表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
79/88

75「少し訂正をな」大袈裟な事実、意識の外

〜鍛冶屋の男が言う、世界中の人々の命が、イツキとどう関係するのか、理解できたと思いきや?〜

*説明が多めになっています

「お前が思っているより、遥かにたくさん、強者は存在するんだ!」


 さて、どういう事か、詳しく説明しよう。


 ***

 まず、男がイツキに自身の危険性を表しているもの…死臭や死の気配といった、大量に人を殺した証が、強者には隠せていないと指摘し、隠せる様に意識させた。

 その理由は、世界中の人々の命と、一応イツキの為だった。


 では、イツキがうまく隠せる様になったとして、それがどう世界中の人々の命と、イツキの為になるのか。

 それは、前者は戦闘に巻き込まれ命を失う者、後者は戦闘になる面倒、がなくなるから。


 もしイツキがこれからも、隠しきれていない状況で生活していき、世界中を見て回ったなら、いく先々で戦闘になるといっても過言ではない。

 何故なら、この世界には地球と比較できぬほど、強者…イツキレベルの人外が存在する。

 冒険者でいうと、SSSランクなら余程裏稼業の者に経験がない限り、まず気づく事ができ、経験さえあればSランクでも可能性はある。


 さらに、冒険者に登録していない強者など、たくさん存在している。

 むしろ、冒険者登録している方が少なく、故に男は勘違いしていそうなイツキへ、思いの外、強者がたくさんいることを教えた。

 と、いうことで、世界中を移動すれば意外なほど、イツキの脅威さに気づける者と出会えるのだ。


 そして出会えば戦闘になる。

 相手は危険の芽…どころか満開のイツキを排除する為に。

 イツキは、事情がない限り、向かってくる敵に対し逃げる事はなく、害になるものは例外なく潰す。


 戦闘は避けられず、他の命を何とも思わないイツキと、何が何でも排除しようと向かってくる強者との戦いである。

 間違いなく周りに甚大な被害が出るだろうし、相手が周りを気にする様な者なら、イツキはそれを利用する為、やはり犠牲は出てしまうだろう。

 そもそも、イツキの本気の殺気が撒き散らされたなら、一般人どころか中ランク冒険者にも耐えられない。

 つまり、強者との殺し合いが始まってしまったら、人里離れた場所でない限り、犠牲者は免れないのだ。


 それがいく先々で起こるとなれば、それはもうかなりの勢いで人口が減っていくだろう。

 そうなる前に討伐隊が組まれると思われるが、それすらもたくさんの策で跳ね返し、完膚なきまでに叩き潰す。


 まあ何にせよ、かなりの犠牲者が出ることは間違いないのだ。

 そう結論に至った男は、隠せる様になることで、死ななくていい命が救われる、と表現した。


 イツキの面倒についてはそのままの通り、いちいち行く先々で戦闘になる事がなく、討伐隊などもない。

 普通に暮らすことはでき、面倒が無くなる、ということである。

 面倒がなくなるだけで、男はイツキが負けることを、一切考えていなかったりするのだが、それだけ尋常じゃない実力を持っていると確信していた。


 ちなみに、イツキが男の感情を読んだ際、保身の為と考えたが、あながち間違ってもいない。

 この忠告をすることによって、イツキに借りを作り、自分の身を守る…もしくは、何らかのアクシデントの際に手を借りようとしたのだ。

 その思いと、世界中の命とイツキの事を考えた上での忠告だった為、イツキは男をうまく読めなかった。

 ***


 男の説明の後半で、何が言いたいのか理解していたイツキは、男の意見に内心でかなり納得していた。

 確かに、イツキの脅威さに気づける者がかなりいるなら、それなりの確率で戦闘になるだろうし、いざ戦闘が始まれば周りにも被害が及ぶだろう。

 隠せれば面倒が減るし、忠告にも意味はあったと。


「どういうことか、もう分かっただろぉ」

「そうだな…」

「何だ、また文句かぁ?」

「少し訂正をな」


 男の同意を求める言葉にも、本心で認める程には正しと感じていた。

 しかし、何やら否定したい事があるらしい。

 文句でもあるのか、また含みのある言い方に、いい加減呆れしか浮かばなかった男。


「訂正だぁ?何だよぉ」

「確かに、気づかれるとは思っていなかったが、隠せないわけではない」

「何を……っ!?!?」

「どうだ?」


 しかし、次の瞬間には呆れなど吹っ飛んだ。

 何故なら、あまりにもあり得ない事が起きたから。

 イツキが訂正すると言い、何を訂正するのかと怪訝な顔をした男は、イツキの言葉にさらに眉を潜めていた。

 そして床に落とした視線をイツキに向けると、そのあり得ない事が起きていた。


「何処に行ったっ!?」


 目の前にいたはずのイツキが、いきなり姿を消したのだ。

 何度も言う様に男はかなりの実力者であり、目の前にいる者の気配を、見失うなどあり得ないのだ。

 もちろん、男の認識できる範囲から外へ転移されれば、流石に追い続けるなど不可能であり、見失ってもおかしくはない。


 だが今回は違う。

 魔法を使った痕跡もなく、瞬時に移動した様子もなく、しかし完全に範囲内にイツキが存在していなかった。

 一体どう言うことかと、ついにイツキを警戒し始めると、ふと思い出した。

 消えたと思った瞬間、『どうだ?』と声がした事を。


 つまり、移動したのではなく姿が見えなくなったという事。

 そう結論付けたが、なら何故気配を感じないのかとまた疑問にぶち当たる。


「これが答えだ」

「なっ!…ずっとそこにいたのかっ?」

「ああ」


