第1話
銀色に光る飛行機が、白くて長いうんこをぶらぶらさせながら空に浮かんでいた。あれは飛行機雲って言うんだよってお母さんが教えてくれたけど、私は今でもあれを、やっぱりうんこみたいだなあって思っている。
小学生の頃、教室で飼っていた金魚がムダに長いうんこをしながら泳いでいてみっともなかったけど、まさしくそんな感じ。
「眞心ちゃん、見てみ、飛行機がうんこしてるで」
そう言うと、この春一年生になったばかりで、まだ脳みそがふにゃふにゃしている妹の眞心は、丸い顔をさらに風船みたいに膨らませて「ほんまや、うんこしてるう」と笑った。
小さい子はうんこと言っただけで笑うので面白い。
私も小さい頃はこんな風やったんかな。
楽しかったことってあんまり覚えてないし、写真の中の私の顔は、心霊写真みたいにぶれているか、つまらなさそうにふてくされているかのどちらかしかないので、よくわからない。
「トッガミッキタ、トッガミッキタ、トッガミッキタ、トッガミッキタ」
眞心がまた歌いはじめた。トガミキタを繰り返して、そこにオリジナルのリズムとメロディをつける。歌うたびにメロディラインは変わるので不安定だけど、私も眞心の歌うのに合わせて頭の中でトガミキタを繰り返していた。
家を出るとき、絶対忘れたらあかんでと何度も眞心に言っておいたので、河内長野駅に到着するまでの道すがら、ずっとこれを繰り返している。駅に着くころには、二人とも「トガミキタ」がもう口癖みたいになっていた。
駅舎が見えてきたとき、ふわふわと柔らかい眞心の小さな手をもう一度しっかりと握り直し、今朝、まだ酔っぱらっていないお父さんが言っていたことを、おさらいのつもりではじめから思い出してみた。
「トガミキタっていう駅やで。河内長野で切符買うとき駅員さんに聞きや。トガミキタに行きたいって言うたら、ちゃんと教えてくれるからな」
駅は、大勢の大人たちが慌てて改札を出たり入ったりしていた。みんなすごく急いでいる。お父さんは駅員さんに聞きやと言ったけど、駅員さんは私みたいな子どもを相手にするほど暇じゃなさそうだった。
それに中学生にもなって一人で電車にも乗れないのかと思われるのも、かっこ悪い。
だいたい大人は親切そうに見えるけど、本当に心配しているわけじゃない。もしかすると世界中探したら、なかには心から親切な大人もいるかもしれない。でもそれはほんの一握りの人たちだけだと思うし、私はそういう大人にまだ出会ったことがない。
見返りがなければ損をしたと思う人たちばかりだということを、中学生になったばかりの私でもちゃんと知っている。




