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勇者の贖罪  作者: 虚無人
2章 『ロード村』
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28.『共犯者』

ミレイル・レルゼン

彼女は、『英雄』と『大悪党』を産んだ母親だ。

女手一つで2人の息子と1人の養子を育ててきた。

真っ当な人間になるように、彼女は誠心誠意子供と向き合いちゃんと母親をしていた。


「私は、何を間違ったの?」


夜中になると、月を見つめていつもそう呟いてしまっていた。


――――――――――――――――――――――


「ミレイル・レルゼンって、知ってる?」


「――――」


騎士と名乗る男は、ダールにニヤケヅラでそう問うてきた。

間違いなく聞き覚えのあるその名に、ダールは眉をピクリと動かす。


「んー、顔に出たね。知ってるか知ってるか。詳しく聞こうか?」


「...別に隠すつもりもハナから無かったよ、知ってるけど何だよ。ルイの母親だろ?」


「そうさ、母親だ、レルゼン家のな。そんで、俺達はセリシア騎士団。」


「...」


「もう、分かるだろ?」


その言葉の真意、それをダール自身も理解していた。

"レルゼン家"というのが世界からどう見られているのかを。


『英雄』ロイ・レルゼンが生まれた家と捉えるか

『大悪党』ルイ・レルゼンが生まれた家と捉えるか


人々はどうしても、負の感情が先に出てしまうものだ。ロード村がレルゼン家をどう見てようと、世論の見方は変わらない。


「俺は今日、レルゼン家を根絶やしにしたいと思っている、それが世界が望む結末だと分かっているからな。」


「どうかな、『英雄』を産んだ女神として、ミレイルを敬う声もあると聞くが?」


「都合の良い耳は捨てろ、んなもん少数派だし、危険因子だという見解は捨てられない。例え、『英雄』が生まれていたとしてもだ。『大悪党』の方の被害規模がデカすぎる。」


騎士の、言っている事は妄言でもなんでもない事実だ。田舎のロード村でも、レルゼン家がよく思われていないという噂は何度も耳にしていた。

世界は『英雄』は"ロイ・レルゼン"単体の話だと考え、"レルゼン家"に関してはそれとは別の話だと考えていた。


『大悪党』とは関係がある、なんてふざけるなと言いたいが、これが世論だった。


「コイツを見ろ。」


「――っ!」


そう言い、騎士は後ろの馬車の荷台から何かを放り投げてダールに見せつけた。


「―――」


血生臭い香りを彷彿とさせ、顔色が肌色から変形し青白くなりつつある、少女。

縄でグルグル巻き状態になっており、完全に身動きが取れない状況にある。

その少女を、ダールはよく知っていた。


「――な」


動かなくなったジュエリー・レルゼンが土に放り投げ出され、ダールは言葉を失ったのだ。


「実際レルゼン家をぶっ潰すのにはリスクもあってな、『英雄』ロイの目、ミレイルを女神だとか敬う少数のイカれ信者、そして、『大悪党』ルイがどう動くか検討が付かなくて、国としてもどうしていいか分からない案件だった。」


