第四十七話
巨大な蜘蛛がのたうち回っている。
三日月ナイフを構えたボクは、とにかく巨大蜘蛛に近付いてくるワームを手当たり次第に切り裂いていった。普通の生き物ならば、自分より強者に立ち向かう前に多少なりとも様子を探るし、戦いになっても、不利と分かれば逃げ出そうとするが、こいつらは無機物、ただ機械のように前に向かってくる。しかも魔導術が効きにくく、直接、物理的に潰していくしか対処の仕様がないのだ。
筒状の口部分から出される粘液は溶解性なので浴びるとやっかいだが、それは全て躱しつつ、こちらが一方的に蹂躙していく。両断してしまえば、攻撃は止む。なので一匹に対しては一撃で構わないのだが、なにせ数が多すぎる。引き下がらないのだから、殲滅するしか方法はない。
後を見ると、後退した巨大蜘蛛に取り付いたワームを、あの光の塊が剥ぎ落としていた。ポッカリと開いた傷跡一つずつには、ライトニングヒールにも似た回復術を施していく。落とされたワームは巨大蜘蛛が一匹ずつ足で踏みつけては潰している。どうやら間に合ったようだ。
後方が安全になりつつあると分かれば、あとは文字通り虱潰しだ。
囲まれてしまわないように注意を払いつつ、上方からの攻撃にも対応していく。機械的にしか攻撃してこないので、どうしてもこちらの攻撃も作業になってしまう。緩慢になりつつある意識を集中し、維持し続けなければならない。
一体どれぐらいの時間が経ったのか、感覚が麻痺してよく分からない。既に千体以上のワームを駆除し、残りはごくわずかである。もう一息、と思ったその時、後方から閃光が瞬き、残りすくなくなっていたワームたちの後方に着弾した。
その瞬間にボクにはハッキリと見えた。明らかに他のワームよりも巨大なその一体を。
「あれを始末しなければ戦いは終わりません。マザーワームです」
閃光を放ったのは巨大蜘蛛だ。
そしてボクに語り掛けてきたのは、巨大蜘蛛の傷の処理を終えたあの光の塊だった。
閃光は、奥のマザーワームを直撃したが、ダメージを与えた様子はほとんどない。マザーワームの存在とその場所を特定するために放ったのだ。
「分かった。それじゃあ、残りの雑魚はお願いする。ボクはあの親玉を倒してくるから」
それだけを伝える。
残りの雑魚は無視して、一直線にマザーワームに向かう。鎌首をもたげているので、正確な大きさは分からないが人の五人分ほどはありそうで、人の頭ほどある大きな口から溶解液を垂れ流している。
一足飛びに近づき、ナイフで斬りつける。傷は付くものの、大きなダメージには至らない。斬撃に衝撃波を乗せる――ソニックブーム――で切りつけても致命傷にはならず、切りつけたところは瞬時に溶解液を吹きかけ、周囲を溶かして埋めてしまう。これでは埒が明かない。
「やれやれ、使いたくはなかったけど、使うしかないみたいだね」
ボクはひとり呟く。
後退しながら、ファイヤボルトを放ち、もたげている鎌首をなるべく一直線になるように、注意を引きつける。もちろんダメージは期待しない。一直線になった瞬間を狙って、手を引き伸ばし、マザーワームのお尻に手をかけると、腕をぐるぐると二十回ほどまわす。相手の身体に細く引き伸ばされた手が螺旋状になったのを確認すると、さらに腕を細く引き絞ったまま、硬化皮膜を展開して手前に引く。
スパっという音がして、マザーワームは二十数個の塊になった。
後ろの一人と一匹は唖然としたようだったが、あの光の塊は、無理を承知で、付いてきてもらって正解だったとでも言いたげだ。
「すごい技ですね。なんという魔導術なのですか?」
そう尋ねてきた。
腕を元に戻しながら、彼らに説明したところで、他に漏れる心配はないと、思えたが、やはり他に漏れると後がやっかいだ。ボクにしか使えない特別な魔導術だと、適当にごまかすと、二人も何となくだが納得してくれた。
「あ、まずはお礼から言わなければなりませんね。助けていただいて大変ありがとうございました。ちょっと無理してお連れしてしまって申し訳ありませんが、あれぐらいしか方法を思いつかなかったのです」
光の塊は、お礼を言いつつ謝ってきた。
光の塊は、ここ数日の洞窟調査で、ボクの気配は察知していたという。
「あのままでは長くは持ちませんでした。彼女があなたを連れてきてくれて命拾いしました。お礼のしようもありません。ただただありがとうございました」
巨大蜘蛛が言葉を喋った。
それにびっくりもしたが、明瞭にお礼を述べるわけだから、それなりの知性もあるわけだ。
二人は大の仲良しで、洞窟内で遊んでいたのだが、ついうっかりレギオンワームのテリトリーに入り込んでしまった。攻撃を受けたが、光の塊の方は魔導術は得意だが、物理攻撃はそれほどでもない。あれよあれよと言う間に巨大蜘蛛にはワームが取り付いていく。
このままでは友達がワームにやられてしまうのは時間の問題だ。なんとかしなければと、助けの手を借りてはと思い付いた。しかし、この洞窟の中だ、自分たちの仲間がいるところまで助けを呼びにいく時間の余裕はどう考えてもない。気配を探ると、洞窟の調査をしているボクの存在に行き当たった。
光の塊は巨大蜘蛛に、例の閃光を上方の階層にいるボクの方向に向かって放つように言う。閃光は洞窟の天井をえぐり、大きな崩落を引き起こした、という訳だ。
「かなり手荒な方法だったと、改めてお詫びを申します。ですが、あの程度の地割れでもあなたなら大丈夫だと分かっていたのです」
光の塊の方は言う。
「まあ、三日ほどは調査でこの洞窟に入っていたし、気配も察知していたのだがら、強さを推し量る程度はできるだろうね。ボクがSランクの冒険者、とまでは気が付かないにしても、洞窟調査はそれなりのレベルがないと難しいからね」
ボクが言う。光の塊は首を振ってボクに再度謝ってきた。
【拙い文章ですが、最後までお読みいただきありがとうございます。ちょっと堅めだけど、こういう小説嫌いじゃない、先がちょっとだけでも気になっちゃったという方、評価などを頂戴できればありがたいです。感想もお待ちしています。作品の参考にさせていただきます】




