来客 3
「ほう、あれがそのメカルク公国とかいう国の船か。故障を起こしたと聞いたが、確かにあれなら故障もするだろうな」
紺碧島で「音無丸」がメカルク公国の使節団を乗せた船、後に判明した所では「アートラント号」と接触してから4日が経過している。その彼らが、今日ようやく瑞穂島に入港したのであった。
これまで島内の原住民や、侵攻してきたマシャナ軍、或いはルリアのような救助した人間との接触はあったものの、こうして平和的に外からの人間、しかも外交関係者を迎え入れるのは初めてだ。
この記念すべき事態に、日本国では迎え入れのための緊急準備を行った。礼砲の用意や、久々に第二種軍装を着こみ、急ごしらえの軍楽隊が編成され、一部の艦艇には飾りまで行われた。
正体不明の国家に対して、ここまでするのかという声も大きかったが、異世界初の親善訪問だけに、寺田は準備を推し進めた。
ただし、本来であれば歓迎は前日に行われる予定だった。「音無丸」に案内された「アートラント号」がエンジントラブルを起こさなければ。
「アートラント号」の乗員たちは修理を試みたが、結局海上では修繕不能となり、やむなく「音無丸」に曳航されての入港となった。このために、当初の入港予定日より1日遅れての入港となってしまった。
大げさな準備をした割には、色々と番狂わせな展開となってしまったが、とにかくメカルク公国の使節団を無事に受け入れることが出来た。
停泊中の艦が礼砲を発射し、軍楽隊が軍艦マーチを吹奏する中、入港した「アートラント号」は指定された地点まで曳航され、そこで錨を入れた。
そしてまず、瑞穂島から迎えの内火艇が出され、「アートラント」号の賓客を迎えに言った。これは瑞穂島の埠頭整備がまだ出来ておらず、沖合に停泊させるしかなかったことによる処置だ。
とは言え、直接降りてくるよりも時間的に余裕が持てるとので、今回に限ればデメリットばかりとも言えなかった。
「それじゃあ、ルリア嬢。よろしく頼むよ」
「は、はい!」
使節団を待つ寺田の横には、仕立ての良いワンピースを着こんだルリアの姿があった。メカルク公国の使節団がエルトラント語を使えると言うので、川島中尉とともに通訳として駆り出されたのであった。
使節団と会うということでか、彼女は珍しく緊張気味であった。
そして、そんな彼らの前に使節団を迎えに行った内火艇が帰ってきた。簡単な桟橋に内火艇が付くと、まず艇を指揮していた士官が降りる。その士官に敬礼されて、使節団一行が降りた。
ローブを着た3人組。ただし顔を出しているので、その3人ともが若いこと、そして内一人が女性であることはすぐにわかった。
「ようこそ日本国へ。私は日本国の政府代表である寺田中将であります」
ルリアは寺田の日本語をエルトラント語に訳して伝える。すると、相手も口を開いた。
「○△□」
そのエルトラント語を、今度は逆にルリアが日本語に直して寺田に伝える。
「歓迎感謝します、寺田司令官。私はメカルク公国使節団団長の、外務省特使ハインス・オットーです」
「オットー特使。遠路はるばる我が国にお立ち寄りいただき感謝いたします」
「我々はあなた方について何も知らない。是非とも色々とお教え願いたいのですが」
「もちろんです。では、会談場所へ参りましょう」
すると、寺田は桟橋の方へと歩き出す。
「寺田司令官。そちらは、海ですが?」
オットーはじめ、メカルク公国の使節団面々は顔を見合わせる。
「オットー特使。陸に上がったばかりで誠に申し訳ないが、会談場所は海の上なのです」
寺田が少し頭を下げる。
「「「!?」」」
使節団一行はギョッとした。陸上で会談を行うとばかり考えていたのだから、当然と言えば当然の反応である。また長期間船の上にあったので、動かない地面を彼らが渇望していたというのも大きい。
その気持ちは船乗りである寺田にも理解できたが、会場が陸ではない理由はちゃんとあった。
残念そうな表情をする使節団とともに、寺田たちが向かったのは軽空母の「駿鷹」である。その会議室が、今回の会談場所となっていた。
どうして会談場所が陸上ではなく、艦艇の上になったかといえば、これは陸上の施設の貧弱さが大きい。瑞穂島の各施設は建設が続けられているが、外国の使節団をもてなすだけの設備はまだなかった。
むしろ、こうした使節団をもてなす場としては、軍艦の方が適当であった。戦訓対策から可燃物の揚陸や、舷窓の埋め込みなどによって大分殺風景になってきてはいるが、それでも会議室は階段を行うにはちょうどいいスペースとなるし、最低限の調度品もある。