「―――」


「だが、フェイの奴が勝手に独断でこんなことしちまったんだ。ならもういっそ、レルゼン家滅ぼしちまおうと思ってな。」


騎士は続けて言葉を放つ。ひょうひょうと、あたかも何もおかしかなことは言ってないと言わんばかりの口調で。


「レルゼン家の殲滅が国にどう見られようと、どうとでも言い訳出来る。"手柄"なら俺が、"失態"としてならフェイに、俺の口話術で言葉巧みに――」


「....ろす。」


「ん?」


聞き間違い、では無い。

少年は血相を変える事なく、否、通り越している。

人間の怒りの感情のパラメーターが一瞬で限界値を迎え、通り越してしまったのだ。

そして、少年は剣を握りしめながら、ゆっくりと近付く。


通り越した怒りの感情に、最大の殺意を乗せて、少年は歩む。


「....ぶっっころっす...!!!」


「...はは、やっぱり、テメェ、レルゼン家擁護派だったか。」


違和感は最初の会話であった。

どうして、先程までルイと行動を共にしていたのか、そこに引っかかりはあった。

だが、すんなりとルイの居場所を教えた辺り、仲間とは言いきれないのかもしれないとも思った。

だが、確信した。ジュエリーの姿を見せた途端、豹変した。


「テメェも悪魔の"共犯者"ってことで、処罰対象だっ!いったれ、テメェらぁ!」


「ぁ?」


近付くダールに、一斉に襲いかかるはセリシア騎士団の援軍達。


「少年、すまない。」

「こんなことより、早くフェイ殿を見つけないとなのにっ!」


「はははっ!騎士に歯向かうか!?共犯者!!!」


その、騎士の発言によって、


ピキっと、ダールの中で何かが壊れた。


「ふざっけんなぁ!!!!俺は、ルイ・レルゼンの、『大悪党』の仲間じゃないっ!アイツの"何か"じゃない!俺はただの、ジュエリーの幼馴染、ダール・シルドだぁ!」


十数人の騎士に囲まれた少年は、力を解放し、

かつて勇者を夢見た少年の覚醒が始まる。


――――――


「...さてさて、どうしたものか。」


ニックス・ドルトムントは悩んでいた。

フェイ・ハイル捕獲作戦のハズが、何故か『新魔会』がやって来て、何故かルイ・レルゼンがそれを止めて、一般人のニックスには出る幕が無いと見切り、早々に逃げてきた所なのだが、


「結界が崩れないんじゃ逃げられないよなぁ。」


ロード村の中心から見やる黒い結界は、依然として村人達を逃がさないように閉じられている。

あれをこじ開けない限り、死の危険は健在という訳だ。


「...村長、どうしやすか?」


「...っぐ、っうぁ、、」


「おい、ニックスあんまり喋らせるな、村長は限界だ。」


「いやいや、知らないですよ、つーか意味わかんないんですけど、何で、こんな重症おってんすか?村長。」


噴水広場において、ニックスはその目でしかと見た。

全身に切り傷が刻まれ、今にも死にそうな村長が倒れている姿を。

ネファがタイミング良く駆けつけてくれたお陰で、何とか一命を取り留める応急処置は出来たものの、


「コッチはフェイを見つけて色々やってたら、『新魔会』が現れて、命からがら逃げ出して、ようやく見つけた希望の光、村長がこんなザマ。もう終わりですよ、この村。」


「おいっ!ニックス!」


「あんま大きい声出すと、起きちゃいますよ?ミレイルさん。」


「っ!」


正論を言われ、ネファは咄嗟に背中に抱えるミレイルの存在に気を配る。

今も尚、ショックで寝込む彼女に、ロード村のこの悲惨な現状を見せたくない。


「...とにかく、村長が回復するまで、結界については考えるな、大丈夫だ、もう時期きっと助けが来る。」


「...助けなんて誰がどこから来るんすか、つーか、村長は何でこんな大怪我を――」


「分からない!」


「ぉ」


ネファの声に、思わずたじろぐニックス。

大男の大声というのは迫力のあるもので、男でも怖気付くものがある。


「分からないんだ...分からないが、俺も、目の前にいた...だが、村長がいきなり斬られた。村人から...村人、だと思うやつから、いきなり斬られて、それで、」


「...なんなんだよ、『新魔会』、『ルイ・レルゼン』、だけじゃないのかよ、この村にいる悪意は...」


その憶測が正しければ、ロード村はもう無理だ。

対抗出来る戦力が残っていない。

敵が何なのかもよく分かっていない。

解決方法が何一つ分かっていない。


「手詰まりだ」


それが、ニックスの導き出した結論だった。


手詰まり




そう、


「手詰まりだよ、おつかれさまでした。」


「――っ!?」

「――っがあ!」

「――っ!おま、だれ」


2人の背中と1人の腹に一斉に切り傷が刻まれ――


――――――


硬い




痛い


何か


強い衝撃が




当たって

私は


どうして



こんなに


痛い











そうだ






夕飯の準備しなきゃ










待っててね




ロイ




ルイ








ジュエリー








作るからね








作る







「え」


ミレイル・レルゼンは、夢の世界から一気に現実の世界へと引き剥がされた。

何か、強い衝撃によって。


「な、にを...っう!」


「あんまし動くな、そこの大男がアンタを落としたから頭打っちまってたんだよ。」


「...ぇ?」


気が付くと、そこは噴水広場の場所だった。

男の言葉に、ミレイルは大混乱の様子。


「あの....え?あの、えっと.........ぁ、あぁ?」


下を見ると、背中を大きく抉り取られた村長とニックスの姿、腹をかっさばかれたネファの姿が転がっていた。


「あぁ」


「安心しろ、ミレイル。」


「.....あ?」


男の声に、ミレイルは震えながら反応する。

辛うじて保っている正気で、男を見る。


「俺は、お前の、お前らレルゼン家の味方だ。」


男――イニー・トレイラスは、真剣な眼差しで、ミレイルにそう言い放つ。

血塗られた剣と、赤に染まる黒いマントを羽織りながら、イニーはミレイルにそう言ったのだ。


「....イニー?」


「ミレイル」


イニーは右手をミレイルへ差し出し、再び言い放つ。


「俺は、皆を、この村を救いたい。協力してくれ。」


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