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血染物語〜汐原兄弟と吸血鬼〜  作者: 寝袋未経験
誰そ彼編

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39/40

『王の剣』

 もうね。

 毎週投稿とか言ってる場合じゃない。

 お仕事って大変ね。

 帰ってきたら寝るしかできない。

 休日も色んな書類作業があって、皆はいつ書いてるの?

 賢い時間の使い方を教えてください。

 ぽんぺんとーぞ(脳溶けた)

 GAVA日本支部の地下で、レイアが汐原輝を制圧したのとほぼ同時刻。

 9月19日の午前2時13分──

 場所は旧モスクワ地区、肌寒さを感じる夜空の下だった。

 かつての大都市は酷く廃れ、今は硫黄の腐卵臭ばかりがこびりつく。

 草木も朽ち果て、獣すら立ち寄らない死の大地。


 其処に無数の軍幕テントが立ち並んでいた。

 さらに廃墟を拠点として、銃を傍らに置いて休息を取る人々の姿があった。

 彼等はGAVAノヴォシビルスク支部直属『白銀兵団』──

 対吸血鬼の最前線で戦う人々である。


 かつて子供部屋として使われていた形跡の残る部屋を拠点とした二人の若き兵士達は、枠だけになった窓から外の様子を眺めていた。


「胸と尻どっち派?」


 ソバカスの兵士の問いに、目つきの鋭い兵士は大きく溜息をつき、そして答えた。


「尻」

「は? なんで?」


 まるで男子高校生のような猥談だが、それもその筈──

 彼等はそれぞれ17歳と18歳。

 一兵士として国に招集され、銃を手に、戦場に立たされていた。


 だが彼は国を恨んでなどいない。

 むしろ、誉れだった。

 生まれながらに吸血鬼と隣り合わせの生活、愛する人々を守れるなら本望である、と。


 そういう『教育』を受けてきた。


 そんな彼等が戦場で巫山戯ているのは、その夜を楽しく明かす為──

 長年の教育の成果物すら薄れさせる程の、危険な任務を熟す為だった。


 彼等は今、今際の際に立たされている。

 ヨーロッパを占領した吸血鬼達は、常に西の森から侵攻してくる。

 そして西の森には、今も多くの吸血鬼が潜んでいるとも言われている。

 気を抜き、一度眠りにつこうものなら、それが永遠の眠りなんて事になりかねない。


「任期終了まであと3ヶ月だけど、終わったら何するよ?」


 ソバカスの兵士が尋ねると、目つきの鋭い兵士は少し自身無さげな声で答えた。


「……大学で……医学を学びたいかな」

「医学? まさか……戦場(ここ)に戻る気か?」

「戻れるならな……ッ! 誰か来たぞ」


 150名の白銀兵団の中で、森の奥から姿を現した人影を最初に目撃したのは彼等だった。


 剣帯から吊るされているのは大した装飾もない無骨な剣。

 右腰の鞘が、彼が歩く度に揺れていた。

 そして黒の詰襟軍装、細身の下衣、黒革の長靴。

 余計な装飾は無く、夜闇に溶けてしまいそうな程だった。


 そんな機能美を台無しにするように、左腕は紅く、金色の装飾が施されたマントによって隠されていた。

 だが同時に、彼がどんな存在であるかを象徴し、兵士達を震え上がらせる。


 頭髪は見事な金色であり、見る者の視線を奪った。

 その瞳もまた、夜闇の中で金色に輝いていた。

 吸血鬼、しかも単なる1個体ではなく── 


「ファルシオ……」


 GAVAに所属する者で──

 否、この世界でその名を知らない者などそう居ない。


 モスクワにはかつて、GAVA本部が存在した。

 それが今や廃墟となっているのは、20年前にも奴が此処に現れたからだった。


 そして本部長であったユリウス・カイノビッチ・レージライタイ、その妻で研究所長のエレオノーラを殺害した張本人。


 与えられた二つ名は『王の剣』──

 ヴラドに仕える眷属の頂点に立つ存在──

 第1席に座する王の懐刀である。


「す、すぐに、兵長に……伝え──」


 ファルシオが、左肩からマントを外した。

 留め具が付属するマントは、重力に従って地面に落ち──

 

 それが開戦の狼煙となった。


──────────────────────


 そこからは早かった。

 情報が伝達するよりも素早く、ファルシオは荒廃都市ごと白銀兵団を蹂躙した。

 引き金を引くよりも速く敵の頭部・心臓を破壊し、兵器は機能する前に破壊した。


 時間にして5分──

 仕事を済ませたファルシオは、太陽を避けるようにその場を後にした。

 最後に残ったのは150名の兵士達の亡骸だけ。

 たった1体の吸血鬼の出現が、無数の未来を摘み取った。


 日の出後、モスクワへ駆け付けた歴戦の猛者達は、戦いの痕跡を一目見て、そして口を揃えて語った。

 「奴は一度も剣を鞘から抜いていないだろう」と。

 徒手空拳のみで白銀兵団は壊滅させられたと、顔をしかめてそう答えた。


 だが矛盾も生まれた。

 今回破壊された兵器、対吸血鬼軍用装甲戦闘車ブラックパンサーを作り出した技術者達は、外装に刻まれた斬痕を指差して口を揃えた。

 『もし剣を使っていないのなら、この傷はどうやって生まれるのだ』と。

 連続した攻撃によるものではなく、一太刀。

 内部の配線から操縦者まで斬られていた。

 いくら血を纏わせて切断能力を上げた剣でも、操縦者にまで到達させるのは物理的に不可能な筈だった。


 その答えはすぐに判明した。

 瓦礫に押し潰されたソバカスの若き兵士が、最後の気力で戦いを記録していた。


 用いられたのは血液操作。

 

 "飛ぶ"血の斬撃が兵器を縦に両断していた。

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