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甘ラブコメ短編集  作者: 創綴世 優


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2/2

sweet.2 ツンデレられない彼女


 僕の彼女は、どうやらツンデレになりたいらしい。


 なりたい、というだけで……今まで一度も、ツンデレになれたことはないけれど。


「ゆ、悠人ッ!」


 朝のホームルームが始まる少し前。


 教室へ入ってきた篠宮朱音しのみやあかねは、真っ赤な顔で僕の席まで歩いてくると、勢いよく机の上へ何かを置いた。


 薄桃色の布に包まれた、小さな弁当箱。


 朱音は胸の前で腕を組み、どうにか僕を睨もうとしていた。


 もっとも、目が合った瞬間に視線を逸らしてしまったので、まったく睨めてないけど。


「これは、別に……っ、……私の手作り……だし」


「うん、いつもありがとう」


「っ、たまたま朝早く目が覚めたから作っただけで、別にあんたのために…………」


 そこまで言って、朱音の声が止まる。

 眉間に皺を寄せ、唇をきゅっと噛み締めながら、心の中で何かと必死に戦ってるみたいだ。


「朱音?」


「あんたのために作ったの!!」


 顔を上げた朱音が、教室中に響きそうな声で叫んだ。

 ……結局、堪えきれなかったらしい。


「あんたに食べてほしくて朝五時半に起きたし! 悠人の好きな唐揚げも入れたし、卵焼きは三回失敗したけど四回目はちゃんと綺麗にできたのっ!! ……だからお昼に全部食べて、何がおいしかったか教えなさいよ」


