表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
80/88

76「強行突破」振り出しに戻って、笑えない冗談

〜唐突な殺人鬼呼ばわりで、名前や目的がわからない状態で話が進んでいた現状。やっと自己紹介に入った2人〜

 

 イツキも、強者との不必要な戦闘が避けられたのは、喜ぶべき事であり、忠告してきた男へ借りができたとは、本当に思っていた。

 これでようやく、一騒ぎが落ち着き、すると今更な疑問が男に浮かぶ。


「なぁ、なんでここに来たんだぁ?」

「……お前に用があるからだ」

「まぁ、そりゃそうかっ!…そういや、名前もまだだったなぁ」


 バカの様な問に、呆れながらも答えたイツキの、お前呼ばわりで、ようやく自己紹介もまだである事に気づいた男。

 なんでこんな事になったのかと、振り返って見た男。


 その様子から、イツキも少し振り返ってみると、開始早々ハンマーで殴りかかられ、落ち着いたと思いきや、殺人鬼呼ばわり。

 為になったとはいえ、さらには忠告を受けるという、災難なひと時になっていた。

 自己紹介をする暇がなかったのも、目的を話すことができなかった事も、納得の濃い時間であった。


 とは言っても成果はあり、五指に入る最高峰の鍛治師と知り合え、自分の至らない点を知れたと考えれば、見合った苦労なのだろう。

 それに、今日1日で起きた面倒事に比べれば、遥かにマシで落ち着いた時間だった…と、自分を納得させたイツキ。

 すると、男も回想を終えたのか、閉じていた目を開きイツキへ話しかける。


「順番はおかしいがっ、目的の前に自己紹介と行こうかぁ。まず、俺の名前はぁ」

「シュエン、だったな」

「おっ、よく知ってるなぁ。結構名前、知られてないんだがなっ………で、お前さんはぁ?」


 始めたのは自己紹介。

 男…もといシュエンが言う通り、殺人鬼呼ばわりから始まり、忠告やら何やらで順番が滅茶苦茶ではあるが、名前など基本なことはお互い知らない。

 なので自己紹介から始めようとしたシュエンだったが、それを遮り答えたのはイツキだった。

 顔と名前はあまり知られていないと自身で知っている為、遮られたことよりも、名前を当てられた方に意識を持っていからたらしく、目を丸くして感心したように声を上げる。

 そして待つこと数秒、名前を名乗らないイツキに焦れたシュエンは、少し急かす様に尋ねた。


「イツキだ」

「おっと…おう、イツキなっ。よろし…はあ!?Eランクだぁ!?なんだこれっ!」

「昨日登録したからだ」

「昨日って…今まで何してたんだよぉ…」


 何故さっさと名乗らなかったのかは知らないが、急かされようやく簡潔に名乗ったイツキは、ついでにギルドカードを投げ渡す。

 危なげなくキャッチしたカードに表示された情報から、名前を確かめたシュエンは、そのまま他の情報にも目を通す。


 死の匂いの割に、思いの外低い…低すぎる年齢や、判別できなかった性別が分かったところで、ランクに目がいく。

 そして安定の、実力に釣り合わなすぎるランクに叫ぶシュエンに、イツキは登録して日が経っていないことを教える。

 ランクが低い理由は分かったが、なら今までどうしていたのかと疑問に思うも、年齢の割に濃すぎる死臭に、なんとなく当たりをつけ、過去を聞くのはまずいかと呟くだけに留めた。


「まあ、いいか。よろしく頼むぜっ!」

「ああ…そうだな」


 検索はせずに流し、忠告の件での貸しや、イツキという強者との繋がりなど、いろんな意味でよろしくと言った。

 イツキも、この相手とは必要な繋がりだと思った様で、知る人が聞けば分かる程度の小さな違いだが、穏やかな声音で、応えた。


「お…そういや、俺はこれでも忙しくてなっ、そうそうよろしくできる訳じゃないが、門前払いだったらどうするつもりだったんだぁ?」


 自身が口にした、よろしくと言う言葉から、ふと何かを思い出した様に声をあげたシュエン。

 それは、どうやって自分とコンタクトを取るつもりだったのか、だった。


 シュエンは、中央の大陸では五指に入る程の腕前であり、そうそう気軽に接することができる立場ではない。

 なので、名が売れているか紹介状の様な物が無い限り、武器受注の依頼どころか、話しかけることすら難しいのだ。

 そして、実は今はシュエンしかいなかったが、普段は他にも人が居て、話しかけようにも間違いなく止められる、筈だった。


 たまたまいなかっただけで、もし止められていたならどうしたのか、疑問に思ったらしい。


「強行突破」

「おいおいっ勘弁してくれよぉ!」

「…冗談だ」

「心臓に悪いぞっ…お前さんが冗談を言うとは思わなかったがぁ、本当にやりそうで怖いわっ」

(ふむ…やはりあいつの言う通りにした方が良いのか…)


