76「強行突破」振り出しに戻って、笑えない冗談
〜唐突な殺人鬼呼ばわりで、名前や目的がわからない状態で話が進んでいた現状。やっと自己紹介に入った2人〜
イツキも、強者との不必要な戦闘が避けられたのは、喜ぶべき事であり、忠告してきた男へ借りができたとは、本当に思っていた。
これでようやく、一騒ぎが落ち着き、すると今更な疑問が男に浮かぶ。
「なぁ、なんでここに来たんだぁ?」
「……お前に用があるからだ」
「まぁ、そりゃそうかっ!…そういや、名前もまだだったなぁ」
バカの様な問に、呆れながらも答えたイツキの、お前呼ばわりで、ようやく自己紹介もまだである事に気づいた男。
なんでこんな事になったのかと、振り返って見た男。
その様子から、イツキも少し振り返ってみると、開始早々ハンマーで殴りかかられ、落ち着いたと思いきや、殺人鬼呼ばわり。
為になったとはいえ、さらには忠告を受けるという、災難なひと時になっていた。
自己紹介をする暇がなかったのも、目的を話すことができなかった事も、納得の濃い時間であった。
とは言っても成果はあり、五指に入る最高峰の鍛治師と知り合え、自分の至らない点を知れたと考えれば、見合った苦労なのだろう。
それに、今日1日で起きた面倒事に比べれば、遥かにマシで落ち着いた時間だった…と、自分を納得させたイツキ。
すると、男も回想を終えたのか、閉じていた目を開きイツキへ話しかける。
「順番はおかしいがっ、目的の前に自己紹介と行こうかぁ。まず、俺の名前はぁ」
「シュエン、だったな」
「おっ、よく知ってるなぁ。結構名前、知られてないんだがなっ………で、お前さんはぁ?」
始めたのは自己紹介。
男…もといシュエンが言う通り、殺人鬼呼ばわりから始まり、忠告やら何やらで順番が滅茶苦茶ではあるが、名前など基本なことはお互い知らない。
なので自己紹介から始めようとしたシュエンだったが、それを遮り答えたのはイツキだった。
顔と名前はあまり知られていないと自身で知っている為、遮られたことよりも、名前を当てられた方に意識を持っていからたらしく、目を丸くして感心したように声を上げる。
そして待つこと数秒、名前を名乗らないイツキに焦れたシュエンは、少し急かす様に尋ねた。
「イツキだ」
「おっと…おう、イツキなっ。よろし…はあ!?Eランクだぁ!?なんだこれっ!」
「昨日登録したからだ」
「昨日って…今まで何してたんだよぉ…」
何故さっさと名乗らなかったのかは知らないが、急かされようやく簡潔に名乗ったイツキは、ついでにギルドカードを投げ渡す。
危なげなくキャッチしたカードに表示された情報から、名前を確かめたシュエンは、そのまま他の情報にも目を通す。
死の匂いの割に、思いの外低い…低すぎる年齢や、判別できなかった性別が分かったところで、ランクに目がいく。
そして安定の、実力に釣り合わなすぎるランクに叫ぶシュエンに、イツキは登録して日が経っていないことを教える。
ランクが低い理由は分かったが、なら今までどうしていたのかと疑問に思うも、年齢の割に濃すぎる死臭に、なんとなく当たりをつけ、過去を聞くのはまずいかと呟くだけに留めた。
「まあ、いいか。よろしく頼むぜっ!」
「ああ…そうだな」
検索はせずに流し、忠告の件での貸しや、イツキという強者との繋がりなど、いろんな意味でよろしくと言った。
イツキも、この相手とは必要な繋がりだと思った様で、知る人が聞けば分かる程度の小さな違いだが、穏やかな声音で、応えた。
「お…そういや、俺はこれでも忙しくてなっ、そうそうよろしくできる訳じゃないが、門前払いだったらどうするつもりだったんだぁ?」
自身が口にした、よろしくと言う言葉から、ふと何かを思い出した様に声をあげたシュエン。
それは、どうやって自分とコンタクトを取るつもりだったのか、だった。
シュエンは、中央の大陸では五指に入る程の腕前であり、そうそう気軽に接することができる立場ではない。
なので、名が売れているか紹介状の様な物が無い限り、武器受注の依頼どころか、話しかけることすら難しいのだ。
そして、実は今はシュエンしかいなかったが、普段は他にも人が居て、話しかけようにも間違いなく止められる、筈だった。
たまたまいなかっただけで、もし止められていたならどうしたのか、疑問に思ったらしい。
「強行突破」
「おいおいっ勘弁してくれよぉ!」
「…冗談だ」
「心臓に悪いぞっ…お前さんが冗談を言うとは思わなかったがぁ、本当にやりそうで怖いわっ」
(ふむ…やはりあいつの言う通りにした方が良いのか…)
イツキは淡々と、止められた時に取る手段を話す。
予想よりはるかに遠慮のない方法に、悲鳴の様に制止の声を上げ、絶対にやらないでくれと心の底から願ったシュエン。
あまりの剣幕に若干引いたイツキは、冗談であると明かしたのだが、抑揚のない声とあまりにも現実味を帯びた方法は、全く冗談に聞こえなかった。
男が実際そう感じており、冗談だとわかっても額に冷や汗をかき、あまりのショックにうなだれていた。
あまりの衝撃の受け様に、やはり冗談は控えるべきなのだろうかと、以前仲間に叱られた件を思い出す。
〜〜〜〜〜
それは地球での事。