「う、うん。ありがとう、すごく嬉しいよ」


「ほんと!?」


 さっきまでの強張った表情が嘘みたいに、朱音の顔がぱぁっと明るくなる。


 ……けれど、自分が何をしに来たのか思い出したのだろう。

 すぐに両手で頬を押さえ、恥ずかしそうにその場でしゃがみ込む。


「ああ、また失敗したぁ……」


「失敗なの? 美味しそうだけどな」


「そうじゃないもん!! 本当は『勘違いしないでよね、たまたま自分用に作ったのが余っただけなんだから』って、冷たく渡す予定だったの!」


「余ったにしては僕の好きなものばかり入ってるし、量的にも無理があると思うけど……」


「そこは悠人が察して合わせなさいよ!」


 床にしゃがんだまま、朱音が僕の膝をぺしぺしと叩く。


 そう、これはいつも通りの日常風景なのである。

 どうやら、朱音はツンデレになりたいが、根っからの素直な性格が邪魔して上手くできず、しかも僕には素直に喜んでもらいたいらしい。


 かなり難しい注文というか、わがままなところだけはちょっとツンデレっぽいけど。


「まあ、途中まではツンデレっぽかったよ」


「……ほんと?」


「『別に私の手作りだし』って言った時点で、いつも通りだって察したけどね」


「もうっ! 思い出さないでよばかー!」


 勢いよく立ち上がった朱音は、恥ずかしさを誤魔化すように僕の肩を叩いた。

 世間一般のツンデレといえば、照れ隠しの暴力がつきものというイメージだけど……朱音の暴力は優しすぎて、もはやじゃれ合いでしかない。


「……」


 朱音は席へ戻る前にもう一度振り返って、小さな声で付け加える。


「……でも、本当に頑張って作ったんだからね」


 朱音の素直な言葉に、僕は自然と微笑む。


「うん、わかってる。大切に食べるよ」


「ん……」


 朱音は満足そうに頬を緩めたあと、早足で自分の席へ戻っていった。


 背中からでも、耳まで赤くなっているのがよく分かる。


 ――そういえば、僕と朱音が付き合い始めてもう三か月になる。


 恋人になる前から素直ではあったけれど、付き合い始めてからは以前にも増して、僕への好意を隠さなくなった。

 そのこと自体は、とても嬉しい。


 ……ただ、朱音は小さい頃に読んだラブコメに出てくる、ツンデレヒロインに憧れてしまったらしい。


 だから、毎日のようにツンデレらしきものへ挑戦しているけど……それが成功したことは一度もない。





「悠人! これ食べてみて」


 昼休み――朱音は当然のように僕の机の向かいへ椅子を持ってきて、腰を下ろしていた。


 朝に渡された弁当箱を開けると、少し形の崩れた卵焼きと、唐揚げや色とりどりの野菜が綺麗に詰められている。


 やっぱり、どれも僕の好きなものばかりだ。


 朱音は箸で卵焼きを摘まむと、僕の口元へ差し出した。


「悠人、あ、あーん……」


「自分で作った弁当を、自分で食べさせてくれるんだ」


「だ、だって……どんな反応をするか、近くで見たいもん」


 ……いったい、ツンデレとは何だったのか。


「それじゃ、いただきます」


 差し出された卵焼きを口に入れると、ふわっとした食感と、優しい甘さが口いっぱいに広がった。


「ど、どう……?」


「ん、すごくおいしいよ朱音」


「ほんとにっ!?」


「うん、今まで食べた卵焼きの中で一番好きかも」


「い、一番……」


 朱音の口元が、みるみる緩んでいく。

 机の下では足をぱたぱたさせながら、上半身だけは必死に平静を装っているものの、嬉しいのが丸分かりだった。


「良かった……朝から頑張った甲斐があったぁ……」


 朱音が小声でそんなことを呟く。……が、距離が近すぎて全部聞こえてしまっている。


「ねえ、朱音」


「な、何よ……?」


「今日の昼は、ツンデレしなくていいの?」


「……っ、するわよ! ――そう、今のはあんたを油断させるための作戦ってやつよっ!!」


 なるほど、忘れていたらしい。これも、僕たちにとってはいつものことだ。


 そんな僕の内心には気付かずに――朱音は慌てて箸を置くと、ぴんと背筋を伸ばした。


