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来客 4

 寺田はオットーらメカルク公国の使節団を、「駿鷹」の飛行甲板上へと連れ出した。


「あれをご覧ください」


 寺田はオットーに双眼鏡を渡して、湾の一角を見るよう指示する。そこには、偽装を解いて予備艦となっている旧式巡洋艦「耳成」と、それとは対照的に白い塗装の艦艇が2隻並んで停泊していた。


 その2隻を見たオットーが、またも目を丸くする。


「あれは、マシャナの軍艦ではないですか!?私は軍艦に詳しい方ではないが、それだけはわかりますぞ」


「そうです。あれは正真正銘マシャナの軍艦です」


「ということは、あなた方は我々を罠に嵌めたというのか!?」


「まさか。その逆ですよ。あれは我々がマシャナとの戦いで得た戦利品なのです」


「マシャナから奪ったと!?信じられない」


 オットーの二人の部下、ライロとミーナも同じく信じられないと言う顔をしている。


「お望みなら、捕虜としたマシャナ兵が働いている所もお見せできますよ」


「なんと。マシャナ兵を働かせるなんて!」


「言っておきますが、別に虐待しているわけではないです。我々の世界では保証されている捕虜の使役権を行使しているにすぎません」


 寺田は自分たちは残虐行為をしているわけでないと強調した。しかし、オットーの驚きは別のところにあった。


「いえ、そうではありません。あなた方はマシャナが恐ろしくないのかと思いまして」


「恐ろしいも何も、相手についてわかっていることは少ないのです。彼らの方からも、接触はしてきませんので」


 マシャナという国については、トラ4032船団側は断片的な情報しか得られていなかった。捕虜の証言や、捕獲した海図や地図などから、瑞穂島の北西にある広大な大陸にある帝国、ということくらいしかわかっていない。


 海戦からしばらくの間は、さらなる報復も警戒されていたが、結局のところあれからマシャナ軍は艦船どころか、飛行機の1機すら姿をあらわさない。こうなると、トラ船団側も接触のしようがない。こちらから出ていくには情報も資源も不足気味なので、下手な行動はできないでいた。


 ルリアの故郷のラネ村の捜索も行われたが、敵との接触があったため、それ以後は取りやめられている。


「キャプテン・テラダ。異世界についてはともかくとして、我々はあなた方が交渉するに値する力を持っていると、これで納得できました。つきましては交渉を再開したい」


「我々もそれを強く望みます」


 どこまで信頼を得られたかはわからなかったが、少なくとも見せる前よりは好感度が上がったらしい。オットーの上気した顔を見ても、それは明らかであった。




「まず、あなた方メカルク公国についてお教え願いたい。我々はこの世界の地図を入手してはいますが、何分にもこの世界に対する知識が不足しています」


 マシャナの軍艦を拿捕したさいに、かなりの数の海図や地図を入手していた。その中にはこの世界の世界地図も当然含まれていた。ただしそれは大雑把な物でしかなく、それぞれの国の国名や内情など、わからないことだらけであった。


「我がメカルク公国は、ここより北東に位置するメカルク諸島に存在する島国です。ここになります」


 オットーは世界地図の中から、一つの諸島を指さした。そこは地球で言えばハワイ諸島付近であるはずの海域だ。しかしながら、この世界地図には確かに四国と同程度の島を中心に、いくつかの島々を含んだ諸島が記されていた。


「この一番大きな島が首都ハナルのあるカウワ島になります」


「公国と言うことは、王がいるということでよろしいですな?」


「我が国は現在、大公リエル陛下が収めています。その下に評議会パリアトがあり、政治を行っています」


「なるほど。人口はどの程度で?」


「600万人です」


「600万ですか」


 それなりにいるなというのが、寺田の感想であった。


「あなた方は、マシャナと敵対しているのですか?」


「今はまだ戦っていません。しかしながら、彼らは我が国にも服属するよう要求してきております。このたび、我々がエルトラントに向かっていたのも、それに対処するために交渉を行うためでした」


