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血染物語〜汐原兄弟と吸血鬼〜  作者: 寝袋未経験
誰そ彼編

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緊急招集

 吸血鬼が人前に初めて姿を見せた時期について、公的な記録は無い。

 1888年のイギリス陥落は世界吸血鬼対策局、通称GAVAの設立のきっかけとはなったが、始まりではない。

 それ以前から、遠く離れた日本にすら「血を喰らう物の怪(もののけ)がいる」という噂が届くほど、吸血鬼の存在は周知されていた。


 そうした中、1994年──

 アメリカ在住のとある専門家が実家の遺品整理中に、鞣した皮で綴じられた古い手記を見つけた。

 革はボロボロになり、どのページも殆ど読めない状態だったが──


 最後のページ。

 血の滲んだ最後のページに記載された一文が、彼の眼に止まった。


『突如広がった夜天と共に、人の形をした血染めの異形が姿を現した』


 始まりは1431年5月30日、フランスの都市ルーアン。


──────────────────────


 20年前の旧本部襲撃以降、目立った動きを見せてこなかった第1席『王の剣』ファルシオ。

 そんな彼による白銀兵団への襲撃。

 これを受け、世界吸血鬼対策局ワシントン本部は世界中に点在する27の支部の長と、それに連なる者達に緊急招集をかけた。


 そして、日本時刻にして9月19日17時37分。

 日没前──


 本部に駆け付けたのはイギリス支部、バージニア支部、トロント支部にカイロ支部、そして襲撃を受けたノヴォシビルスク支部の重役達。

 総勢20名が、緩やかな弧を描くように並べられた長机に腰を下ろし、その他日本を含む22の支部は画面越しに顔を合わせる形となった。

 必要最低限の権威を持つ者達だけが、その場に集結する。


 その中央──

 自然と皆の視線が集まる場所に、彼は立っていた。


「──始めようか」


 GAVAの創設者は四名。

 彼等の血筋は後に四大名家としても広く知られるようになり、今のGAVAを牽引する者達の多くも四大名家の出身である。


 彼もまた、その一角──

 名はレグルス・レオンハート。

 齢49で、既にレオンハート家当主と同時にGAVA局長、ワシントン本部本部長までも兼任する傑物。

 肩書通りの最高責任者である。


 皆の視線を一身に受ける彼の表情や立ち振舞は、一切の緊張を悟らせない。

 榛色(はしばみいろ)の瞳は、見た者次第で安心感と威圧感という相反する物を感じ取らせる。

 レオンハートの紋章、王冠を身に着けた獅子の装飾が施されたネクタイピンが、彼の胸元で輝いていた。


「まずは緊急にも関わらずお集まり頂き感謝する。それでは早速、文書上で伝えた通りにはなるが、改めて現状の共有を」


 レグルスが言い終えるのと同時に、彼の背後のモニター、そして支部長達の画面に一枚の写真が添付された文書が表示された。

 写真に写るのは剣を携えた1体の吸血鬼の後ろ姿。


「まず確認だ……生き証人はそう居ないのでな。この個体が『王の剣』で間違いないな──アリシュエーラ」

『……はい、間違いありません』


 アリシュエーラと呼ばれた人物は、画面越しにレグルスの問いに応えた。

 レグルスは「そうか」とだけ呟き、今度は金髪と碧眼を持つ童顔な男へ視線を向けた。


 ミハイル・カイノビッチ・レージライタイ──レグルスの視線の先に座る男の名である。


 先代本部長であるユリウスの実弟にして、ノヴォシビルスク支部支部長を務める。

 今年で35を迎える筈の彼の顔にはシミやシワもなく、スラリとした手足も相まって中性的な印象を覚えさせた。


「レージライタイ支部長……報告を──」

