悪役姫はテイムに挑戦する。
地下ダンジョン35階層。
黄金神殿と呼ばれるフロアには、ダンジョン内に似つかわしくない黄金の建物が存在した。
建物の中にはブエルという悪魔のモンスターがいるのだが今回の狙いはそこじゃない。
ミリアリアの求めるそれは建物を守る狛犬のように配置された、黄金の獅子像だった。
「ふふん。知っていますわよ……お前達がテイム可能なモンスターだということを」
ミリアリアはきらめく黄金の獅子に語り掛ける。
黄金の獅子像、ゴールドレオは言ってしまえばガーゴイルのような石像が動くタイプの不思議なモンスターである。
本来であれば、戦闘後ランダムで仲間になるかどうかの判定があるのだが、今回は少しばかり試してみたいことがあった。
いつだってゲームの描写の中にはミリアリアの力についてヒントが隠されている。
それはここまでの検証でも明らかだ。
「ゲーム中のミリアリアというか魔王は、明らかにモンスターを従えていましたわ。敵のギミックだと言ってしまえばそれまでですが……わたくしだけにある特性は何なのか考えれば何か秘密があってもおかしくはありません」
つまりは闇の属性に高い素養がある事。それとテイムという技術は深い関係があるのではないか? という仮定である。
精霊術においてなんかできそうな気がするという直感は侮れない。
それはミリアリアの模索に特に重要なことである。
ミリアリアは黄金の獅子の警戒範囲を踏み越えると、ゴールドレオは侵入者を排除するために動きだした。
「あとは……さっそくテイム団子を食べさせてみましょうか。きっと100パーセントテイム可能とかそんなのですわ!」
ちなみにテイム団子は、王都の冒険者専門店と精霊術学園の購買部にて一部販売中のテイム確率を上げるアイテムだ。
銃撃は金は柔らかそうだから、禁止としておこう。見栄えは大切である。
「グオオオオ!」
金だけあって重い音を立てるゴージャスな獅子に向かって、ミリアリアは団子を構えた。
そして一時間後―――
「ゼーハーゼーハ……ダメじゃないですの!」
闇属性は特別テイマーの素質があるかと思えばそんなことは全くないらしい。
買った団子は底をついたが、ゴールドレオにはまるでひれ伏す気配はない。
お腹に溜まって来たのか心なしか艶が良くなっているくせに、相変わらず牙を剥いているのがなおさら腹立たしかった。
「くっ! 今口元舐めましたわね! 料金を請求しますわよ!」
ミリアリアは地団太を踏んだ。
たっぷり買っておいた団子はもうない。つまりゲーム的には手詰まりだった。
「これは……もういったん撤退するしかないかしら? 団子を買い足さないと……」
ぶつぶつと独り言を呟いていたミリアリアに大きな前足が振り下ろされる。
鋭い攻撃に対して、ミリアリアはつい反撃を繰り出していた。
「お黙りなさい!」
ガツンと脳天を一撃。
ゴールドレオは、地面にめり込むほど叩き潰された。
だが相手は強めのモンスター。計算上これくらいで参りはしない。
追い打ちで踏みつけ攻撃。
しかも連続である。
「行儀の悪い猫ですわね……これは躾が必要かしら?」
火花を散らす猛烈な踏みつけ攻撃にミリアリアは気分が高揚してきて……はっと突然冷静さを取り戻した。
「な、なんですのこの高揚感……! いえ! 開けてはいけない扉を開けかけてしまいましたわ!」
恐るべし、オリジナルミリアリア。
その根底に流れるSっ気は本物の様だ。
性癖はともかく大っぴらに全開にするつもりはない。
しかし苛烈な攻撃は、ゴールドレオの生命力をぎりぎりまで削ったらしく口を開けてノビていた。
「あ。マジヤバですわ……ついイライラして。仕留めてはいないようですけど……」
ミリアリアはぴくぴくしているゴールドレオを覗き込んで、とあることをひらめいた。
「ああ、でも……そう言えばちょっと試してみたいこともありましたわね」
ミリアリアはメアリーが洗脳の話をした時、ミリアリアが作り出した飲み物を怖がったことを思い出していた。
ミリアリアはひょっとしてとゴールドレオの口に手を持って行って、呪文を呟いた。
「暗黒液体……」
まさかそんなと気分は気楽なものだったのだが……。
どろりと一際黒い液体がゴールドレオの体内に侵入してゆく。
そして体中から黒いエフェクトが迸って、ゴールドレオはのけぞった。
「ガアアアアア!」
「!!!」
ミリアリアもびっくりである。
ゴールドレオはしばらく体を震わせていたが、体を起こしてミリアリアに視線を向け。
「まさか……」
そしてそのまま首を垂れてミリアリアの前にひれ伏す。テイム成功? であるらしい。
「……団子関係ありませんわね」
こいつはマジヤバですわ。完全にやってることがラスボスでしかない。
ミリアリアは慄きつつも、実験はおそらく成功……ということにしておいて、この技は今後人前での使用を完全封印することを決めた。
「……結果オーライですわ!」
ゴロゴロと喉を鳴らして、頭をこすりつけてくるゴールドレオは、先ほどまでとは全く違う猫のようで、ミリアリアはせめて大事にしようと目を細めた。
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