第21話:すれ違う熱量と冷めた煙
10万メートル走が場外のバグ大戦へと突入している頃、グラウンドではもう一つの生徒会指定種目――『ヘビィ大玉転がし』が始まろうとしていた。
『大玉』と呼ぶにはあまりにも禍々しい、超合金製のトゲ付き鉄球。それを二人のペアで転がし、障害物を粉砕しながらゴールを目指すという、例示学園伝統の破壊的競技である。
スターティングエリアに立った生徒会長レインは、自分の横に並んだ人物を見て、その端正な顔を驚愕に歪めた。
「なっ……! 相方は、貴女なの!?」
「ん? ああ……。エリカなら、クラス対抗の10万メートル走に出てるけど?」
バレット組の体操着を着たサクラが、最新型の電子タバコ『αC-38』を指に挟み、いつもと変わらない気怠げな様子でそこに立っていた。
「なっ……エリカが、クラス対抗に……!? 私との決着を放り出して、あんな泥臭い長距離走に……!?」
レインの脳内は完全にフリーズしていた。この体育祭でエリカとペアを組み、あるいは敵として戦い、かつての熱い日々を取り戻す――そんな青写真が、スタート直前に音を立てて崩れ去ったのだ。
「にしても、あんたが白組でよかったさね。敵同士だったら、私、最初からギブアップして煙草ふかしに戻るところだったよ」
サクラはふぅ、と紫煙を吐き出し、レインの動揺などどこ吹く風で鉄球に手を添えた。
「……貴女は、相変わらずですわね、サクラ。あの『魔の七日間』を生き残ったというのに、その牙を隠し、そんなレジスタンス気取りのクラスで燻っているなんて」
レインの瞳に、歪んだ絆と冷徹な怒りが混ざり合った光が宿る。だが、サクラはそれを受け流すように、ただ前方のスタートラインを見つめた。
「牙なんて最初からないさね。……そろそろ始まるね。ふぅ……さて、次の話は、これが終わってからさね」
開始の号砲が響き渡る。
エリカを失った喪失感のまま、怒りに任せて3トンの鉄球を強引に押し出す生徒会長。そして、その暴走に完璧なタイミングで『元・会計』としての正確無誤なサポートを合わせるサクラ。
交わることのない二人の生き残りが、グラウンドを文字通りの更地へと変えていく。




