悪役姫は向かい合う。
「まぁ過去がどうとか、そう言うのは気にしない質なだけです。大変だったのねダークも、ドンマイですわ」
「……軽すぎじゃない?」
人の感想にケチをつける精霊王様だが、そんなもの拘っても仕方がないとミリアリアは鼻を鳴らした。
「過去を引きずりすぎると、女が腐りますわ。最終的にギロチンとかにかけられますわよ?」
「いやそうはならないと思うけど」
「これが不思議となるんですわ」
「そうかなぁ」
そう、ちょっと気を抜いたら、もしくは気合を入れすぎるとなるんです。
ミリアリアの肝に銘じているところだった。
まぁミリアリアの事情はともかく、他人の事情を気にしすぎても仕方がないと思うのは本気で、語りたければダーク自身が語れと、直接本人から聞き出すのみだ。
そこに第三者なんて挟んだら、隠しているダークが馬鹿を見ると言う話だった。
「とにかく。過去にこだわらず、未来に生きるのが信条ですわ。振り返るのは後の歴史家にでも任せておけばよいのです」
サッパリ薄味で答えるミリアリアに。精霊王様はため息を吐いていた。
「無駄に壮大だなぁ……まぁ君自身もよくわからない人だから、過去に拘りたくないのもわかるけれども」
「よくわからないもの認定はやめていただけます? わたくしにそんな隠したい過去とかありませんわよ? 単に変えようがないことをとやかく言い出したら際限がないと思うだけですわ」
「そうだけど。重要なことではあるんだよ。単なる足跡と切って捨てるには君達を形作る原型だ」
思えば元祖ミリアリアは過去にこだわるあまり、そして決められた未来に執着しすぎるあまり破滅した、そういう女だった。
しかし今のミリアリアには積み重ねた分厚い余裕がある。
であればいざという時、相棒の負債程度軽く流せるはずだ。
しかしどうにも精霊王様は心配性らしい。
ミリアリアは仕方がないなぁと、目を細めた。
「ふむ……それでは、ダークの過去をわたくしに知らせて精霊王様は何をしてほしいのかしら?」
あえて尋ねる。
すると精霊王様はなんだか出鼻をくじかれたとぼやきつつ、白い霧に干渉した。
「いや……単なる前振りだよ。今の君を形作る物。それはかつての魔王に近しいものがある」
「それはあまり嬉しくないですわね」
せっかく憑りつかれないで脱出してきたんだから、そう言うのやめてもらいたい。
聞いている限りそんなに共通点もないと思うのだが?
ミリアリアが不機嫌に眉を寄せると、精霊王様は言った。
「外か内かの違いは……あるが、多くの感情、思念の中心に君はいるように僕には見える。僕に言わせれば人間とは思えない。むしろ意志を持つまでに成長した精霊―――僕やダークに近しいものを感じるんだ」
「ほほう。それはわたくしが精霊のように美しいと?」
「美しいとも。驚くほどに」
「……普通に返されると照れますわね」
場を和ませるギャグのつもりだったのだが。
照れるミリアリアに精霊王様が何か不穏なことをしようとしているのをミリアリアは感じた。
「でもとても危ういかな。気を抜いて、目を離したら大きな海に溶けて混ざってしまうんじゃないかと不安になる。いいかい? 忘れないようによく聞いて? 君が君であり続けるためにも君は自分を見つめ直す必要がある」
「えーっと……ファンとの距離感は大事ですわよね?」
「ちゃんと伝わってる? いやまあいいさ。結局は自分で掴むしかないことだ。じゃあ―――そろそろ本番を始めよう」
精霊王様の気配が遠退き、霧がようやく晴れてゆく。
そして元に戻った部屋には明らかな変化があった。
「これは?」
ミリアリアは広げた扇の裏でふむと唸る。
部屋の中心で、黒い靄が噴水のように噴き出していた。
アレは闇属性の精霊だろうか?
黒い靄はだんだんと人の形に姿を変えミリアリアの前にやって来る。
ミリアリアは息を飲んだ。
なんでって?
そう、輪郭を露わにした黒いモノは超絶可愛い美少女の姿をしていたからだ。
はっきり言ってこんなにかわいい人間見たことない。いや……よく見ていると言うべきか。
「ああ! 絶世の美少女が現れたと思ったらわたくしでしたわ!」
「……」
「……何か言ってくださいまし?」
ミリアリアは非難の声を上げる。
もっとも相手の肌はミリアリアよりもこんがり小麦色だったが、ドリルといい目鼻立ちといい、姿を現した美少女はまさにミリアリアに鏡映しと言ってよかった。




