ瞳でこちらに話しかけてきた。

「申し訳ございません。こちらの都合であなた様を召喚してしまいました。」


「召喚?」


「ここからは私が話をしよう」

突然、力強く太い男の声がした。

周囲の男たちをかき分けて、豪華な衣装と宝石を身にまとった男が、老人や鎧を身に着けた男たちと共に現れた。


「勇者殿。挨拶が遅れて済まない。私はオーモンド王国国王、アレクサンドル・オーモンド。隣にいるのが、宮廷魔術師筆頭のカサと王国騎士団長のドミトリーだ。」

男の声に合わせ、両脇の男たちが頭を下げる。

「今、わがオーモンド王国が、いや、この世界全てが魔王の脅威にさらされて、滅亡の危機に立たされているのだ。」

「この国の古い文献に、『世界に魔王による危機が訪れたとき、捧げられた人々の祈りにより、世界を救う1人の勇者が召喚される。そして、魔王は勇者と仲間たちの手によって滅ぼされ世界は平和になるだろう』と。」

「今がまさに、そのとき!」


老人が少し前に出、こう言う。

「祈りを捧げ、勇者様...、あなた様が召喚されたのです!」

「あなた様が、この国を、いや、この世界を救う勇者様なのです!」

「どうか我々をお救いください」

老人はもちろん、王や王女、騎士たち。

その場にいた者すべてが頭を下げた。


「お...俺が、勇者だって?」

嘘だろ...。ゲームとか漫画じゃあるまいし。

そんな話が現実に起きるわけないじゃん。

大体、俺は、ただの高校生だぞ...。

こういうのって、普通もっとクラスの人気者とか、すっげぇスポーツ万能のやつとかが選ばれるんじゃねえの?

俺、帰宅部だし、スポーツとかも全然...。

そんな俺が『勇者』だって?


「...お、俺が、世界を救う?」


「はい」老人が静かに頷く。

そして、「どうぞ、勇者様、わたくしについてきてくださいませ。」

老人は俺にそう言うと騎士たちの手で開けられた扉に向かい歩き始めた。

反射的に体が動いた。

なぜかは知らないが、ついていかないといけない気がしたのだ。


王城にある階段を下り地下に行く。

豪華に装飾された重厚な扉を開け、少し開いたところにソレはあった。

透明なケースに入れられた1本の剣。

「綺麗だ...」

俺の手は、まるで剣に吸い寄せられるかのようにそのケースに伸びていった。

『パリ、パリ、パリーンッ』

突然、ケースが砕け散った。

「あ、あぁ...。」

剣が白銀に輝きだし、俺の目の前に浮かんでいる。

まるで俺との出会いに歓喜しているように...。

剣柄を握った瞬間、光が一気に部屋全体を包み込んだ。


「待っていました...、勇者よ...。」

声が聞こえる...。

「わたしは、スヴァローグ」

「あなたこそが勇者。魔を払い、この世界に平和をもたらす者」

「私を使い、魔王を討ち果たすのです...」


...あぁ、そうか。

そうだったのか!