 イツキは淡々と、止められた時に取る手段を話す。

 予想よりはるかに遠慮のない方法に、悲鳴の様に制止の声を上げ、絶対にやらないでくれと心の底から願ったシュエン。

 あまりの剣幕に若干引いたイツキは、冗談であると明かしたのだが、抑揚のない声とあまりにも現実味を帯びた方法は、全く冗談に聞こえなかった。

 男が実際そう感じており、冗談だとわかっても額に冷や汗をかき、あまりのショックにうなだれていた。


 あまりの衝撃の受け様に、やはり冗談は控えるべきなのだろうかと、以前仲間に叱られた件を思い出す。


 〜〜〜〜〜

 それは地球での事。

 とあるコンピュータウイルス対策のソフトを、開発・販売している会社があった。

 しかし、その実裏では世界中にコンピュータウイルスをばらまいて、ありとあらゆる場所のコンピュータをハッキングしようとしている、裏組織の表の顔だった。

 そんなサイバーテロ組織と、武力以外の力も付けるために、手を組むことになったイツキ達。

 実際は、相手の秘密を握り脅した様なものなのだが…それはともかく。


 お互い離れた場所で、モニター越しに会話をする中。

 無事、話もまとまり、落ち着いたかと思われた時、イツキのたった一つの冗談で、恐ろしいほど面倒な事態が起きた。

 その後の一幕…イツキの仲間の1人である、女性との会話である。



『いいですか?イツキさんはもう、ジョークとか使ってはいけませんよ?』


『何故だ』


『ジョークに聞こえないからです!いいですかっ?イツキさんの言うことは、どれだけ荒唐無稽なことでも、簡単にやってのけると思ってしまいます。しかも、それを躊躇いもなく実行しそうです』


『…』


『相手からしたら、恐ろしい事この上ないですよ。…何が──『そこらの国をハッキングして、核戦争でも始めようか…できないと言うなら、全員でそちらに乗り込むぞ』──ですか!ジョークというか、脅しですし…相手の方、恐怖のあまり組織自殺しようとしていましたよ!』


『知るか』


『知るかじゃ無いです!これから手を結ぼうとしている相手ですよ!しかも、自殺を止めるために全員出動になって、結局本当のことになってしまいましたし!』


『チッ』


『今舌打ちしましたねっ!?もうっ!…いいですか!?イツキさんは、チョイスが酷いです!何故面白みも無い、現実的なものしか言えないのですか!だいたい………』


 この後、数十分にも渡り、くどくどと仲間の文句を浴びたイツキだった。

 〜〜〜〜〜


 人間の常識やモラルといったものを守らないイツキは、度々仲間に叱られていた。

 そしてこの際のお叱りは、上位に入る程不満を感じるものだったらしく、あまり言いつけを守られることは無かった。

 しかし、目の前にいる、かなりの実力者ですら、冗談を見抜けず慌てていた。

 その事実から、割と当たっていた事だったのかと考え直し…


(まあ、いいか)


 それでもやめるつもりはない。

 特に致命的な事でもないだろうし、冗談を言ってはいけないタイミングくらい、分かっている…つもりである。

 多少楽観視しているが、冗談から発生する問題など、簡単に処理できると考えており、実際なんとかできるのだろうから、重く見ない。

 後々面倒を呼ぶ気しかしないが、冗談をやめるつもりはやはり無い様だった。


「んで、結局どうするつもりだったんだぁ?」

「ああ、これだ」


 疲れ切った表情のシュエンだが、イツキの冗談から、もともと話をつけるための手段を持って訪れたことを悟っていた。

 なので、どんな方法なのか気になっており、もう冗談は言うなと願いつつ、もう一度尋ねた。

 するとイツキは、ギルドカード同様、ローブの内ポケットから紹介状を取り出し、男に手渡した。


 次は物…封筒が出てきた為、冗談ではないとホッとし、紹介状を書いてもらったのかと、その手段を意外に思っていた。

 どんな伝手だろうかと紹介者のサインを見ると、さらに予想外な事に、この都市に構えるギルドのマスターからであった。


「ギルドマスターっていうとぉ…ルビルスかぁ。なんだ、知り合いだったのかっ?」

「いや、情報の報酬だ」

「報酬?まあ、見ればわかるかっ……………はあ、なるほどなぁ」


 この都市のギルドマスターの顔を思い出し、名前をひねり出すと、意外な接点に興味本位で尋ねるシュエン。

 イツキは隠すことも誤魔化すこともせず、質問に答えた礼…情報を与えたその報酬と、イマイチわかりにくい言い方で答えた。

 案の定、よく伝わらなかったらしく、眉をひそめ繰り返すが答えは出ず、イツキも詳しく説明する気がない様なので、手っ取り早く紹介状を見る事にした。


 そして出てくる出てくる、イツキの起こした騒ぎや、紹介状を書いた経緯を読み、呆れ気味にどう言う繋がりか納得した。

 イツキの殺気放出の件は、実はシュエンは全く気づいていなかった為、都市に入る前から何をしているんだと呆れていた。

 他にも、ギルド内で暴れたことや、その対応に苦労したであろうルビルスへ同情し、実は真面目に気にしている髪の毛の残量が、さらに減らないことを祈った。


「とりあえず、経緯は分かったがぁ…登録しようって時から、何してんだよっ…。喧嘩売られて半殺しとか…」

「四肢欠損もない、五体満足だ。別に問題ないだろう」

「判断基準そこかよぉ。…俺には関係ないことだ、どうでもいいけどなっ」


 理由はともあれ、紹介状が書かれた経緯もわかり、特に問題もなかった。

 ギルド登録初日から、とんだ騒ぎを起こしたものだと誰もが思う所業に、シュエンも言葉があまり浮かばなかった。

 半殺しにしても、どうにもイツキの言い方には、生かしてやっただけマシだろう、といったニュアンスがある様な気がしてならず、危険人物である事には変わりないなと、ルビルスに同意した。


 それでも、シュエンは縁を切るつもりは毛頭なかった。


ちなみに、シュエンの発音は、『主演』の様に音が上がるのではなく、『みかん』の様に最後に下がります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