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悪役姫はそこに至る。

 ミリアリアは興奮していたが、頭の中だけは妙に冷静だった。


 ダークは脅威だが、ここからはパターンを乱していくのもまた一興。


 ミリアリアは鉄球でダークを取り囲み一斉射。


 弾丸で砕けた石畳が跳ねまわるが、ダークには大したダメージにはならない。


 アクションの出足に銃弾をバラまき、テンポを崩すには十分。


 煩わし気に目を細めるダークだったが、妙に興味深そうでもあった。


「何だこの攻撃は……初めて見るが……」


「わたくしの転移術の応用ですわ! 小さな礫を飛ばしていますの!」


「しかしこの威力……。そのあたりのモンスターなら即死だぞ?」


「手加減出来ないのが難点ですわ! あなたくらいの大物には豆鉄砲みたいなものでしょうけど」


 弾丸は強力だが、一定の防御力を持っている相手には致命傷を与えられない。


 それは当初から変わらない訳だが、ミリアリアとてこの素晴らしい武装の可能性をここで終わらせる気はなかった。


「しかし、威力については解決案を模索中です。お見せしましょうか?」


「ほう……」


 ミリアリアは鉄球を一つ引き寄せて、それを包む様に精霊術を行使する。


 ブラックカーペット応用編、筒状に構成したそれをダークに向けたミリアリアは狙いをつけて、もう一つ別の鉄球を包んだ鉄球と重なるように転移した。


「闇精霊術ダークバレル……まぁ礫をでかくしただけなんですがね?」


 激しい光と同時にそれは飛び出す。


「!」


 ダークはとっさに身をかわすが、かすったオーラは衝撃波で吹き散らされて、背後に抜けた鉄球はダークの座っていた椅子を粉砕した。


 それでも勢いは止まらず、壁に突き刺さった鉄球は見えないほど深く食い込む。


 ミリアリアにしても予想以上の馬鹿げた威力にダークは言葉を失った。


「……おおう。でっかいものを飛ばしてみる作戦は……成功の様ですわね」


「恐ろしいことをするな! なんだ今の威力は! 小さな礫の時と速度が変わっていないじゃないか!」


「そこのところよくわからないんですわよね!」


 しかし、これはなかなか使えそうだとミリアリアは深く頷いた。


 この実験結果は新戦力増強プランに組み込んでいくことにしよう。


 しかし残念なところは、飛ばした鉄球はもう使えそうにないところか。


 せっかく綺麗に飾り付けた鉄球は、バラバラに砕けて鉄くずである。


「砲門が一つ減ってしまうのも考えものですわね。……うう、わたくしのデコ鉄球が」


 長い事浮かべて愛着がある一品だけに心のダメージも大きいが、今は目の前のダークに集中せねばならない。


 油断が過ぎれば一瞬であの世行きである。


 ダークはもはやこちらを侮っている様子はなかった。


 ただ精霊だからかその感情は、なんとなくだがミリアリアに伝わって来た。


「はっは……面白いな!」


「ええ! 最高ですわね!」


「ではこれはどうする!」


 ダークは空に浮かび上がり、縮こまる。


 このタメ動作は広範囲攻撃の合図だと、ミリアリアは一定の距離を取って備えた。


 放射状に地を這う衝撃波が飛んできたのをしっかりと確認し、ミリアリアはタイミングを計って飛んでかわすと、続いて黒い鎌の三連攻撃が襲い掛かる。


「……クソハヤいですわね!」


 鎌の出現はコマを飛ばしたように一瞬で技の継ぎ目は殆どない。


 ただしミリアリアはその行動の間の一瞬に鎌の間合いの更に中に踏み込んだ。


 危険に見えるが、ここが唯一の安全地帯だ。


 首を刎ね飛ばそうとする刃をすり抜けるように通り過ぎ、ミリアリアは扇で一閃する。


「ぐ!」


 ヒットである。


 わずかにのけぞったダークはすぐに回転を始め、黒い力場を作って周囲の物を吸い込み始める。


 この吸い込みに引き寄せられれば小ダメージを受け、一定時間しびれて動けなくなるだろう。


 そこでミリアリアは吸い込みを感じた瞬間、前方に精神を集中し、放った。


「アンク!」


 この状態は精霊術をぶつけることで解除される。


 無敵状態でダメージは通らないから、最弱攻撃で問題ない。


「ぐっ! おおお!」


 続いて解除直後に飛び出す黒い斬撃を、ミリアリアは正面から迎え撃った。


「扇技・闇夜月……」


 闇夜月は闇の精霊力を混ぜ込み、虚空に穴を開ける一撃だ。


 性質上射程の短いその技を、飛び出してきたダークの進行方向に置くように放つ。


 突っ込んでくるモーションのダークはもう止まれない。


 つまり決定的なダメージチャンスである。


「ぬおお!」


「……もらいましたわ!」


 闇夜月にもろに突っ込み、焦ったダークが放つのは即死一歩手前に追い込むダークネスウェーブ。


 ミリアリアはそのわかりやすいモーションの予兆を見逃さない。


 扇を構えて、このチャンスに最強の奥義を繰り出した。


「これで―――終わりです!」


 この技は今までのミリアリアの集大成。


