悪役姫はドロップキックを叩き込む。
ハミング王国に戻ること自体はそう難しいことではない。
自慢のゴールデンなライオン。レオンの全速力で真っすぐ目指せばすぐに着ける。
いや、戻るどころか少し学園に立ち寄って原作の状況を確認するくらい朝飯前だとミリアリアは簡単に考えていた。
これでも元第一王女だ。最後はドタバタしたがそれまではかなり頑張って王女様をやっていたという自負もある。
そう悪いことにはならないだろうなと軽く考えていたミリアリアは今馬車の上で唸っていた。
「うーむ……マジヤバですわ。どうしてこんなことに?」
「というか半ば予想できたことですよね?」
「うん。我もそう思う」
「……ちょっと前から思っているんですけれど、二人とも妙に息が合いすぎじゃありません? 実際継承権を無くした元第一王女って大したことありませんわよ? まさか。王都にすら入れないなんてことあります?」
馬車を取り囲むのは完全武装の騎士達。
彼らはちょっと異常とも言える目つきでミリアリア一行を睨み、武器を向けて来た。
やっぱりあれか? 闇の精霊神に乗っ取られた説が印象悪すぎたか? それとも、ことあるごとに騎士達を蹴散らしてしまったのが、未だに尾を引いているのか?
「どっちも怪しいですわよね……。ねぇ、これぶっ飛ばしていいと思います?」
「ダメですよ?」
「いや、こうなった以上交戦は自体は仕方がないのではないか? どうにかして無力化し、いったん離脱した方が良いのでは?」
「あら? 意見が割れましたわ」
ミリアリアとて問答無用で彼らをぶっ飛ばすことに抵抗がないわけではない。
どうしようかと頭を悩ませていると、騎士達の一人が車体越しに話しかけて来た。
「……大人しくしていただきましょう、ミリアリア様……抵抗しなければ悪いようには致しません」
「嫌ですわ。なんでこんなところにいるのかは知りませんが。責任者を呼びなさい」
兵士達を声でけん制すると怯んだ空気が伝わって来る。
まぁこうなってしまったからには仕方がない。
ミリアリアは車から術で黒い絨毯を用意して、外に出た。
こっそりという目論見はいきなり破綻してしまったが、これは同時にチャンスでもある。
「喜びなさい二人とも、手間が省けるかもしれませんわ」
「ミリアリア様?」
「何がだ?」
ミリアリアは覚悟を決めて騎士達を見回すと、そこには完全武装の騎士達がざっと10人ほどいた。
フルフェイスの兜で顔が見えないが、馬車を取り囲むのは間違いなくハミング王国の騎士の鎧を着た者達だ。
そしてその中にはこちらと同じように馬車に乗っている誰かがいる。
その誰かはこちらが出てくるのを確認したのか、馬車の中から降りてくるところだった。
ローブを深くかぶった人物だが、精霊術師がよく使うローブの中でも仕立てがいいものを着ている。
腕の立つ精霊術師かとミリアリアは目を細め警戒した。
ひとまず近くの騎士にミリアリアは声をかけた。
「ごきげんよう。まさかこんな歓迎を受けるとは思いませんでしたわ」
「いや、こんな目立つ馬車でくればすぐにこうなると思うのですが?」
「わたくしに、遠慮して徒歩で来いと? さらさらごめんですわ!」
「そ、そうですか」
さてどうか?
ミリアリアは接近してきたローブ野郎の顔を確認した。
なるほど整った顔立ちの男のようだが問題は―――。
ミリアリアはそれを見た瞬間、カッと目を見開き走り出した。
「これはこれは元おうじょ―――」
「最悪ですわ!」
両足で踏切り、一切の勢いを殺すことなく両足がローブの男の顔面に突き刺さる。
ダッシュと体重と重すぎる嘆きを乗せた渾身のパターダ・ボラドーラ……つまるところドロップキックである。
マイヤーは放物線を描かずにまっすぐ飛んでいった。
唐突な展開に時が止まる。
ドサリと男が地面に落ちた音で兵士たちが一斉にざわめいた。
「貴様!」
「マイヤー様になにを!」
「一体何でいきなり攻撃したんですか!」
「我慢の限界が唐突に来たのか!? いくら何でも堪えしょうがなさ過ぎるぞ!」
後半はメアリーとダークの叫びである。
「これこれ仲間達。ちょっとくらいわたくしの味方をなさい。……これがマイヤーだと言うなら事態は最悪だと今確定したんですから」
しかし、一目見ればわかることにこれ以上手間取る気になれない。
ミリアリアは手で目を覆い、気絶したマイヤーを指さした。
「「ホントにクマがある!!」」
「「「「「だからなんなんだ!!!!」」」」
仲間達と騎士の反応は真っ二つだったけれど、そこにはビックリするほど青白い顔に乗っかる、きつめのクマが黒々と乗っかっていた。




