sweet3.5 うちのエルフメイドは、小さくなってでも甘えたい
自室で本を読んでいると、扉の向こうから小さなノックの音が聞こえた。
「ご主人様……入ってもよろしいでしょうか……?♡」
「ルシィか? 構わないが」
「! し、失礼いたします……♡」
俺が返事をすると、扉がゆっくりと開いた。
俺は本から顔を上げ、エルシアの方へ視線を向ける。
しかし。なぜなのか、いつまで待ってもエルシアの顔が見えなかった。
「……?」
声からして、扉を開けたのは間違いなくエルシアのはずだ。
そのことを訝しみ、周囲を見回す。
最後に視線を下へ落として――ようやく理由が分かった。
「…………ルシィ?」
「はい♡」
そこにいたのは、見慣れた桃色の髪をした――しかし、知っているよりも遥かに小さな少女。
長い耳も翡翠色の瞳もエルシアそのものだが、背丈は俺の腰上ほどしかない。
メイド服まで身体に合わせて縮んでいるあたり、間違いなく魔法だろう。
「何をしてるんだ、お前」
「あ、あの、えっと……♡」
エルシアは背中で両手を組み、もじもじと身体を揺らした。
その顔はやけに赤く染まっており、自由奔放で悪びれない彼女にしては歯切れが悪い。
そして、何か言いたそうに俺を見上げている。
「ご、ご主人様……」
「ん、なんだ」
「だ、だっこちて……♡」
「…………」
沈黙。
言った本人の頬が、一瞬で耳まで真っ赤になった。
「……ルシィ、お前な。魔法で小さくなったところで、精神はそのままだろう」
「てへ……♡ バレてしまいました♡」
「最初から分かっている。それに顔が真っ赤だぞ、恥ずかしいなら初めからやるな」
「うぅ……だって。ご主人様に甘えたくて……♡」
エルシアは恥ずかしそうに俯きながら、こちらへ両腕を伸ばしてくる。
「……たまにはご主人様に、だっこ、してほしいのです……♡」
「普通の姿でも時々してやるだろう」
「ですが、小さいほうがたくさん可愛がっていただけるかと……♡」
「どういう算段だ」
本を置き、呆れながら――エルシアの前へしゃがむ。
両脇へ手を入れて持ち上げると、小さくなった身体は驚くほど軽かった。
「きゃっ……♡」
そのまま抱き上げると、エルシアは嬉しそうに俺の首へ腕を回す。
「えへへ……♡ ご主人様のお顔がとても近いです♡」
「満足したか?」
「まだです♡」
「今日はまた一段と我儘だな。……それで、何をしてほしい」
「そうですね……では、もっとなでなでしてください♡」
ため息を吐きながらも、桃色の頭へ手を置く。
腕の中に収まった桃色の頭をゆっくり撫でると、エルシアは目を細め、俺の肩へ頬を寄せた。
「ん……♡」
「随分ご機嫌だな」
「はい……♡ いまのエルシアは、ご主人様に持ち運んでいただけるサイズ感ですので……♡」
「物みたいに言うな」
「私の全てはご主人様のものですから、モノみたいに扱ってくださっても構いませんのに♡」などというエルシアの戯言を聞かなかったことにして、ソファへ腰を下ろす。
そのままエルシアを膝の上へ乗せると、小さな身体は当然のようにこちらへ向き直り、俺の胸へぴったりとくっついてきた。
「……ルシィ。いつでも元には戻れるんだろ?」
「…………はて」
「おい」
「ええと、魔力が足りませんので……♡」
「嘘をつけ。お前の魔力が枯渇するところなど、この十数年で見たこともない」
「……これは失態ですね、もう少しか弱い女の子を演じておくべきでした……あと五分だけ、このままでは駄目ですか?」
胸元から、エルシアが恐る恐るとこちらを見上げてくる。
そんな顔をされて、無理に降ろせるほど俺も冷たくはない。
「……五分だけだぞ」
「はいっ♡」
途端にエルシアの顔が綻ぶ。
また首へ腕を回し、今度は遠慮なく俺の胸へ頬を擦り寄せてきた。
「ご主人様、大好きです……♡」
「分かったから、大人しくしていろ」
「はい♡ ……あの」
「今度は何だ?」
「五分経ったら、もう五分お願いしてもよろしいでしょうか……?♡」
「駄目だ、それを世間では十分という」
「そんなぁ……♡」
不満を漏らしつつも、エルシアは俺の腕の中で幸せそうに微笑んでいた。
結局――エルシアが元の姿へ戻ったのは、それから三十分ほど後のことだった。




