譲れない願いと竜の赤ちゃん 《三人称視点》
刻は少し遡り、サムとウィンリィが竜の腹の中へ行く前のこと。
「有難う、コーラ、大分落ちついたよ」
「そうかしら? まだまだ顔色が悪そうだけれど?」
ルートは、コーラが探してきてくれた精神安定薬と、精神汚染による身体虚弱抑制剤を飲んで、上半身を起こせるまでには回復していた。
「倦怠感はあるけれど、胸の痛みも頭痛も無くなったし、何より、心が元気なんだ。だから……」
「だめよ。今あなたに無理をさせたら、またウィンリィが泣くわ。あの子だってたくさん失って来ているし、未来でもたくさん無くしているのよ? サムから聞いているでしょう?」
「……聞いているよ。でも僕は」
「ダメったらダメよ。今は安静にしてなさい。三人は必ず無事に帰ってくるわ。私たちは待つしかないのよ」
そう話すコーラが拳を握り締めたので、ルートは一度黙った。
竜の元へ向かった三人のことが心配なのは、コーラも同じだと思ったからだ。
しかし、それでも、ルートには譲れない願いがある。
それを言葉にしようと彼が口を開いたその時――
「ふぅ、なるほど。これは潜伏するのに向いた場所ですね? コーラ、ルート」
「「イオ」」
王宮のベランダから入って来たのは、竜の姿のイオだった。
彼女は、ルートがいるベッドに向かいながら姿を人に変えると、すぐに要件を口にした。
「ルート、具合が悪いところ、申し訳ないのですが、卵を出してもらえますか?」
「サムたちに会ったんだね。分かったよ、今、出すね」
ルートは、アイテムボックスから二個の若草色の大きな卵を出して、ベッドの上に置く。
すると、柔らかなベッドの上で、二つの卵はぶるぶると揺れて見せた。
「これは、孵化寸前ではないですか……」
「ルアが捕えられてた場所にあったんだ」
「イオ、これはやっぱり、ルアとスアの卵なのかしら?」
イオは、その卵の若草色を確かめるように指で撫でた。瞬間、彼女の頭の中に、優しかった姉――スアの笑みがはっきりと浮かぶ。
「……間違いありません。これは、スアが産んだ卵です。でも、何故? 私たち竜は一度に一生分の卵を10個産みます。その数が前後することはありません。スアは既に10個産んで育てていますから、本来なら、生まれるはずのない卵ですよ、これは……」
その言葉を否定するかの如く、卵に大きなヒビが入った。
三人が目を瞠る中、ヒビは何箇所にも渡り、とうとうバリンッと音を立てて大きく割れた。
「ウォ! ウワァァ!」
「ウワァァァーン!」
中から現れたのは綺麗な若草色をした竜の赤ちゃんだった。
イオが慌てて、泣いている二体を抱き上げると、赤ちゃんたちは、「ウォ?」「ウワ?」と鳴き、不思議そうにイオを見上げた。
「ルアとスアにそっくりですね、どういうわけか分かりませんが、あなたたちのことは私とカイが責任持って育てますから、安心して下さい」
竜の赤ちゃんに向かってそう話すイオの目は潤んでいて、その様にコーラとルートは、彼女が亡くした卵を思い浮かべた。
「うん、お願いね。あと、イオ、もう一つお願いがあるんだけど」
「何ですか?」
「僕をリィのところへ連れて行ってほしいんだ」
途端、コーラが眉を寄せてルートを見た。
「ルート、さっきも話したけれど、ウィンリィさんは――」
「コーラ、僕は、母も叔母も、妻も、なす術なく失ったんだ。そんな僕に残ったのは、たった一人の身内と、三人の息子達だった。戦地で一人でも多くの命を奪えば、彼らを守るためになると信じて、たくさんのflowersを葬ったよ。でも、今僕が一番守りたいのは、リィなんだ」
ルートの真剣な黒曜石の瞳に、コーラは息を呑み、閉口した。
「絶対に失いたくない。だから行かせて、お願い」
コーラは思い出す。自分を育てたウィンリィがサムと自分を置いて行った時のことを。
(あの時、私とサムはウィンリィさんに守られる立場だった。だから置いていかれたし、だからこそ、今、生き延びることが出来ている。でも――)
次に浮かんだのは、今、共に旅をする14歳のウィンリィの姿。
(14歳のウィンリィなら、今の私たちに守ることができるのではないだろうか?……このルートさんのように)
「ルート、本当にどこも傷まないのかしら? あと、魔力容器は? ヒビが入っていたと聞いたけれど?」
「傷まないし、魔力容器はサムが治した上に、結界で補強してくれているから大丈夫だよ。それにさ、夫の魔法がどれだけ優れているのかは妻である君が一番理解しているんじゃない?」
いつものルートらしい軽口にコーラは声を出さずに苦笑してしまう。
更にダメ押しとばかりにイオも口を開いた。
「ルアは今、落ち着いているので、ウィンリィもサムもアプリも身の危険は全くありませんが、ルートが言うことを聞くはずもありませんね。私も出来ればこの子たちをルアに見せたいですし、とっとと向かいましょう。いいですか? コーラ」
「もう、仕方ないわね。ただし、ルート、くれぐれも魔法は使わないこと。もし戦闘が必要になったら、すぐに離脱すること、いいかしら?」
「あはは、お母さんみたいだね。いや、お母さんだったか。分かった、言う通りにするよ、コーラ」
そうして、ルートを連れていくことにしたイオだったが、竜の赤ちゃんの世話まで病み上がりの彼に任せるわけにはいかないと、結局、赤ちゃんの世話要員としてコーラも共に行くことになった。
「コーラ、竜の子のご飯は、この、竜のトルマリンだけです。もし泣いたら口に入れてあげて下さい」
竜のトルマリンとは、魔力を使って大地を浄化する竜が出す鉱石状の排泄物のことである。
イオが大きなザックから色とりどりのトルマリンをベッドの上に出していくと、赤ちゃん竜たちがソレを口に含み、美味しそうにカラコロと舐める音をたて始めた。
そして、コーラはベッドに残ったトルマリンを、自分の広いとは言えないアイテムボックスへとしまっていく。
「フィルに渡そうと思って持って来たものがあって良かったですよ。まあ、無ければ出せば済むことですがね」
綺麗な宝石にしか見えないトルマリン(ソレ)を目の前に、コーラとルートは、「竜って、親の糞便を食べて成長するんだ……」と遠くを見た。
「まあ、うさぎも親のうんちを食べたりするもんね……」
「言わないで、ルート」
うさぎ獣人である娘の顔が頭を過ぎってしまい、コーラはルートの言葉を聞かなかったことにした。
「ちなみに、普通のトルマリンでは、免疫は得られませんので、出来る限り、竜から排泄されたトルマリンを与えます。まあ、こんな機会が今後あるとは思いませんけどね。では、ルート」
「うん」
「行きましょう。飛ばしますので振り落とされないで下さいよ」
「それは望むところだよ。頼むねイオ」
そうしてイオは竜へ姿を変え、ルートと、赤ちゃん竜を抱くコーラを背に乗せて飛び立った。
「面白かった!」
「続きが気になる、読みたい!」
「今後どうなるの!!」
と思ったら
下にある⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎から、作品への応援お願い致しますm(_ _)m
面白かったら星5つ、つまらなかったら星1つ、正直に感じた気持ちでもちろん大丈夫です!
ブックマークもいただけると本当に嬉しいです。
何卒よろしくお願いいたしますm(_ _)m