「……その前に少しよろしいか、局長殿?」

「む?」

「先程の発言……些か配慮が足りていないのでは? 彼女は既に日本へ帰化し、相応しく……そして、美しい名を得ています。呼ぶのでしたら──」


 アリシュエーラ・ユリウソヴナ・レージライタヤ──

 かつての本部長ユリウスの娘、即ちミハイルよ姪にあたる。

 そして現在は、日本支部支部長である御手洗徹雄の養子。

 そんな彼女に与えられた名前、それこそが──


()()()()()と、そう呼ぶべきでは?」


 ミハイルはレグルスへ、そう異議を唱えた。


「正確には、御手洗人造吸血鬼部隊総隊長……で、あっているかな? 御手洗支部長殿?」


 ミハイルは、画面越しの御手洗支部長こと徹雄に向けて尋ねながら、『してやったぜ』と言わんばかりに特大のウインクをバチリと放った。

 対する徹雄は、笑う訳でも蔑む訳でもなく、ただ静かに頷いた。


「あぁ、訂正感謝する」

「ふっ、今も昔も寡黙な御仁だ。流石は『銀双(ぎんそう)』……初代『六熾翼(ろくしよく)』の生き残り、っと無駄話が過ぎましたね」


 ミハイルは正面のレグルスへ視線を向けて謝罪を述べた。

 そして、すぐさま資料を手に取る。


「今回の一件で二等兵60名、一等兵83名……そして『六熾翼』の一人も死亡。加えて対吸血鬼軍用装甲戦闘車ブラックパンサー8機の破壊──」


         ダンッ!!!


 ミハイルの言葉を遮るように、誰かが机を叩いた。

 音のした方向へミハイルが視線を向けることはなく、それでも誰がやったのか彼には見当がついていた。

 

「ラサラス殿すまない。貴方の気持ちは理解出来るが──」

「なら聞け、若作り」

「……なんだと?」


 穏和な雰囲気から一転。

 ミハイルは右隣、屈強な男女に挟まれる形で座る小柄な青年を睨みつける。


 ミハイルの放つ殺気で場が凍りつく中、青年は全く意に介さない。

 それどころか『王の剣』や『白銀兵団』に関する資料にも一切目を通さず、手元の論文をペラペラと眺めていた。


 青年の名はラサラス・レオンハート。

 GAVA技術開発室室長を務める。

 アメリカ本土の第一の盾としてノヴォシビルスク支部同様、常に激戦区での戦いを強いられるイギリス支部の所属。

 彼無くしてGAVAは無いと言わしめる程であり、ドクターこと御手洗総一郎にも比肩する天才──


 そして、レグルスの実子でもある。

 父より少し明るい髪色の彼は、論文に落としていた父と同じ榛色はしばみいろの視線をミハイルへと向ける。

 ミハイルから向けられた怒気、殺気の中で、ラサラスは鼻で笑った。


「フン。怒り通り越して、もはや呆れだな。古びた過去の文化を変えようともせず……そのせいで、どれだけの犠牲が出た──」


 ラサラスの言葉にも怒気が籠り始める。

 右腕で頬杖を付いた姿勢のまま、ミハイルを睨みつけた。


「僕のブラックパンサー達を返せ」


 その場に居た皆は思った。


(((((犠牲って、兵器(そこ)の……?)))))


 ミハイルは首を振り、「やれやれ、呆れたのはこっちだ」と言わんばかりの表情と仕草を前面に押し出した。


「全くもって的外れな意見だ。すぐに壊れる欠陥品を提供したのは君だというのに。むしろ、私の経歴キャリアに傷が付いた件について責任を取って頂きたい」

 

 仲間達の犠牲より、それによって傷付いた経歴に対する責任の追及。

 ミハイルの意見にその場に居た皆が思った。


(((((言っちゃうんだ、こういう場で)))))


 特に合図は無かった。

 だが殆ど同時に、両支部の誇る精鋭が動き出し──


「「待て」」


       ガチャン!!!


 ミハイルとラサラス──

 お互いの眉間に、銃口が向けられた。

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