「しかし、エルトラントは既にマシャナの攻撃を受けていますが」


「もちろん、それは我々も把握している所です。それ以上は機密であるので申し上げられません」


 エルトラントはマシャナの攻撃を受けているにも関わらず、行くだけの理由がある。それが何であるかはわからないが、よほどの重要事だったのかもしれない。


「わかりました。それで、あなた方は今後どうなさるおつもりですか?」


「まずは「アートラン」号の修理を行います。その上で、メカルクに戻るつもりです」


 真面目にオットーはそう口にしたが、寺田らには逆に驚きであった。


「失礼ながらオットー使節。あなた方の船は、ボロボロだ。修理できる見込みはあるのかね?」


「それは・・・誠に心苦しいのですが、アドミラル・テラダ。是非ともあなた方の支援をいただきたい。我々だけではとても手に負えないので」


「ですが、我々でも修理できるかわかりません。仮に修理できたにしても、あの様子では短時間では無理ですぞ」

 

「アートラン」号の修理を手伝うのはいいが、異世界の船である。予備の部品などあるはずもない。先日の「快風」のように、部品取り用の船から部品を流用できる可能性もなくはないが、かなりの時間を要するのは目に見えている。


「やはりそうですか。通信機も破損しており、現状報告のためにも早急に母国に戻らなければならないのですが」


「でしたら、我々がお送りするというのはどうでしょう?」


 大石参謀が提案すると。


「そうだな」


「船はあるからな」


「だけど貴重な燃料を消費するぞ」


「それは向こうに請求すればいいだろ。こっちにも重油はあるんだから」


 他の関係者がそれぞれに意見を言い合う。一気に喋り出したのだから、ルリアも川島も通訳することができない。


「おいおい、皆いっせいに話してはオットー使節らも驚くだろ。失礼した。オットー使節としては、どうかな?」


「それは、送っていただけるならありがたいですが。しかし」


 彼らからしてみれば、まだ本当に信用していいのかわからない相手である。彼が言葉を濁すのも当然であった。


「指揮官。送るのであれば、こちらとしても派遣する艦艇や人員の抽出、さらには相手への要求を考えねばなりません。ここは一端休憩を挟んではいかがでしょうか?」


 大石が休憩を提案した。確かに、寺田としても即決していい事項ではないだろう。


「それもそうだな・・・オットー使節。こちらでも詰めたい話があるので、ここは一端休憩としましょう」


「そうですね。それがよろしいでしょう。その提案、ありがたくお受けいたします」


 ここで両者は交渉を一端止め、それぞれ別室で休憩と言う名の自分たちの考えをまとめる時間に入った。



「寺田司令、本気で彼らを国まで送るのですか?」


 別室に移動すると、まず長谷川副司令が尋ねてきた。


「副司令は不服かな?」


「まさか。海に生きる男として、困っている人間を助けるのは当然です。それに、未知の海へ航海するのも楽しそうではないですか」


「副司令がそう思っているなら心強いよ」


「しかし、現実的に考えますとただ送るだけでは割にあいませんよ」


 大石参謀が意見を口にする。


「我々は今のところまだ大丈夫とはいえ、燃料にしろ食料にしろ余裕がありません。相手方から、それなりに提供していただきませんと」


 彼の言うとおり。トラ4032船団の手持ち物資は目減りし続けている。その代替分確保に心血を注いでいるとはいえ、充分とは言えない。その状況下で長距離の航海を行うのであれば、それなりに見返りが必要だ。


「もちろん、私だってそれは要求するつもりだ。ただ要求し過ぎれば、相手の心象を悪くする。だからこそ、こうして打ち合わせしているんじゃないか」


「まあ往復分の燃料と、それから食料を提供してもらえれば御の字では?」


 岩野艦長が口にする。


「対価としてはその辺りが妥当だと思います・・・指揮官、派遣するのは巡洋艦の「蔵王」と輸送船の「東郷丸」が妥当だと思います」


「参謀、見栄えなら確かにその2隻だが、燃料消費量も大きいぞ」


 大石の提案に長谷川が口を挟む。「蔵王」は重巡洋艦、長谷川が船長を務める「東郷丸」は比較的大型の貨客船だ。長距離航海向きだが、燃料消費量もその分大きい。


「それは承知していますが、小形過ぎると相手になめられてしまいますよ。それに、万が一を考えますと、装備が充実しているふねの方がいいです」


 万が一とは事故や敵の襲撃のことだ。それを考えるなら、出来る限り良い船を出すに越したことはない。


「大石参謀の言うとおりだね。派遣するふねや搭載する物資、それからこれは一種の外交使節にもなるから、人員も考えねばいけないね」


 国家への訪問となるから、単なる送迎にとどまらず一種の外交となる。そうした点も慎重に勘案しなければならない。


 その後小1時間、寺田らは派遣する船や人員、さらには派遣に当たっての目的などの詳細を詰めていった。


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