 一度目を閉じて、気合を入れるように深呼吸する。


「よ、よしっ……!」


「そんな無理しなくてもいいと思うけど……」


「うるさい! 今日は絶対成功させるのっ! なんたって、昨日寝る前にたくさん練習したんだから!!」


 朱音はスマートフォンを取り出すと、何やら画面を確認した。


 どうやら今日は、ツンデレらしい振る舞いや台詞を調べてきたらしい。


 スマホをしまって僕へ向き直ると、照れ隠しのように腕を組む。


「あんたのことなんて別に……! す、す、……」


 定番の台詞を言いたいらしいけど、早くも様子がおかしい。

 朱音の頬が赤く染まり、組んでいた腕が落ち着きなく動き始める。


「す……」


「朱音?」


 僕が沈黙に耐え切れず声を掛けると、朱音は真っ赤な顔のまま目をぎゅっとつむり、両拳を身体の横で握り締めると、


「すき!!!! 大好きっ!!!!!!」


 朱音の告白が、教室中へ響き渡る。


 かなりの大声だったので、近くにいたクラスメイトが一斉にこちらを見たけれど……僕たちの日常を知っているからか、すぐに何事もなかったように弁当へ戻っていった。


「う、うん……ありがとう。今日も相変わらず直球だね、朱音は」


「……~~っ、だってぇ!!」


 朱音は僕の机へ両手をつき、泣きそうな顔で身を乗り出した。


「私、あんたのこと傷つけるようなことなんて嘘でも言えないしっ!! 好きなものは好きなんだもん!!」


「うーん、僕は別に傷つかないよ? 朱音の気持ちはよく知ってるし、言われてもツンデレの練習だって分かってるし」


「それでも嫌なの!」


 朱音の目に、みるみる涙が溜まっていく。


「嘘でもあんたに嫌いなんて言えるわけないし、そんなの、言うって想像しただけで……ううぅ」


 やっぱり朱音は優しい子だと、分かりきっていたはずのことを改めて思う。


「朱音、大丈夫だから。分かってるよ」


「うわあああん!!!」


 朱音は席を立つと、そのまま僕の胸へ飛び込んできた。


 制服を両手で掴み、顔を押しつけながら大粒の涙を流している。


「ごめんなさい悠人ぉ……大好きだからぁ……!」


「わ、分かった分かった! 分かってるから!! ――というかそもそも何も言われてないし!!」


 周囲の視線を感じつつ、僕は慌てて朱音の背中を撫でた。


「いつも伝えてくれてありがとう。僕も大好きだよ、朱音」


「う、うぅ……私はツンデレがしたいのにぃ……」


 そう言いながらも、朱音の口元はだらしなく緩んでいる。

 涙を流したまま、嬉しさを隠しきれずに、にやにやしていた。


「好きって言われたの、そんなに嬉しい?」


「うれしくな……う、うれしいけど……ものすごく嬉しいけどぉ……」


「朱音がツンデレになるには、まだまだ道のりは遠そうだね」


「うぅ、明日こそは絶対に成功させるもん……」


 朱音はぐすぐすと鼻を鳴らしながら、僕の胸へ頬を擦り寄せる。


 おそらく、明日も同じように失敗するだろう。


 僕としては、今の朱音のままでいてほしいのだけれど。





「ねえ、悠人」


 放課後、僕たちは並んで学校から駅へ向かっていた。


 昼休みの失敗をまだ諦めていないらしく、朱音はスマートフォンに保存してきた台詞を見ながら、一人でぶつぶつと練習している。


「今度こそちゃんとできるから、聞いてて」


「まだやるんだ……?」


「当たり前でしょっ! 失敗したまま終われないわよ!」


 朱音はそう言って立ち止まると、さっと僕の前へ回り込んだ。


 スマートフォンを制服のポケットへしまい、腰へ手を当てる。


「わ、私は別にあんたなんていなくたって……」


(……おぉ?)


 そこまではかなりツンデレらしかった。


 声も表情も、これまでで一番上手くできている。


 ただ、次の言葉を探すように少し黙ったあと――朱音は勢いよくこう続けた。


「私の生きる意味がなくなって、一時間もしないうちに病んで、そのまま死んであんたのところに行くだけなんだからねっ!!」


 ……、……?


