悪役姫はザンバラれる。
ミリアリアが真っ先に向かったのは、城正面。
「ついに来てしまいましたわね。懐かしき我が家ですわ」
ミリアリアはたった一人でここにいた。
全身から精霊力が、闘志と共に吹き荒れる。
やるからには正面から堂々と、目立てば目立つほどいいというのは中々に爽快だった。
「さぁよほど鈍感でもない限りは気づくはずですわよね? 主の帰還ですわ!」
ドヨドヨと兵士たちの動揺が伝わって来た。
緊張と殺気の入り混じる心地よい視線がミリアリアに雨のように降り注ぐ。
しかしミリアリアはひるまない。
恐れる理由もなく、黒いカーペットを展開して、ミリアリアはショーさながらに歩き出す。
兵士の数は中々。
集まるまでも迅速だった。
練度はまずまずといったところか。
槍衾の完成までに射程に入ってしまったところはミリアリア不満である。
十ほどの鉄球を空中に浮かべて、ミリアリアは獰猛な笑みを浮かべた。
だが、もう少しでいうタイミングで槍衾は左右に割れたのだ。
「なんですの?」
何事かとミリアリアが目を細めると、兵士の割れた道から赤毛の青年が歩いてくるのが見えた。
「主の帰還とは……ずいぶんなことを言うもんだ。それを捨てたのはあんた自身だろう?」
「赤毛の美形?……ひょとしてアーサー様?」
「そうだが?」
「なんということでしょう……普通ですわ」
「なんだと?」
アーサーはちょっと不満そうだったけれど、ミリアリアは心の中で拳を握り締めた。
アーサー。「光姫のコンチェルトに」おいて第二のヒーロー登場にミリアリアの中の人たちも騒ぎだす。
そしてなによりこの態度……実にいい。つい変な笑いが込み上げてきたがそこはぐっと堪えて、ミリアリアは仕切り直した。
「コホン……お久しぶりですわアーサー様。ずいぶんダイエット成功されましたわね」
「なんのことだ? 訳の分からないことを言って煙に巻こうとしても無駄だぞ?」
「まぁ。世間話みたいなものですわ。この顔を、この力を……忘れてないと言うのなら道を開けろと言っているのですわ。さもなければどうなるか……貴方達はもう知っているでしょう?」
「……っ」
効いてる、効いてる。 幼少期に圧倒したのは無駄ではなかったということか。
しかしそこはヒーローだ、一歩も引かずに武器に手を掛けたのは立派なものだ。
「俺はお前をライラのところへ連れて行くために来た」
「へぇ。なら、案内なさいな。わたくしもあの子に用があるんですわ」
「だが……今のままお前を連れて行くわけにはいかないな」
「どういうことですの?」
「危険だってんだ。とてもじゃないがそのままアイツの前には出せねぇ。……無力化させてもらう!」
アーサーの構えた剣に炎が走る。
炎の精霊の勢いは、その術の強力さを如実に語っていた。
「行くぞ!」
アーサーの動きは、以前に比べて見違えた。
力強さはそのままに、動きが鋭い。
なるほどうまく絞ったものだとミリアリアは感心した。
そして何より当然ながら手加減はなく、ためらいがない。
「……」
ミリアリアは扇を構え、ひとまず様子を見ながらかわすが、アーサーの一撃は予想を上回っていた。
斬撃が飛ぶ。
直線状に地面に刻まれた深い切れ込みは、その威力を物語る。
「へぇ」
このひたむきさが、愛のなせる技だとしたら賞賛に値する。
ひらひらと猛攻をかわすミリアリアは思わず笑みを浮かべた。
「いいじゃありませんの。中々の動きですわね」
「! ま、まだこんなもんじゃねえぞ!」
あ、若干嬉しそうだ。
アーサーの気合の踏み込みは、刹那の間にミリアリアとの距離をゼロにする。
繰り出される剣閃は7つ。それはミリアリアにもなじみ深い、モンスターを屠る神速の七連撃だ。
「フレアザンバー!」
「!」
至近距離で初めて見たフレアザンバーにミリアリアは息を飲んだ。