俺は、この日のために今まで...。

心の底から理解した。

俺は、選ばれた、いや、既に選ばれていたのだ。


「いくぞ、スヴァローグ!」

「魔王を討ち果たし、この世界に再び光を灯すために!」


---------------


それから俺は戦闘訓練に明け暮れた。

いくら勇者とはいえ、すぐに実践で戦えるってわけじゃない。

剣術はもちろん魔法も習得しなければならなかった。

実践が大事ってことで、最初はスライムやゴブリンとの戦いを始めた。

ゲームとかじゃ弱小モンスターと言われることもあるスライムだが、思ってたより敏捷でなかなか捉えることができなかった。

1匹倒すだけで息が上がって仲間に助けてもらっていた。

二本足のゴブリンを倒したときは、嫌悪感で嘔吐してしまった。

小さな魔物に怯え何度か死を覚悟した。

だが。

俺には仲間がいた。


「おぃおぃ、ゆうしゃさまよぉ~だらしねえなぁ、まったくよ~」

シニカルに笑う男は、ゲーナ。

「じゃぁ、お前がもっと前出ろよなぁ」

「ムリムリムリ~俺は、斥候なの。前に出たら速攻やられるっちゅうの。」

「よく言うよ、まったく」

こいつの体捌きは半端ねぇ。気が付いたら敵の後ろを取るなんて当たり前にやってのける。投げナイフの的中率も凄い。

憎まれ口を叩くが、俺は知っている。

本当は仲間思いで、誰よりも先んじて敵を見つけては、ある程度間引きしてくれてるってことを。


「無茶し過ぎるな、マサカズ。俺が盾だってことを忘れるな!」

冷静によく通る声で伝えてくる大男。

王国騎士団長の息子で、次期王国騎士団長とも言われる、イワンだ。

剣、盾、どれを使っても一流の騎士。

まだまだ経験値不足の俺のために、タンク役を買って出てくれている。

毎朝、俺の剣の修行にも付き合ってくれている、剣の師匠でもある。


「ほんと、使えない...はぁ...」

小声で文句を言ってるのは、魔法使いのマイア。

「聞こえてるぞ!」

「...ふんっ...じじぃに頼まれなかったらこんなこと...」

こいつは、宮廷魔術師筆頭のじいさんの孫だ。

魔法の才能は、じいさんより上かもってことで周囲が期待しまくっている。

ただ、魔法研究が好きすぎて実践より自分の城にこもって研究する方が好きなんだと。

一応、魔法の師匠でもある。本人は嫌がっているが。

いつか、デレる日が来るんだろうか...。


そして、最後の仲間。

彼女は、神官ネト。

最年少ながら個性もバラバラなみんなをまとめてくれる、メサイア教国の神官だ。

まだ幼さの残る少女だが、誰よりも勇者を信じている。

彼女は王国の人間じゃない。

遥か海の向こう、メサイア教国から。

勇者を支えるためにやってきた。


---------------


わたし...。

あたしには...、なんもない。

いつどこで生まれたとか、そんなの覚えてない。

名前もなぁんもない。

気が付いたら、路上で生活してた。


『ネト』

何もないって意味の言葉。


物心ついたころはまだ良かった。

路上生活とはいえ、まとめ役の男の人がいて、あたしたちにもできる仕事を回してくれて何とかやっていけた。

けど...。

魔王の軍勢と戦うために、男の人はみんな戦場に出て行った。


誰の助けもなくて、身体はガリガリで骨と皮だけになっていった...。

もう、限界だった。

そんな時、あたしに光が宿った。

意識が遠のきそうになる、そんな状態で宿った光。

なんで、あたしにそんな力が現れたのかは分からない。

でも、その力のお陰で、あたし...わたしの生活は一変した。


神に仕える神官としての人生。


「魔王の力は日に日に増している。神に仕える皆よ、悩める人々への救済を...。」

神官長が神官みんなに伝えてる。

かつてのわたしのように、つらくて苦しい生活をしている人たちが少しでも生きようと頑張れるように。

そんなある日、わたしは神官長から呼び出しを受けた。


「神官ネト。」

「はい。」

「天啓が降りました...、勇者がこの世界に召喚されると。ネト、旅立ちなさい。そして、勇者とともに魔王を打ち倒すのです。」

「勇者様...!?」

神官長は静かに頷いた。

「そうです。勇者、彼こそ。この世界最後の希望。魔を払い、世界に光をもたらす存在。」


「...わかりました。」


身支度をし旅に出る直前、海を越えたところにあるオーモンド王国が勇者召喚を行い、成功したという噂が流れてきた。

「...勇者様........」


海を渡るのは大変だった。

でも、これがわたしの使命。

生きる道。

そして...わたしは...光を...、魔を消し去る強い、白銀に輝く光に出会った。


---------------


「いいんですよ、これで!マサカズ様は成長する勇者。これからどんどん強くなってみんなを導いてくれるんです!」

ニコニコ笑いながら、そう言う少女。


魔王を倒すという目的のもと集まった5人。

旅を続ける内、俺は少しずつ変わっていった。

誰かに認められたい気持ちはある。

けど、それだけじゃない。

誰かを守るためにも剣を振るんだ!

それが、それこそが勇者なんだと思うようになった。


---------------


旅の途中、俺たちは多くの村を訪れた。

魔王軍によって破壊された村。

家族を失い、家も失い、途方に暮れる人。

泣きながら親を探し続けるこども。

最初は、現実感がなくどこか他人事のように思えた。

でも、何度も色んな人たちと出会い、色んな人たちを見て。

これはゲームとかじゃない、これはリアルなんだと理解した。

人がいなくなれば悲しくなり、切なくなり、苦しくなる。

光が見えればそれに向かって、前向きに生きようとする。

みんな、俺と同じ人間だった。


だから。

必ず魔王を倒す。

この世界を救う。

この世界に光を...。

それが俺の...、俺がここに来た意味なんだと。


---------------勇者召喚より3年後


魔王を倒す。

最後の準備を整えるため、俺は一旦王都に戻った。

「マサカズ様...」

「クリスティーナ姫!?なぜ、ここに?」

「マサカズ様が...、最後の戦いに出られると聞いて...」

「...........。」

突然、クリスティーナがこちらに身を寄せる。

「ずっと、ずっと。わたくしたちのために、この世界のためにあなたは傷ついて...。」

少し上ずり震える声で...。

そっとクリスティーナの肩に手を置き、体を離す。

「大丈夫。必ず戻ってくる。」

「魔王を倒して、この世界に平和を取り戻して」

「俺は、また、あなたに会いに行きます。」

クリスティーナ姫は、泣きそうになりながらも微笑んだ。

「また、あなたに会いたい...。会えるようお祈りいたします。」

「お待ちいたします、いつまでも、ずっと...。」


その笑顔を見た瞬間理解した。


そうか...。

俺が生まれた意味は...。


そうか...。

俺がこの世界に呼ばれた意味は...。


このためだったのだと!


---------------


魔王討伐の旅が始まる。

長い戦いになる。何度も傷つき、倒れそうになる。

何度も諦め挫けそうになっても、俺には守りたいものがある。

傷ついた人たち、仲間たち、この世界..........クリスティーナ。

絶対に戻る、そう誓ったんだ。


だが、この時の俺はまだ知らなかった。

この世界で過ごした三年間が。

俺にとって何よりも大切な時間になることを...。

そして。

いつか目覚めた時。


その全てを否定されることになることを...。


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