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悪役令嬢と言われましたけど、大人しく断罪されるわけないでしょう? ~番外編~  作者: 山咲莉亜


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あなたに恋をしたこと、俺は一度も後悔していない

 ────淑やかに閉じていた蕾が、ふわりと大輪の花を咲かせるような。どんな花や宝石にも負けない、美しい笑顔を浮かべるあなたに恋をした。


 第一印象は『年齢の割に随分と冷めた顔をする少女』だった。双子の兄の婚約者として紹介され、柔らかな笑みを浮かべる彼女は、それでも『冷めている』ように見えた。良くも悪くも人形のようだ、と。

 その印象が変わったのは、初対面から一年ほどが経過した頃だろうか。


 その日は俺と兄上、そしてカティア様の三人でお茶会をしていた。レモーネ公爵家自慢の庭園でだ。いつものように俺達と談笑していたカティア様は、一呼吸置くように美しい装飾が施されたカップを傾ける。その時だった。

 彼女はカップの中身を口にした途端、驚いたように目を丸くする。やがて、ふわりと見たことのない笑みを浮かべたのだ。

 控えめで、それでいてどんな花や宝石にも負けないくらいに華やかだった。恐らくあの方が心からの笑みを見せたのはあれが初めてだったと思う。


『私が。……とても紅茶を好んでいると、ご存知だったのですか? これはアーリスティン大帝国でしか取れない、貴重な茶葉だと思うのですが』


 そう言って首を傾げる彼女だったが、俺も兄上も先刻の笑顔に衝撃を受けていたため、少し反応が遅れた。

 カティア様は怪訝な顔をしていたが、彼女の笑顔を見た途端に恋に落ちたのだ。それは恐らく兄上も同じ。双子というのはこんなところまで似るのか、などとどこか現実逃避のように思いながら、何とか誤魔化した記憶がある。


 時は流れ、俺は交換留学でメイスフィールド帝国へ向かった。代わりに故国へやってきたのは、ひどく整った顔立ちでありながらも『氷の皇太子』と呼ばれていた男。たしかに交換留学が始まる際、初めて会話をした時はその二つ名にも頷ける雰囲気を持っていた。

 次にお会いしたのは交換留学が始まって最初の長期休暇だ。しかしその時にはすでに初対面の時とは比べ物にならないほど、物腰穏やかになっていた。


『──一体何があったのですか?』


 思わずそんな風に問うてしまった俺に冷たい視線を向けることなく、無視することもなく、むしろ何かを思い出すように楽しそうに笑うのだから、空いた口が塞がらなかったのは言うまでもない。


『……いや。好ましい女性を見付けただけだ。人は恋をすると変わると言うだろう』

『恋、ですか』

『ああ。もしかすると、貴殿が知っている女性かもしれないな』


 その言葉に含まれた意味が『牽制』だと気付いた時には、もうとっくに手遅れだった。それからと言うもの、俺は殿下にお会いする度に『想い人』の話を聞くことになる。きっと俺を宿敵だとは認識したくなったのだろう。


 ……そう、俺は諦めた。アルバート皇太子殿下とお話しする度、殿下とカティア様が笑い合う姿を見る度に、彼女の隣に立つべき人物を再認識させられた。


 兄上はダメだ。昔とは違い、婚約者たるカティア様を大切にしなくなった。

 言うまでもなく、俺もダメだ。あの方が一番辛い時に傍でお守りできなかったのだから。それに、俺と婚約してしまえばまたレモーネの公爵夫妻……つまり、俺の両親に苦労させられることだろう。


 アルバート殿下はカティア様に相応しい。身分も性格も、何においても非の打ち所がなく、何よりもカティア様を心の底から愛しておられる。

 俺はたった一人の味方にもなって差し上げられなかった。大切だったのに。愛していたのに。

 それならせめて、この恋心に見切りをつけてお二人のお力になれるよう、陰ながら尽力するに限る。お二人が幸せであるためならいくらでも手を貸そう。だからどうか────


「ご結婚おめでとうございます。アルバート皇太子殿下、カティア皇太子妃殿下。お二人の晴れ姿をこの目で見ることができ、とても……とても、嬉しく思います」


 カティア様が例の婚約破棄事件を完全に終わらせるため、一日だけ王国に戻ってきた日。俺は別れ際、とあるお願いをした。それは『アルバート皇太子殿下とカティア皇女殿下の婚儀に参列させていただきたい』というもの。そのようなお願いができる立場ではないのは分かっていた。それでも、一生に一度しかないその瞬間を俺も傍で見届けたかった。


 その無礼な願いを、カティア様は快く了承してくれたのだ。


 どうか────もう一度でもいい、心からの笑顔を見せてほしい。俺が心の底から愛した、たったひとりの女性。そのきっかけとなった笑顔をもう一度見て……そして、幸せになる姿を見届けたい。


 思えば、最初から叶うことなどない恋だった。それでも彼女を愛したことを後悔したことなど、ただの一度もないと断言する。


「お二人とも……どうか、末永くお幸せに」


 俺の言葉に顔を見合わせた二人は、俺の願いを叶えるかのように、満面の笑みを見せてくださった。

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