「……う、うん。ありがとう……?」


「どう? 今のはかなりツンデレっぽかったでしょ?」


 朱音は今ので上手くできたと思っているのか、ふふんと鼻を鳴らし、得意げに胸を張っている。


「あーうん、最初だけはね」


「最初だけ!? 最後もちゃんと『なんだからね』って言ったじゃない!」


「口調の問題じゃないし、その前の内容が重すぎるんだよ……」


 僕の言葉に、朱音は「むぅ」と頬を膨らませて抗議してくる。


「そんなこと言ったって、悠人がいなくなったらそれくらいなるわよ」


「一時間で?」


「一時間経たずに、よ。一時間も耐えられたら褒めてほしいくらい。むりだけど」


「僕も、できる限り長生きするね……」


「そうして。私より先に死んだら絶対に許さないから」


 真顔でそう言ったあと、朱音は気を取り直すように咳払いをした。


「次いくわよ」


「えぇ、まだあるの?」


「なによ、バカにして! これは自信あるんだからね!!」


 朱音は再び僕を睨むような顔を作って向き直ると、口を開く。


「別に私はあんた……あんた……以外なんてどうでもいいし、一切興味ないし、絶対にありえないんだから!!!!」


 …………。


「あ、ありがとう……。けど今、最初は何て言おうとしたの? 『あんたじゃなくたって』とか?」


「っ!? そんなこと言うわけないでしょ、ばかっ!!」


 朱音は一瞬驚いたような顔をしたあと、本気で怒ったように僕の腕を両手で掴んだ。


「私が悠人じゃなくてもいいなんて、一瞬でも言うわけないじゃない! そんなの嘘でも嫌だし、もし言ったら絶対後悔して三日くらい泣き続けるから!」


「……じゃあ、何て言おうとしたの?」


「……知らない」


「ええー、朱音が知らないの?」


「だって私、ツンデレっぽいセリフ言おうとして適当に喋り出してるだけで、大体何も思いついてないもん……」


 朱音は恥ずかしそうに目を伏せた。


「『別に』って言ってから、続きはその場で考えてるの。けど悠人のことを考えると、好き以外に何も出てこないし……」


「……なるほどね、そうだったんだ」


「笑わないでよぉ!」


「えー? 笑ってないよ」


「うそ、ちょっと口元緩んでる!」


「それは、朱音が可愛いなと思って」


「ッ……!」


 朱音は言葉を失い、顔を真っ赤にして俯いた。


 けれど、すぐに僕の制服の袖を摘まむ。


「……じゃ、じゃあ、最後にもう一個だけ」


「うん」


「これは、絶対言えるから」


 朱音は小さく息を吸い、僕を見上げた。


「あっ、あんたなんて……」


 出だしは、なかなか強気な声だった。


「あんたなんて……」


 けど、二度目は少し弱くなる。


「あんたなんて?」


「あ……あ…………」


 その声は、風船から空気が抜けるように、しゅうっと小さくなっていった。


 それでも朱音は逃げず、僕の目を見たまま、最後の言葉だけははっきりと口にする。


「……あ、愛してる」


 夕方の道を、人が何人も通り過ぎていく。


 けれど、その一言だけは不思議なくらい鮮明に聞こえた。


 朱音の頬も、耳も、夕焼けに負けないほど赤い。


「うん。僕も愛してるよ」


「…………」


 朱音はしばらく固まったあと、僕の腕へ勢いよく顔を押しつけた。


「それは聞いてないぃ……!」


「えー、言われたから返したのに」


「心の準備ができてないもん!」


 そう言いつつも朱音は僕の腕から離れず、隠しきれない笑みを浮かべている。


「……もう一回言って」


「愛してるよ、朱音」


「ん、んぅ……」


 嬉しさと恥ずかしさに耐えられなくなったらしく、朱音は僕の腕を抱いたまま頭を振って、その場で小さく身悶えた。


「やっぱり、私にはツンデレなんて無理かも……」


「無理にしなくていいんじゃない?」


「……だって、可愛いじゃない。ツンツンしてるのに、本当は好きっていうの」


「僕は、素直に好きって言ってくれる朱音のほうが可愛いと思うよ」


「っ! そ、そういうことを真顔で言わないでよね……」


 朱音は僕の肩へ額を預け、小さく呟いた。


「……じゃあ、少しだけ考えておく」


 ……既に十分すぎるほどに素直だけれど。

 それでも完全に諦めるとは言わないあたり、明日も〝ツンデレ〟は続けるつもりらしい。





 その日の夜――寝支度を終えてベッドへ入った直後、朱音から電話があった。


 朱音から突然電話が来ること自体は珍しくない。けれど、こんな遅い時間にかかってくるのは初めてだった。


「もしもし、朱音?」


『……もしもし、悠人』


 聞こえてきた声は、いつもより少し低い。


「どうしたの?」


『……悠人、今日。女の子と喋ってたでしょ』


「女の子?」


『教室の前で、髪の長い子と』


「ああ。別のクラスで同じ委員会の子から、貸してたノートを返してもらっただけだよ」


