決闘(決着)
アリスと向き合い、護衛の人の合図を待つ。
合図の瞬間こそが、俺の勝てる唯一のタイミングだ。
俺はアリスよりはるかに弱いというのは分かっている。アリスが動かず、攻撃も防御もしないたった数秒の瞬間をつくしかない。
「始め!」と声が響くと同時にコートの下から武器を取り出して、アリスに手に持っていたものを向ける。
白い円錐状の物体。
大きさは30㎝程度で、コートで隠せる程度の大きさだ。
その底辺をアリスへと向けて、俺は頂点にある魔石を押し込んだ。
ドンという豪快な音と共に、円錐の底辺が吹き飛ぶ。重い衝撃が手に響く。
そしてそこから飛ぶ金属の破片が、アリスへと向かっていく。
これが銃の代替品として、この世界のもので作り上げた対アリス決闘武器だ。
銃というよりは、形からしてクラッカーとでもいうのだろうか。
うまく作動して良かった。
時間がなかったので、ぶっつけ本番で動かすしかなかったが、流石アリシアさんと感謝をささげたい。
アリシアさんだけではない。これの作成にかかわった人達に感謝しなければならない
これの作成には、多くの人に手を貸してもらったのだから。
このクラッカーはこの世界の技術がなければ作成できなかった。
ガリアさんには魔石に反応し爆発する符を作ってもらい、カージ様にはこの中に入り、爆発に耐えられる金属片を鍛えてもらった。
妖精王女リリン様には俺が持てるように軽い素材、紙に加護をかけて爆発させても大丈夫なようにしてもらった。自然のモノ由来なら加護が効きやすいと聞いていたが、紙で作ったのに全く壊れなかったのは驚嘆する。
そして武器の素材は、エリザベスさんとアリシアさんが協力してくれた。
俺はアイデアを出しただけで、一晩で形にできたのはみんなの力だ。
開始と同時に大きな音を立て驚かせ、その間に目にも止まらない金属のつぶてがアリスに一撃を与える。
それが俺の考えた武器で、アリスとの決闘を制するための作戦である。
武器が問題なく作動したことで、勝利を確信した。
無数に飛ぶ金属片がアリスに当たれば、それで終わりだ。
アリスへと狙った通り金属片が飛ぶ。
そしてアリスに当たった。
そう思ったが、金属片はアリスを通り抜けすり鉢状になっている訓練場の壁に当たる。ガチガチと音が鳴って、地面に落ちた。
俺の頭が理解する前に、俺の背後から赤い剣の切っ先が喉元に当てられた。
「驚いたわ。まさかあんなものを用意していたなんて」
「ざ、残像か……」
目の前にいたはずのアリスの姿はいつの間にか消えている。そして本物は後ろにいる。
きっと当たる寸前に避けて、俺の後ろに回った。俺はアリスのその動きを目で追えず、残像だけを見ていたのだ。
それで勝利を確信をしていたのかと思うと恥ずかしい。
「でも残念だけど、あれよりももっと早い魔物もいるのよ。次があったら、音だけじゃなくて他の物でも注意を逸らした方が良いわよ」
「次があったら……な」
「それでまだやる?時間に余裕はまだあるけど」とアリスが余裕の声色で俺にチャンスをくれる。
だけど「いや、もう手はない……。もう一度やった所で、俺がぼこぼこにされるだけだ……」と情けとして貰ったチャンスを手放す。
作った武器でしか、アリスに届く方法はないのだ。いや、作った武器ですら、アリスの足元にも及ばなない。初見で簡単に避けられてしまった。
エリザベスさんやアリシアさんにお墨付きをもらっていたにも関わらず、全く歯が立たなかった。
「そう。分かったわ。あの大きな音を出していたものは何?あんなものを良くこの短い間に作り上げたわね。魔法でも弓でもないのに、一瞬であんなに早く飛ばせる物があるのね。むしろ詠唱も引き絞る動作もないから、発射をするだけなら一番早いわね。異世界のものだったりするの?」
「いや、全部この世界の物で作ったんだ。俺の居た世界の物を参考にしたけど、この世界の物だよ」
「そうなのね。私はまるで考えもつかなかったわ。そんな武器ができるのね」
「ああ、いろんな人に協力してもらったから、何とか形になったけど通じなかったよ。だからこれは全く役に立たなそうだな」
手の中に残っていたクラッカーの残骸を足元に捨てる。
音もなく地面に落ちて、ころころと転がった。
首元にある剣が引かれ、鞘の中に収められる。
「改良の余地はあるけど、私は使えると思うわ。特に修平が使って、私に一撃っていうのを与えそうになったというのが特にね」
「でも当たった所で、どうにもならないだろ?ゴミが当たった程度の威力だろ。そんなのどうしようもないだろう」
「当たって邪魔だと感じると思うなら、それだけでも価値はあるわ。先頭でたった数秒でも動きをとめられるなら、それに越したことはないもの」
「そうなのかな……」
「そうよ。無駄な事なんて、意外に無いのよ。私が始まりの町に閉じ込められていたことだって、無駄ではなかったでしょう。ロックジャイアントを倒せたんだから」
「そうかもな……」
俺とアリスが会話をしていると、カンカンという音が鳴り響いた。
「出発の合図ね。後3回鳴ったら、出発するわ」
「ああ、知ってるよ。もう行くんだな……」
4回目の鐘が鳴った時、アリスを含む最前線への援軍は出発してしまう。
決闘に負けた俺は、この援軍と共に行くことはできない。
「ええ、行ってくるわ。……修平」と唐突に俺の名前を呼んだ。
「なんだ?」
「ううん。何でもないわ。これで今生の別れかもしれないから、言っておくわね。あなたに会えたから、私は今また戦えているわ。だから本当に感謝しても仕切れないほどの恩があるわ。もし無事に帰ってこられたら、その恩を倍にして返すわ」
アリスは俺の手を両手で握って言った。
アリスの手は温かく柔らかい。
「恩なんて……、俺は別にやらないといけないといけないからやっていただけで……」
「修平にとってはそうかもしれないわね。私が勝手に感じているだけだから、修平は気にしないで」
そう言って、アリスは離れていく。
「じゃあ、行ってくるわね。また、会えることを祈っているわ。次に会うとしたら、最前線か何もかも終わって王都かしらね」
「そうだな。武運を祈っているよ」
「ありがと。そっちもこれからどうするか分からないけど、頑張ってね」
「ああ、頑張るよ」
お互い励まし合い、アリスは俺に背を向けてタタタと助走をつけてダンと人間離れした跳躍で城を上から跳び越えて行った。
これでアリスの超身体能力を見るのももう終わりか。
そう思うとなんとも寂しい気分になった。
長かったような短かったようなアリスとの旅は終わり。




