悪役姫精霊宮を脱出する
さて試練を突破してめでたしめでたしで終わるかに思われたが、精霊王様は優しくなかった。
『じゃあ、試しにそこから元の場所に出てみよっか?』
そんな言葉で始まった迷宮逆攻略。
「ほっほー……そう来ましたか。そっちがその気ならこっちにも考えがありますわ」
最短最速。なにがあっても真っすぐ好き進む。
そこには恐ろしい見たことも聞いたこともない化け物が跋扈していた。
だが何があろうが上までまっすぐである。
中々骨が折れたが……ミリアリアは無事生還した。
それでも3日もかかったが。
ドッカンと派手な爆発から、せき込むミリアリアは地上へと顔を出した。
「ホント―にやられましたわ……おや? ようやく見覚えのある空間に」
なんだかずいぶん久しぶりな気がする。
最初に精霊王様とお茶したテラスには、ガッツリと野営中のメアリーとダークがミリアリアにギョッとした視線を向けていた。
「み、みりありあさまぁあああああ!」
ぶわっと涙腺を一瞬で決壊させたメアリーにミリアリアはぎょっとした。
「心配かけましたわねメアリー。でもちょっとオーバーじゃありません?」
「何言ってるんですか! 一か月以上も行方不明だったんですよ!」
「はぁ!?」
流石に驚いてミリアリアは周囲を見回した。
確かになんだか薄汚れているし、野営の拠点もかなりの期間そこにいたことが分かるものだった。
「一か月? わたくしの感覚では……3日なんですけど?」
ミリアリアはバチッと殺気混じりの視線を飛ばす。
その先にいるのは今のミリアリアにはわかっていた。
「うっ! いやははは。どうやら効果あったようで何よりだ」
姿を現す精霊王様に、ミリアリアはニッコリ微笑んで、ドレスをつまんで優雅に頭を下げた。
「おかげさまでより力の使い方が洗練された気がしますわ。でも……色々と聞いていませんわよ?」
「ここは少し時間の流れ方が特殊なんだ。でも大丈夫。君の言う原作には間に合うはずだろう?」
「……乙女の時間は金よりも重くてよ?」
「それは……申し訳ない」
時間の感覚をもう少し人間に合わせてから出直してほしい。
ミリアリアはハァとため息を吐いて、仕方がないかと開き直った。
「でも許してあげますわ。確かに精霊王様の特訓は効果があったようですし」
だがそう言うと肝心の味方からギョッとした視線が向けられてしまった。
「それは……ますます強くなったと? どんな状態なんですか?」
「触って大丈夫か? 爆発するんじゃないのか? 想像がつかん……もう人間ではなくなってしまったんだな。ミリアリアは」
メアリーとダークが一か月前よりもコメントが冷たい気がする。いや元々こんなもんだったかしら?
「そんなことはありません。しっかりばっちり人間ですわ。気をしっかり持ちなさいな」
大丈夫、まだ人間よりのはずだ。
なんとなくステータスを見るのが怖くはあるが、そこは断言しておきたいミリアリアだった。