『……知ってる』


「見てたんだ」


『たまたまよ。……別に気にしてないし』


 …………どう考えても、気にしている。


 しばらく沈黙したあと、朱音が勢いよく言葉を続ける。


『別に、あんたが他の子と仲良くしたって……不安と嫉妬で一睡もできなくなって病んで壊れちゃうだけだし、私がその子に何をするか分からないだけなんだからっ!!!!』


「うん、それは全然『別に』じゃないよ朱音」


『だって嫌なんだもん! 悠人が私以外の女の子を見てるのも、その子と喋ってるのも、楽しそうにしてるのもぜんぶ嫌!』


「今日のは楽しそうにはしてないと思うけど」


『でもちょっと笑ってた!』


「ノートを返してもらったから、お礼を言っただけだよ」


『うぅ……分かってるけどぉ……』


 電話の向こうから、布団が擦れるような音が聞こえる。

 おそらく枕を抱き締めながら、ベッドの上で丸くなっているのだろう。


「朱音。僕が好きなのは朱音だけだよ」


『……ほんと?』


「うん、本当」


『他の子より?』


「誰とも比べる必要がないくらい、朱音が好き」


『…………もう一回』


「朱音だけが好きだよ」


『……。……うん』


 ようやく、少し安心したような声が返ってきた。


『あとね』


「うん」


『別にあんたから少しくらい返信が来なくたって、寂しくなんか……い、一時間くらい、なら……』


 言ってる途中で朱音の声が震え始める。


『う、うううぅ……む、無理だもん……毎秒返しなさいよ、ばかぁ……』


「う、うん……だから見た瞬間に返してるじゃん」


『うぅ、だから寝る時間も合わせてくれてるけど……私がたまたま起きちゃったときとかは、すぐ返ってこないもん……』


「そりゃ、寝てるからね」


『私のために二十四時間起きててよ……そのうえで健康に長生きしてよ、私のために……』


「無茶言うなあ……。できるものならそうしたいけど、できるかなあ……」


『…………』


 電話の向こうが静かになる。


 今の要求が無茶だということは、朱音自身もよく分かっているのだろう。


 少し間を置いてから、今度は小さな声が聞こえた。


『しなくていいわよ』


「いいんだ」


『……だってどうせ、ずっと一緒なんだから……』


 さっきまでの騒がしさが嘘のような、穏やかな声だった。


『悠人が眠ってるなら、隣で一緒に寝ればいいだけだし』


「今は別々の家だけどね」


『ふん、分かってるもん。将来の話よ』


「あはは……もう一緒に住むつもりなんだ」


『当たり前でしょ。……私たちは結婚するんだから』


 照れているのか、声が少し上ずっている。


『朝も一緒に起きて、ご飯も一緒に食べて、学校……じゃなくて、仕事にも一緒に行って……寝るときもずっと隣にいるの』


「仕事は別かもしれないよ」


『ぜったい同じところで働くもん。それか、二人とも家で働く』


「そこまで合わせるんだ」


『悠人がいない時間なんて、できるだけ少ないほうがいいもん』


 僕は思わず笑ってしまった。


 朱音は、ツンデレになりたいと言う。

 なのに、考えていることも、望む未来も、全部隠さず僕へ教えてくれる。


 ……だけど僕には、それが何より嬉しかった。


『……あと』


「うん?」


『いつも私に寝る時間も起きる時間も合わせてくれて……朝はすぐにおはようって、寝る前もちゃんとおやすみって返してくれて、ありがとう』


 朱音が電話の向こうで、小さく息を吸うのが聞こえる。


『だいすき……』


「……ん。僕も大好きだよ」


『……んふふ……』


 電話越しに、嬉しそうな笑い声が聞こえてくる。


『悠人、おやすみなさい』


「おやすみ、朱音」


『……明日は絶対ツンデレ成功させるからね』


「まだ諦めてなかったんだ」


『当たり前でしょ? 明日は今日よりもっとツンツンするんだから』


「そっか」


『……でも、嘘は言わないからね』


「うん」


『傷つくことは絶対言わないし、お弁当も作るし、気持ちも沢山伝える』


「……それ、今日とほとんど同じじゃない?」


『うるさいっ! 明日の作戦は明日考えるの!』


 そう言うと、朱音は一方的に通話を切った。

 ……その数秒後、メッセージが届く。


『急に切ってごめんね』


 さらに続けて、もう一件。


『いつもありがとう、愛してます』


 僕も同じ言葉を返すと、すぐにハートの絵文字が大量に送られてきた。


 ――きっと僕の彼女は、明日もツンデレにはなれない。


 冷たくしようとして途中で耐えられなくなり、最後には今日以上の愛情をぶつけてくるのだろう。


 けど、それでいい。


 僕はツンデレの朱音よりも、僕を好きすぎて「ツンデレられない」朱音のほうが、ずっと好きなのだから。

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