とあるコンピュータウイルス対策のソフトを、開発・販売している会社があった。
しかし、その実裏では世界中にコンピュータウイルスをばらまいて、ありとあらゆる場所のコンピュータをハッキングしようとしている、裏組織の表の顔だった。
そんなサイバーテロ組織と、武力以外の力も付けるために、手を組むことになったイツキ達。
実際は、相手の秘密を握り脅した様なものなのだが…それはともかく。
お互い離れた場所で、モニター越しに会話をする中。
無事、話もまとまり、落ち着いたかと思われた時、イツキのたった一つの冗談で、恐ろしいほど面倒な事態が起きた。
その後の一幕…イツキの仲間の1人である、女性との会話である。
『いいですか?イツキさんはもう、ジョークとか使ってはいけませんよ?』
『何故だ』
『ジョークに聞こえないからです!いいですかっ?イツキさんの言うことは、どれだけ荒唐無稽なことでも、簡単にやってのけると思ってしまいます。しかも、それを躊躇いもなく実行しそうです』
『…』
『相手からしたら、恐ろしい事この上ないですよ。…何が──『そこらの国をハッキングして、核戦争でも始めようか…できないと言うなら、全員でそちらに乗り込むぞ』──ですか!ジョークというか、脅しですし…相手の方、恐怖のあまり組織自殺しようとしていましたよ!』
『知るか』
『知るかじゃ無いです!これから手を結ぼうとしている相手ですよ!しかも、自殺を止めるために全員出動になって、結局本当のことになってしまいましたし!』
『チッ』
『今舌打ちしましたねっ!?もうっ!…いいですか!?イツキさんは、チョイスが酷いです!何故面白みも無い、現実的なものしか言えないのですか!だいたい………』
この後、数十分にも渡り、くどくどと仲間の文句を浴びたイツキだった。
〜〜〜〜〜
人間の常識やモラルといったものを守らないイツキは、度々仲間に叱られていた。
そしてこの際のお叱りは、上位に入る程不満を感じるものだったらしく、あまり言いつけを守られることは無かった。
しかし、目の前にいる、かなりの実力者ですら、冗談を見抜けず慌てていた。
その事実から、割と当たっていた事だったのかと考え直し…
(まあ、いいか)
それでもやめるつもりはない。
特に致命的な事でもないだろうし、冗談を言ってはいけないタイミングくらい、分かっている…つもりである。
多少楽観視しているが、冗談から発生する問題など、簡単に処理できると考えており、実際なんとかできるのだろうから、重く見ない。
後々面倒を呼ぶ気しかしないが、冗談をやめるつもりはやはり無い様だった。
「んで、結局どうするつもりだったんだぁ?」
「ああ、これだ」
疲れ切った表情のシュエンだが、イツキの冗談から、もともと話をつけるための手段を持って訪れたことを悟っていた。
なので、どんな方法なのか気になっており、もう冗談は言うなと願いつつ、もう一度尋ねた。
するとイツキは、ギルドカード同様、ローブの内ポケットから紹介状を取り出し、男に手渡した。
次は物…封筒が出てきた為、冗談ではないとホッとし、紹介状を書いてもらったのかと、その手段を意外に思っていた。
どんな伝手だろうかと紹介者のサインを見ると、さらに予想外な事に、この都市に構えるギルドのマスターからであった。
「ギルドマスターっていうとぉ…ルビルスかぁ。なんだ、知り合いだったのかっ?」
「いや、情報の報酬だ」
「報酬?まあ、見ればわかるかっ……………はあ、なるほどなぁ」
この都市のギルドマスターの顔を思い出し、名前をひねり出すと、意外な接点に興味本位で尋ねるシュエン。
イツキは隠すことも誤魔化すこともせず、質問に答えた礼…情報を与えたその報酬と、イマイチわかりにくい言い方で答えた。
案の定、よく伝わらなかったらしく、眉をひそめ繰り返すが答えは出ず、イツキも詳しく説明する気がない様なので、手っ取り早く紹介状を見る事にした。
そして出てくる出てくる、イツキの起こした騒ぎや、紹介状を書いた経緯を読み、呆れ気味にどう言う繋がりか納得した。
イツキの殺気放出の件は、実はシュエンは全く気づいていなかった為、都市に入る前から何をしているんだと呆れていた。
他にも、ギルド内で暴れたことや、その対応に苦労したであろうルビルスへ同情し、実は真面目に気にしている髪の毛の残量が、さらに減らないことを祈った。
「とりあえず、経緯は分かったがぁ…登録しようって時から、何してんだよっ…。喧嘩売られて半殺しとか…」
「四肢欠損もない、五体満足だ。別に問題ないだろう」
「判断基準そこかよぉ。…俺には関係ないことだ、どうでもいいけどなっ」
理由はともあれ、紹介状が書かれた経緯もわかり、特に問題もなかった。
ギルド登録初日から、とんだ騒ぎを起こしたものだと誰もが思う所業に、シュエンも言葉があまり浮かばなかった。
半殺しにしても、どうにもイツキの言い方には、生かしてやっただけマシだろう、といったニュアンスがある様な気がしてならず、危険人物である事には変わりないなと、ルビルスに同意した。
それでも、シュエンは縁を切るつもりは毛頭なかった。
ちなみに、シュエンの発音は、『主演』の様に音が上がるのではなく、『みかん』の様に最後に下がります。