さらに言えば元が客船である「駿鷹」の場合は船全体の設計に余裕がある。加えて、通風設備や冷房設備もあるので快適性も高い。
燃料食いの軍艦は、節約のために現在は最低限の運転と維持人員のみが残されていたが、今回は会談のために臨時でこうした設備を稼働させた。
内火艇が「駿鷹」に近づくと、使節団の3名から声が上がる。
「これはどのような軍艦ですか?見たことのない形をしています」
「これは航空母艦。海上で飛行機を飛ばすための船です」
「飛行機を?水上機ではなくてですか?」
「そうです。車輪のついた飛行機を飛ばす軍艦です」
ルリアと川島中尉を挟んで、寺田はオットーに空母の機能について簡単に説明する。すると、彼は目を輝かせる。
「スゴイ。そんな軍艦があるなんて。我が国どころか、世界のどこも持っていないものですよ」
「この世界には空母はないのですか?」
「少なくとも私の知る限りはありません」
この世界にどのような軍艦があるかについては、マシャナの捕虜などから聞き取りを行っている。その中で、空母についての証言は得られていなかった。ただし得られていないからと言って、存在が全否定できるわけではなかった。
今のオットーの一言は、寺田たちにとって重要な言葉であった。
「どのような飛行機を積んでいるのですか?」
「それについては、またの機会にしましょう。もう到着なので」
内火艇が「駿鷹」のタラップに到着したため、会話は一端中止となった。寺田に先導される形で、使節団の一行は艦上に上がる。
「捧げ銃!」
乗員による歓迎の栄誉礼を受けつつ、使節団一行は甲板への第一歩を踏みしめる。
「ようこそ、航空母艦「駿鷹」へ。艦長の岩野圭二大佐です。皆様を歓迎いたします」
やはり第二種軍装をしっかりと着こんだ岩野艦長が艦を代表して彼らを歓迎し、今度は彼が先導する形で会議室へと向かう。
会議室の机には白いクロスが敷かれ、急ごしらえながら会談の場として整えられていた。
使節団の3人と、通訳として川島中尉が右側に座り、正対する形で左側に寺田や長谷川副司令官、大石参謀ら日本国の代表者と通訳としてルリアが座る。帽子を被っている者は脱帽し、机の上におく。
「では、改めまして。私が日本国の政府代表であり、この艦隊の司令長官である寺田光之助。コウノスケ・テラダと言った方が良いでしょうか。皆様を歓迎いたします」
「改めての歓迎ありがとうございます。アドミラル・テラダ。私はメカルク公国使節団団長である、外務省特使ハインス・オットーです。こちらは部下のライロ・シュベルクと、ミーナ・アウロラです」
ハインスは自分の右側に座った長身の男と、左側に座った若い女性の随員を紹介する。
「さっそくですが、アドミラル・テラダ。日本国とはどのような国でしょうか?少なくとも私はそんな名前の国を聞いたことがありません。また、この大艦隊はなんでしょうか?マシャナの軍艦でないことはわかりますが、一方で私の知る友好国の艦とも違います。あなた方は一体何者で、どこから現れたのですか?」
「それについては、順を追って説明しましょう。信じられないでしょうが、いや我々自身信じられないことですが、我々はこの世界の人間ではないのです」
寺田は順に自分たちが異世界の軍隊であること。予想外の事故でこの世界に飛ばされたこと。この島にたどり着き国を建国したこと。その間にマシャナと戦闘を行ったこと、そして今回メカルク公国と接触したことを説明した。
「異世界からですか。俄かに信じられませんな」
やはりオットーは信じられないらしい。当たり前と言えば当たり前である。
「我々自身信じられません。しかし、それは事実なのです」
すると、ミーナが何事かをオットーに小声で話しかける。
「彼女はなんと言ったのですか?」
「いや、その・・・アドミラル・テラダ。異世界から来たかどうかは別にして、まずはあなた方が我々の敵でないことを証明していただきたい。失礼ながら、我々から見るとあなた方はマシャナ人によく似ているので」
マシャナ人の外見は確かにアジア系なので、彼らがマシャナと敵対しているなら、確かに外見から嫌悪感を覚えるかもしれない。
「なるほど。確かに、まずは我々が少なくともあなた方の敵でないことは、証明した方がよろしいですな。いいでしょう。では、艦の外へいったん出ましょう」
「よろしいのですか、指揮官?」
大石参謀の言葉に、寺田は笑って答える。
「いいじゃないか参謀。変に隠すと余計に相手を疑わせるぞ」
「しかし、機密などは」
「仮に罠にしても、彼らは我々の手中にある。その時はその時さ」
寺田はそう言うと、脱いでいた帽子をかぶりなおした。
御意見・御感想お待ちしています。




