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70「休憩中、か?」怪奇現象、予期せぬ遭遇

〜怪奇現象について、詳しい話を聞いたイツキは、次の目的地…鍛冶師のいる場に向かうが〜

 

「じゃあ、夜になったら、だな」

「ああ」

「頼んだ」


 古ぼけた屋敷の玄関で、言葉を交わすイツキと依頼主の男。

 男は、無愛想さは抜けていないが、確かに希望の光を見た様に最初とは違う明るい顔で、イツキを見送る。

 イツキはまた夜に戻ってくる屋敷を背に、次の目的地へ向かおうと歩き出し…


「俺の名前はバリスだ!」


 後ろから、忘れてたと呟く声がしたかと思うと、大きな声で名前を教えてきた男…バリスに、振り返らずに手だけ軽くあげた。


 *****


 次の目的地…ギルドマスターであるルビルスに紹介された、鍛冶師の元へ向かっている。

 その鍛冶師は鍛冶場を自宅と兼ねているらしく、大抵はそのどちらかにおり、出掛けていなければほぼ間違いなくそこにいる、と説明されている。

 鍛冶場も自宅も同じ場所にあるなら、少なくとも『今は現場にいますよ〜…本宅にいますよ〜…」といった二度手間だけはなさそうである。


 ただ、その鍛冶場兼自宅は南区画にあり、ここから少し遠いので、数分の移動があるが。

 それでも、目的地は中央区画寄りの大通り沿いにある為、都市を囲う城壁の近くまで行く必要も大通りを外れた複雑な道を歩く必要も無い。

 距離も600m程で、城壁の近くよりはマシになる。

 もし城壁の近くにあったなら、1km近くを歩く事になっただろう…まあ正直な話、イツキには大差ないのだろうが。


 今は予定通りの時間で急ぐ必要もないので、普通に歩いており、多少時間がある。

 そこで周りに注意を払いつつ、歩みを遅くする事もなく、先ほどバリスに聞いた情報を整理し、怪奇現象の原因を推測し始めた。


 先ず、バリスに聞いた情報を纏めるとこうなる。

 ***

 怪奇現象が起き出したのは最低でも2ヶ月前だが、バリス自身が気づかなかっただけで、もっと前から起きていた可能性もある。


 次に、怪奇現象が起きる場所だが、これは基本どこでも起こり、むしろ起きなかった場所が思いつかないくらいである、との事。

 逆によく起きる場所はというと、これも特に無く、集中して起きる場所はない。


 怪奇現象が起きる時間帯は…

 朝や昼など日が昇っているうちは全く起きず、日が沈むと起こり出す。

 照明などの明るさは関係なく、時間か日の光が関係していると見ているらしい、が…曇りでも土砂降りの暗い日でも日中は起きないらしく、日の光は違うのかとも考えている。

 バリスが。


 その他には、確認されている怪奇現象は、物の勝手な落下や急に聞こえる声や足音、ドアや窓カーテンの開閉に何もないのに頭に何かぶつかったかの様な衝撃が走る。

 最近は物が飛び回ったり、小さな人影らしきものが動いて見えたり、何かが張り付いているかの様に頭が重くなる。


 最初に気づいた怪奇現象は物の勝手な落下で、徐々に現象の度合いが大きくなっていると感じている。

 しかし、その割にはバリス自身に大きな被害が起こることはなく、これといって傷を負ったり跡がついたりしたことはない。

 強いてあげるなら、頭に何かぶつかった様な衝撃だけである。

 落下したり飛び回る物も壊れたことはほとんど無く、壊れた物は皿やグラスなど壊れやすいものだけ。

 また、大きな家具は動いたことがない。


 たまに聞こえる声は幼い女の子の様な声で、大抵は悲鳴の様な笑い声で、たまによくわからない言葉が聞こえる。

 それ以外の声は聞いたことがない。

 足音も、ペタペタと恐怖を感じる音では無く、むしろ可愛らしさすら感じるらしい。


 ちなみに、バリスはもう怪奇現象自体に恐怖を感じてはいない。

 最初の頃はビクついたりして家の中なのに落ち着かず、悲鳴が聞こえ出し、このままではたまらないと依頼を出した。

 しかしそれも、悲鳴に聞こえただけで実際は甲高い笑い声で、振り返ってみると被害があまりなかった事に気づいた。

 そして起きる怪奇現象の種類は増えていくが、増えていけば増えていくほど恐怖は薄らいでいき、今ではもう怖さなど全く感じないとの事。


 ならばもう依頼は必要ないのでは?というと、そうはいかないらしい。

 このまま放置して大ごとになったら嫌だし、例えこれといって被害が無くとも、このままでは普通の生活は送れないから、どうにかしたい。

 それに少し原因が気になるから、と言っていた…が、おそらく、1番の理由はただの好奇心だろう。

 ***


 バリスから得た情報を頭の中で再確認したイツキは、既にいくつかの仮説は立てていた。

 しかし、イツキ自身がその仮説に納得がいかず、これと言ったものが浮かばなかった。

 地球での出来事なら間違いなく可能性の高い仮説をいくつも並べられただろうが、魔力に魔物と不確定要素が多過ぎるこの世界では、知識の足りないイツキには難しい問題であった。