 男が疑問を抱いた事を察してか、姿を現したイツキ。

 消えた時からずっと、イツキが立っていた位置を視界に入れていたにも関わらず、いつの間にか姿を現していた事。

 それに、何もない所から急に現れたなら、その現れる瞬間が目に映る筈なのに、現れた瞬間も見えなかった事に、驚愕する男。


 しかし、男もただ驚くだけではない。

 動した形跡も…かといって透明になったわけでもない、そして不自然な現れ方から、一つの答えを思いつく。

 確信、とまではいかないが、それなりの自信を持てる答えを思いつくと、確かめる為に一つ問う。


 もともと答えるつもりなのか、あっさり肯定したイツキは、近くに置いてあった座れそうな箱に勝手に座る。


「勝手に座るなっ、中身はくず鉄だから良いけどよぉ…じゃなくて。そこにずっといたってことは、ただ気配を消していたわけじゃないってことかぁ?」

「少し違う」

「あん?どういう…」


 人の家だというのに、平然と許可もなく物に座ったイツキに、状況を忘れてツッコむ。

 気を取り直すと、答えを確信に近づける為の最後の問いをぶつける。

 てっきり肯定が返ってくると思っていた男は、一部とはいえ否定された事に面をくらい、何が違うのかわからず聞き返した。


 イツキは、もう答えて良いだろうと決め、どういう原理で男がイツキを認識できていなかったか、説明する事にした。


「お前の浮かべた答えは正しい。確かに、意識から外し、認識ができない様にしている」

「じゃあ何が違うっ…普通に俺の考えを読むなよぉ。…で、何が違うんだぁ?」


 ナチュラルに男の思い浮かんだ答えを読み取り、答え合わせを始めたイツキ。

 あまりにも自然に言い放った姿から、つい普通に何が違うのかと聞き返しそうになり、読み取られた事をジト目で非難し、普通に聞き返す。


「意識を外す方法」

「…つまり、なんだぁ、ただ気配を消しただけだとぉ?」

「ああ、その通りだ。気配を消すといっても、程度がある。殺意や闘志などの意思を隠すもの。存在圧を消すもの。…魔力も。その全てを極限まで消すと、意識が外れ、再度意識できない」

「っ…なるほどなぁ」


 何が違ったのか、それは『ただ気配を消しただけじゃないのか』の部分であり、意識を外す方法が別にあると予想していたこと。

 実際は気配を消し、その効果の中に意識を外すものがあった。

 しかし、男には気配を消すだけで見えなくなる原理がわからず、誤魔化しているのかと、疑わしげにイツキを見る。


 イツキは、その勘違いを晴らすため、少し詳しく説明をした。

 その説明に、息を呑んで神妙な面持ちで聞く男は、予想外の方法にも、納得の声をあげた。


「理屈は、分かる。だから見えていても認識できない…意識していないものが見える筈もない。しかもタチが悪いことに、見えていないから動いてもわからない、かぁ」


 イツキが急に消え、急に現れた理由がわかり、スッキリした様子の男。


 ***

 気配とは、生物を認識する上で大切なものであり、多少の例外はあるが、意思や感情、存在圧、魔力が含まれる。


 まず、生物が持つものとして、意思や感情は言うまでもないだろう。


 存在圧とは、生物が存在していれば必ず発している、気配の代表とも言えるもの。

 背後に気配が…や、見えないのに『建物の中には2.3.4....9人居る』と当てることができる、よく気配として扱われる。

 殺気や怒気、覇気など『気』とよばれるオーラの様な威圧も、イツキの纏う死臭や死の気配も、含まれる。


 そして、この世界での話だが、生物は皆魔力(魔素)を持っているため、魔力も気配に含まれる。


 その気配を全て極限まで消すと、生物は対象を意識できず、見えているのに、匂いがするのに、音がするのに認識できない。

 正確には、見えている筈なのに姿が捉えられない…すぐ近くにあったのに見つからない『ミ⚪︎ケ!』みたいな感じになるのだ。


 誰にも気づかれたくない際には、とても重宝する技術である。


 簡単に表すと、気配のない透明人間になる様なものだ。

 実際透明ではく、監視カメラなどにはしっかり映るので、生物の五感を欺くだけの為のものであるが。


 ちなみに、以前説明した『気配を隠す』は、原理は全く別物である。

 ***


 さて、イツキの訂正が終わったところで、ふと男は気づく。


「あ〜、てことは、1回目で隠せていない事に気づいて、それ以降はしっかり隠せたっ、てことかよぉ」


 何の事かと言えば、行く先々で戦闘になる云々の事で、それはイツキが上手く隠せていない場合の話だった。

 しかし、今はというと、イツキが脅威だと判断される材料…死臭もその気配も完全に隠されており、異常な死臭を知っている男でも感じ取れなかった。


 つまり、元から隠す事はできる事であり、ただ前の隠し方で十分だと思っていただけだった。

 その為、例えこの場で気づくことがなくても、1度目の戦闘で気づき、隠す様になっていた。

 つまりは、それ以降は戦闘もなく巻き込まれる人もいないわけで、世界中の人々の命の為、というのはあまり意味がなかったのだ。


「ああ。ただ、その一度の戦闘が無くなってだけでも、十分だ」


 無駄足を踏んだと、若干萎えている男に、イツキはフォローするかの様に、意味があったことを教える。


「おっ、本当かぁ!」

「…借りができたな」


 現金なもので、実りがあったと分かれば、あっという間に元気が戻った男。

 目的の一つ、イツキに借りを作る事に成功した。


説明文が多くて申し訳ないですorz

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