悪役姫は黒くなる。
「なるほど……でもこれは確かに」
「……」
ミリアリアは、その姿を無遠慮にじろじろと眺めた。
相手が自分だと言うのならかまうまい。
しかし見た目は驚くべき完成度だが、中身まで完璧ともなると厄介なことになる。
もしそうだとすれば、これは鍛えていればいるほど苦労する試練に違いない。
目の前の相手を倒すには限界をここからさらに越えなければならないという、いわゆるお決まりの修行ということだろう。
しかしミリアリアの場合、越えなければならないのは、割と人類の限界に近かった。
「こいつは……未だかつてない試練になりそうですわね」
ミリアリアはビシビシ感じる恐ろしいレベルの精霊力に身震いした。
現れた2pカラーミリアリアは、いったん黒ミリアリアとでも呼ぶとしよう。
黒ミリアリアはおもむろに扇を掲げ、すさまじい精霊力を集中させて、振り下ろしてきた。
まずは小手調べか。
ミリアリアも同じく扇を構えて、同じ動きで技を放つと、黒い火花が咲き乱れる。
「!」
扇技「花吹雪」はトリッキーな斬撃を放つミリアリアが初めて覚えた技だった。
花びらのようにも見える閃きが、空中でぶつかり合い、衝撃波が吹き荒れる。
衝突するたびに周囲に破壊跡が生まれた。
「……」
「……」
単純なだけに実力が出やすいだろうと思ったが―――その結果は相殺だった。
ミリアリアは軽くため息を吐き、そして思った。
「こりゃやべぇですわ」
まったく互角ということは本気でパラメーターがカンストしているということだろう。
いや……最強とは言われても、上限まで鍛えたらこういうのは割とあっさり勝てるようになるものではないのかと。
ミリアリアはぐっと文句を喉の奥に飲み込んだ。
「ただ敵をさっくり倒してイベント消化とはいかないですわよね」
「コォ……」
黒ミリアリアの漏らす呼吸に合わせてミリアリアは動いた。
目で捉えることも難しい世界で同時に動けば、攻防も一瞬だ。
ガガガンと一呼吸の間に三度打ち合う。
手ごたえが尋常ではなく、ミリアリアは腕が衝撃でしびれるなんて久しぶりだ。
容姿とは裏腹に全然かわいくないパワーに、ミリアリアは思わず口の端が楽しさで歪むのを感じた。
「こいつは手こずりそうですわね……客観的に見ると……化け物のそれですわ。いえそんなことはなかったですわ」
うっかり自分のことを化け物とか言ってしまった。そんなことはない。
ミリアリアはいろんな意味で自分を見つめなおすことになりそうだと背中に冷汗が流れた。
しばらくじっとにらみ合う。
次飛び出したら、とりあえず全力で右ストレートでぶっ飛ばそうと考えていると、黒ミリアリアは突然話しかけて来た。
「こんにちは。もう一人のわたくし……まったく、やってくれたものですわね」
「……しゃべれますの!!」
驚愕するミリアリアに、黒ミリアリアはニタリと悪役っぽい笑みを浮かべていた。