 技と精霊術を極めた果てにひらめいた最後の技だ。


 最強の力と究極の美。


 その二つを追い求めたミリアリアに与えられた技は理想を謳う。


 花のように。


 鳥のように。


 風のように。


 月のように。


 ミリアリアは精神力を扇に集中して技を放つ。


「最終奥義・花鳥風月!」


「!!」


 それはインパクトの瞬間、ダークはもちろんミリアリアごと飲み込んで黒い閃光となった。


 闇が弾けて、唯一立っていたのはミリアリアだけだ。


「ふふふっ……よし! ……勝利! ですわ!」


 ミリアリアは扇で口元を隠す。覆い隠したのは会心の笑みである。


「―――見事だ」


 しかし完全に決まったと思ったミリアリアは息を飲んだ。


 なぜなら倒れたはずのダークがふわりと浮かび上がったからだ。


「今ので倒れませんの? 冗談でしょう?」


 ミリアリアの放った花鳥風月は我ながらえげつないほどに会心の一撃だった。


 ゲーム的には完全に仕留めたダメージ量だろう。


 だと言うのに、ダークのそのわかりづらい表情は、ミリアリアには確かに笑って見えたのだ。


「……素晴らしい。だが、お前は我には勝てない」


「へぇ。……何でですの?」


「簡単なことだ。お前の力の根源が闇であるからだよ」


「なにそれクソゲーですわ」


 まず嘘だろうとミリアリアは考えた。


 だがダークのその言葉通り、崩れたはずのダークの体が急速に元に戻ってゆく。


 こんなことはミリアリアも知らない。


 こんな無茶なイベントは、ミリアリアも全く想定していなかった。


 黙って予定外のイベントを眺めるミリアリアは、その場から動かない。


 だがダークも攻撃しては来なかった。


 むしろミリアリアにかけるダークの声には、いつしか慈しむような響きが宿っていた。


「こんなにも闇に愛された人がいるのは驚いた。しかし闇の精霊神である我には勝てないのだ」


「……」


 ミリアリアは黙り込む。


「我はお前を認めよう。だが……私に勝つことはあきらめろ」


 ダークの放つ闇の力。


 それは確かにあまりにも巨大で、ミリアリアの性質が闇だからこそ隅々まで感じ取れた。


 でもミリアリアはその力を感じた上で、思わず笑みを浮かべていた。


「ええ……あなたが強いことなどわたくし知っていますわ」


「ああ、そうだろうとも」


 確かにこんなやり取りは知らない。だからここからはミリアリア自身の感覚の話になる。


 対峙したダークにミリアリアは感じたままを告げた。


「でもね? そっくりそのままあなたにセリフを返します。あなたではわたくしにはもう勝てませんわよ?」


「―――なに?」


「なぜならば。わたくしは――― 『一人ではない』からですわ」


 そうミリアリアが口にしたとたん、大きな闇が口を開けた。


 ミリアリアと繋がった者達。


 それはここではないどこかでミリアリアを見ている者達。


 彼らの強い念はミリアリアという点に、偶然繋がった。


 繋がった彼らの記憶がミリアリアに流れ込んでいたが、それは副産物である。


 今のミリアリアは流れ込んでいるのは記憶だけではなかったのだと理解していた。


「知っていますか? 精霊術の力の源は念……人の想いの力なのです。本来人一人の力なんてたかが知れていますけど……繋がり束ねればその分増えるのが道理というものですわ」


「お前は何を言って……」


 自覚したことで抑えは外れ、濁流のごとき念がミリアリアに流れ込んで来る。


 悪役のわたくしは嫌われているようですけれど、同時になくてはならないと思われている。


 無関心とは程遠い、複雑で、しかし激しい感情の渦―――これが、語弊を恐れず言えばまさしく愛なのだろう。


 恋愛をテーマにする世界にしてはずいぶん歪んでいるけれど、だからこそミリアリアにはふさわしい。


 そんな強烈な念をミリアリアは初めて自らの力に変える。


「すごいですわね! あぁ……こんなにもどす黒い愛の総念―――今なら闇の底でも飲み込めそうです」


「……!」


 ダークは生まれて初めて恐怖していた。


 精霊神なんて言ってもその正体は、闇の精霊の最も強い自我を持った何かでしかない。


 だがダークは闇の精霊神なんて呼ばれているからこそ、体の芯まで感じ取れる。


 ミリアリアから流れ出る強大過ぎる力を。


 そして同じ性質の力がぶつかれば、より強大な力の前に飲まれて消える他に結末など存在しない。


 ああ、確かにこの少女は一人ではない。


 本当に一人なのは―――。


「さぁ、今度こそ終わりですわ! わたくしに繋がっている彼らの事はこう呼びましょう。ミリアリアちゃんファンクラブ『ディープラバーズ』と!」


「……なんか重そうなネーミングだな!」


 ついツッコんでしまうダークにミリアリアは扇を振り上げる。


 ダークごとすべてを飲み込んだ闇は、神の闇よりもなお暗い無限に続く深淵だった。


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