悪役姫はたどり着く。
テレポートで自室に戻ったミリアリアは満足してお気に入りの椅子に腰を掛けていた。
今のは結構かっこよかったのではないだろうか? と後から自画自賛である。
そして余韻に浸っていたところに、慌てたメアリーが戻ってきた。
「ミリアリア様! 急に転移するのはやめてください!」
「あらメアリー? いいじゃない、姉の威厳を見せつけるためだもの」
「なんでそれで転移が必要なんですか……あ、ひょっとして会ってしまわれましたか? もしかしてやっちゃいましたか?」
メアリーは驚いた風だが、ライラとの邂逅は予定されていた物だったのかどうだったのか。
しかしそのどちらでも、ミリアリアに別段言うことはない。
「大したことはしていませんわ。ちょっくら出会い頭にガツンと姉のすごいところを見せただけです。出来る事ならお姉ちゃんすごい!って言われたい」
ムフフと笑うミリアリアに、なぜかメアリーはぽかんとした後涙目になった。
「寛容に……なられたんですね姫様……メアリーは不覚にも感動してしまいました」
「え? 今の話に感動するところありましたか?」
メアリーの反応は変だと思うが、本当にこのタイミングでライラに会えてよかったとミリアリアは思っていた。
ライラを見て、確かにミリアリアは彼女が好きだと感じた。
だが―――それだけだったのだ。
その夜、ミリアリアはダンジョンをいつも以上の勢いで進む。
時間をかけてゆっくりとミリアリアはここまで進んで来た。
そしてとうとうたどり着いた扉を前にして、大きくミリアリアは息を吸う。
地下50階層。
その場所は、ミリアリアの目指すラストダンジョン到達点の一つだ。
「闇の精霊神ダークの封印地……。少々準備に時間をかけすぎた感じもありますが、踏ん切りがつきましたわ」
今日ライラを見てミリアリアはその姿に、キャラクターとして好きだと思う一方で物足りなさを感じた。
本来ならあったはずの、もっと強烈な憧れのような愛着が今一感じられなかったのだ。
その違和感に、ミリアリアは正直困惑した。
だが思えば今までに出会った攻略キャラ達にも同様の何か足りない感じはあったのだ。
考えてみれば簡単なことだった。
確かに恋愛を楽しむゲームとしてもミリアリアは「光姫のコンチェルト」を愛している。
しかし彼女達にミリアリアが最も憧れるところがあるとすれば、それは恋愛に興じているその瞬間ではなかった。
ミリアリアは思い出す。
「そう……わたくしが憧れたのは彼らの到達点なんですわ。やりこみにやりこんで完成された圧倒的な彼らの姿は実に爽快でしたもの」
時間と手間暇をかけて完成した彼らは、優れた作品と言ってよかった。
ドロドロとした争いも、抗えない運命も、共に進んだ仲間達ならばたやすく振り払えるはずだと確信できるほど圧倒的に。
作中最強の敵など物ともしない、圧倒的な性能を知ればこそミリアリアはその強さを求めずにはいられなかった。
だが今いる彼女達は当然ミリアリアの知る最強の彼女達ではない。
「なんだかこの先どうなるかわからないし、放置されているからだらだらやってしまいましたけど……無意識にビビってしまっていたのかもしれませんわね」
ミリアリアは我ながら今更なことに自分で驚いていた。
だからこそダサい自分を振り払うために、躊躇わずに扉を開ける。
封印の扉はあっさりと開いて、中から濃密な闇の気配があふれ出した。
「ごきげんよう。闇の精霊神様。御在宅でいらっしゃるかしら?」
ミリアリアの問いに、闇は答えた。
「……何者だ? 私の眠りを妨げるのは?」
いるべきモノがそこにいて、ミリアリアは生まれてから一番の壮絶な笑みを浮かべていた。
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