 これも勘が働かない理由と似ているが、イツキの勘と予想・仮説の立て方は似通っているので、それもそうだろう。

 イツキの勘は、経験や知識などから無意識にヒントや答えを閃かせるもので、予想も同じく、経験や知識などを使う。

 ただし、予想や仮説の場合は、いくつもの可能性を上げ、そこから答えを拾う、もしくは予想外ということがない様に、どんなに低い可能性でもなんでも、ほぼ全ての可能性を考え出して備えておく。

 だから正確性が高く、99%以上を誇る。

 そういった違いがある。


 そして、今回の仮説に納得がいかないのは、仮説を立てるのに使った材料のほとんどが推測に推測を重ねた、あまり信用が高いとは言えないものを使っているから。

 もちろん、地球と同じ可能性もあり得るが、何度も言う様にここはファンタジーな異世界であり、地球での可能性を当て嵌め難い。

 そうなると仮説を立てるのに使う材料が予測に予測を重ねたものになり、信用が低いので更に材料を増やし…と、どんどん可能性が生まれていく。


 顔を顰めたくなるほど仮説が生まれ、イツキから危ない雰囲気が漏れ出したところで…


「あれ…イツキさん?」

「…」


 救い?の声が掛かった。

 その声により、漂い始めていたよろしくなさそうな雰囲気は霧散するが、イツキは黙りとしたまま。


 周りに注意を払うことは忘れてはいなかったが、人にぶっつかったり襲われた時用の警戒だった為、知り合いが近くにいたことは気づいていなかったイツキ。

 自分の名前を呼ばれ、やっと気づいたイツキは黙ってその者に目を向け、どうしたものかと思案する。

 何故なら目の前にいる人物は、対応に多少の気を遣わなくてはいけない者だったからであり、ギルド(・・・)以外で会うことは、まだ後の予定だったから。

 予定通りになるまでは先に感知して避けるつもりだったのだが…失敗をしてしまったイツキ。

 その相手とは…


「朝以来ですね。調子はどうですか?」

「…ソフィアか」

(ちっ、気配を読み切れなかったか…今外にいるということは、休憩中か。避けるはずだったが、仕方がない)


 情報源として利用するつもりの、ギルドの受付嬢である、ソフィアだった。

 街中で偶然、意中の相手に逢えて機嫌が良くなっていくソフィアに、表面上は普段通りを装うイツキ。

 しかし、内心では珍しく強い後悔のようなものを感じていた。

 自身が犯したミスにたいして。


 依頼や長期的な計画程大事な予定ではなかったので、予定外の早すぎる遭遇に大きな問題はないが、得意分野である探知でミスをしたことに問題があった。

 深く考え込んでいたとはいえ、気をつけるべき相手の接近にも気づけぬなど、到底許容できない…と。

 そう、己に言い聞かせると、2度と起きないように、探知系技術の技量上昇と並行処理能力の上昇訓練を行うことを決めた。

 訓練内容やその過程を軽く組み立てると、目の前の予期せぬ遭遇の対処に取り掛かかる。


「休憩中、か?」

「はい、その通りです。と言っても、もうそんなに時間は無いですけどね。…イツキさんは、どうされたのですか?」


 このまま素っ気なく別れても、大して問題にはならないだろうが、わざわざ上げた好感度を下げる必要もないので、少し話くらい話していくことにした。

 イツキは中央区画の向こうの南区画へ、ソフィアは中央区画のギルドへ向け歩き出した。

 そして、話のきっかけとして当たり障りのない、偶然の遭遇の理由を確信混じりに問う。

 もちろん、普段より声を柔らかくして、煩わしいとか面倒とかの負を感じ取らせないようにして。


 ソフィアは、未だに…と言ってもそれほど時間は経っていないが、予期せぬ嬉しい遭遇に心を弾ませ、明るい雰囲気を纏いながら肯定する。

 表情自体は特に変化はなく、穏やかな微笑みを浮かべている筈なのに、どこか『ニコニコ』と表したくなる様子に、隠し切れない喜びが見えた。

 そして、その状態のソフィアが、会話のキャッチボールで受け取ったボールを投げ返さない訳もなく、こちらも当たり障りのない球を投げる。

 何をしているのかという、ごく普通の問いではあるが、今朝依頼を5つ一気に受けたばかりだと知っているので、依頼先への移動か何かだろうと予想していたが。


「…怪奇現象の依頼、覚えているか?」

「はい。北区画の…もしかして」

「話を聞いてきただけだ。夜にもう一度向かう」

「そうですよね。昼に行っても…って話ですし」


 イツキは本当の理由を話すつもりのようで、怪奇現象の解明依頼の話を聞いて戻ってきたと繋げるために、前置く。

 怪奇現象の解明という割と印象に残る依頼とはいえ、依頼主の所在地まで覚えていたらしく、ソフィアはその前置きと現在の位置、それとイツキの歩いてきた方角から、一瞬でその依頼の帰りかと答えを出した。

 しかし、完全に当たることはなく、依頼達成して戻ってきたのだと思ったソフィアに、まだ終わっていないことは伝える。


 イツキに言われる前に、自分で言葉にした瞬間に、まだ終わっていないか、と考えを改めていたが、そこは接客のプロ。

 分かってるし…の様な、不愉快極まりない態度を取る素振りなど全く見せず、そもそもその様なことを思う事もなく、イツキの言葉に同調した。


「何か掴めましたか?」

「そうだな…いくつか可能性は考えられるが、これといったものが……」


 思いの外イツキが受け答えをしてくれることに、ソフィアは少し意外さを感じつつもやはり喜びが強く、このまま話続けられたらと思うも、ギルドは目視できるほどに近づいていた。

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